司法試験の勉強会

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司法権の限界とは?現役弁護士が解説

司法権の意義

司法権とは,形式的には「国家機関のうち裁判所に属する国家作用」を指すが(憲法七六条一項),その実質的意義は「具体的な争訟事件について法を適用し宣言することによってこれを解決する国家作用」 を指す(裁判所法三条一項参照)。
したがって,いかに重要な法律問題が裁判所に提起されたとしても,それが事件・争訟性の要件を満たさず,非現実的な仮定的または抽象的段階にとどまる限り,司法権行使の対象となるものではない(警察予備隊違憲訴訟の最判昭二七・一〇・八民集六・九・七八三)。
明治憲法下においては,司法権は右の作用の全部を意味しないで,民事・刑事の裁判に限定され,行政事件の裁判は行政機関の系統に属する行政裁判所に行わせるというやり方がとられていたので,今日的な意味での司法権からみれば限界があったといえる。

憲法の明文上の限界

実質的意義の司法権に属しながら,憲法が明文で裁判所以外の機関にその権能を委ねたものとして, 国会の各議院の行う議員の資格争訟の裁判(五五条),弾劾裁判所(裁判所の名はついているが,もとより 最高裁判所と審級関係にないので,司法権の帰属主体としての裁判所には含まれない)による裁判官の弾劾裁判(六四条)がある。なお,恩赦の法的性格を司法とみるならば,内閣による恩赦の決定(七三条七号) もこの例外に含まれる。

国際法上の限界

裁判所が実質的意義の司法権を行使できない場合として,一般国際法に基づく場合と特別の条約に基 づく場合とがある。
前者の例として,外交使節などの国際法治外法権の特権をもつ者に対しては,日 本の裁判権は及ばない。
後者の例として,日米安全保障条約に基づく協定によって,駐留軍の構成員・ 軍属・それらの家族に対する刑事裁判権には一定の限界が認められている。

性質上の限界

具体的な争訟事件にかかわる場合であっても,事柄の性質上裁判所の審査に適しないと認められる以 下のようなものがある。
1 他の機関の自律権にかかわるもの 各議院の自律権にかかわるものとして,除名を含む所属議員の懲罰,議長その他の役員の選任,定足数の充足の認定等の議事手続などが挙げられる。
この点につき,警察法改正無効事件における最判昭三 七・三・七民集一六・三・四四五は、両院において議決を経たものとされ適法な手続によって公布された法律につきその制定の議事手続の適否に対しては裁判所の判断は及ばない旨判示している。
なお,最判昭三五・一〇・一九民集一四・一二・二六三三は,地方議会によるその所属議員に対する懲罰のうち, 出席停止には裁判権は及ばないが除名のごとき重大事項には及ぶとするが,国会の各議院の場合とはその自律権の範囲にも相違があると解される。
2 他の機関の裁量にかかわるもの行政法規が行政機関を一義的に拘束していない場合には,一定の範囲内で行政機関に自由裁量が認められ,裁判所の審査が及ばない。
ただ,裁量の範囲を逸脱しまたは裁量権の準用があった場合には違法となって裁判権が及ぶ(行政事件訴訟法三〇条参照)。

同様に,憲法が立法機関を一義的に拘束していない場合には立法裁量が認められるが,裁量の範囲の逸脱ないし準用の有無については司法審査が及ぶ。
3 統治行為ないし政治問題といわれるものこの点は,項を改めて述べる。
4 その他国家機関でなくとも,団体の内部的事項については,原則としてその団体の自治的措置に委ねられて司法権は及ばないが,単なる内部規律の問題とはいえないような重大事項は司法審査の対象となる(最判昭五二・三・一五民集三一・二・二三四及び二八〇の二つの判決参照)。
憲法の規定中で直接の法的効力を有しないプログラム規定(例えば,二五条一項,二六条一項)を認める見解に立つと,右規定に基づく権利の主張には司法審査は及ばないことになる。
いわば逸脱・濫用の有りえない裁量ということになろうか。

統治行為ないし政治問題

統治行為ないし政治問題とは,政治部門の行為のうち,法的判断が可能であってもその高度の政治性故に司法審査の対象とされない行為をいう。
憲法八一条が裁判所に無条件の違憲審査権を付与していることから,このような概念を一切否定する見解もあるが,国民主権下の権力分立体制における司法権の 内在的制約に根拠を求めて肯定する説(内在的制約説),あるいは司法審査をした場合に収拾すべからざ る結果の生ずることを避けるため裁判所が司法権の行使を自制すべきことに根拠を求めて肯定する説(自制説)が有力である。
ところで,その範囲については,国家の承認・条約の締結などの外交活動といった対外問題が含まれる点では一致するが,衆議院の解散といった政治部門の相互関係を含むか,更に広く前記四の 1 の政治 部門の自律権にかんする事項や2の政治部門の裁量に委ねられた事項も含むかについては見解が一致しない。
判例では,砂川事件最判昭三四・一二・一六刑集一三・一三・三二二五が,日米安全保障条約につき,国の存立の基礎に極めて重大な関係をもつ高度の政治性を有するもので,その内容が違憲か否かの法的判断は政治部門の高度の政治的ないし自由裁量的判断と表裏をなす点が少なくなく,したがって一見極めて明白に違憲無効と認められない限り司法審査権の範囲外である旨判示したのを,裁量行為論を加味しながら統治行為論に拠ったものといわれている。
また,自衛隊違憲問題について,長沼訴訟の札幌高判昭五一・八・五行集二七・八・一一七五及び百里基地訴訟の水戸地判昭五二・二・一七判タ三 四五・一六六は,同様の論理をとって司法審査の対象外とした。
次に,苫別地事件の最判昭三五・六・ 八民集一四・七・一二〇六は,衆議院の解散につき,極めて政治性の高い国家統治の基本に関する行為であるとして,司法権の外であるとした。

 

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