司法試験の勉強会

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司法権と国民主権の関係をわかりやすく解説

はじめに

本問は,後に述べるように,国民主権原理と司法権の独立に関わる問題であることから,統治制度全体に関連する問題である。

司法権に対する民主的コントロールの特質

憲法は,国民主権原理を採用しており(前文,一条),統治制度は,国民の権威によって支えられ,国政は究極的には国民の意思に基づかなければならない。このことは,統治機構のうち,立法権,行政権 のみならず,司法権にも同じく妥当するものである。
しかしながら,他方で,憲法は,民主主義と並ぶもう一つの原理である自由主義の原理の一内容として,権力分立制を採り(四一条,六五条,七六条一項),とりわけ司法権については,その性質上,厳正かつ公正な権限の行使が求められることから,他の機関からの独立性が要請される(司法権の独立)。
したがって,司法権に対する民主的コントロールを考えるに当たっては,司法権の独立との調和に常に注意を払う必要がある。

各論

①他の統治権力に対するのと同様に,司法権に対する民主的コントロールとしては,1権力行使に当たる者の選定・罷免,2権力機関の組織に対するコントロール,3権力行使の内容に対するコントロールなどが考えられる。
②裁判官の選定・罷免
国民主権の下では,公務員は究極的には国民が選定罷免する可能性をもっていなければならない。この趣旨から,憲法は,国民の公務員の選定罷免権(一五条一項)を保障している。すべての公務員が国民 によって直接に選定され,また罷免の対象とされなければならないというわけではないが,司法権の行使に当たる裁判官の選定罷免も,究極的には,民主的コントロールに服さなければならない。

選定

憲法は,最高裁判所長官は,内閣の指名に基づいて天皇が任命し(六条二項),その他の最高裁判所裁判官は内閣が任命する(七九条一項),下級裁判所の裁判官は,最高裁判所の指名した名簿によって内閣が任命する(八〇条一項)と定めている。 内閣は,国民の直接選挙によって選ばれた議員から成る国会の議決により国会議員の中から指名される内閣総理大臣(六七条一項)と,内閣総理大臣が任命(六八条一項)・罷免権(同条二項)を持つ国務大臣で組織され(六六条一項),国会に対して連帯責任を負う(六六条三項)ものであるから,内閣の指名,任命権によって,裁判官の選定には民主的コントロールが及んでいる(なお,天皇の国事行為については内閣の助言と承認が必要で,かつ内閣が責任を負う(三条)ので,民主的コントロールに関しては,任命権が天皇,内閣のいずれにあるかは実質的な違いがない。) 。
最高裁判所の裁判官と下級裁判所の裁判官とでは,最高裁判所の指名名簿による拘束の有無に違いがあるが,国民に対する影響のより大きい最高裁判所の裁判官の選定については,内閣に委ねて民主的コ ントロールを比較的強く認め,他方,下級裁判所の裁判官については,そのようなコントロールを受ける最高裁判所の指名する名簿を通した,さらに間接的な形でのコントロールにとどめるもので,司法権の独立への配慮が示されている。

罷免

裁判官の罷免については,憲法上,二つの制度が定められている。裁判官弾劾裁判制度と国民審査制度である。
まず,裁判官は,司法権の独立の一環である裁判官の職権行使の独立の確保のために,身分保障がされているが,他方で,重大な非違のある裁判官を罷免する制度として,弾劾裁判の制度が設けられてい る(七八条)。
これは,国会が設ける,両議院の議員で組織する弾劾裁判所(六四条)の弾劾によって裁判官を罷免するもので,国会を介した間接的なコントロールである。 これに対して,国民審査制度は,最高裁判所裁判官についてのみ設けられており,国民投票により, 多数が裁判官の罷免を可とするときは,その裁判官を罷免するというもの(七九条二ないし四項)で,国民による直接的なコントロールである(ただし,厳密には,国民と投票権を有する有権者とは一致しな い)。
有権者による裁判官の適否についての直接的な判断は,司法権の独立に対して与える影響が非常に大きいが,最高裁判所違憲審査権を行使する終審裁判所で(八一条),規則制定権(七七条)や下級裁判所裁判官の指名権(前述)を有していることから,特にこれを認めたものである。

 

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