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日本国憲法における権力分立とは?わかりやすく解説


権力分立とは,国家の統治権の作用を分かち,これを各々別個の機関に独立してその権限を行なわしめようとする,国家権力の仕組み方についての一原理である。その目的は,右別個の各機関の独立と相互の抑制均衡によって,国家の権力が一手に集中され,その者により権力が濫用されることを防止し, 国家の権力から国民の自由を守ることにある。

 


権力分立の特性を挙げるならば,右に述べた定義,目的からも明らかなように,まず第一に,権力分立の究極のねらいは,国家権力から国民の自由を守ることにある,という意味で自由主義的原理である。
第二に,積極的に権力の行使の能率を高めるというのではなく,むしろ逆に,各機関の間の不可避的な摩擦により消極的に権力の濫用を防ぐ,という意味で消極的原理である。
第三に,国家権力やそれを行使する人間に対する不信任から出発している,という意味で懐疑的原理である(ジェファーソンの言葉に「自由な政府は,信頼ではなく,猜疑に基づいて建設せられる。」というのがある。)。
第四に,権力分立の原理は,専主制であれ民主制であれ,どのような権力においても適用の余地がある,という意味で政治的中立性を有する原理である。



その内容は,一言で言えば,権力を区別し,分離し,その均衡をはかることである。
即ち,まず国家権力をその性質に従っていくつか(後に述べるように日本国憲法などがとる三権分立では立法,行政,司法の三つ)に区別する(権力の区別)とともに,その区別された権力が異なる機関により担当されるよう, 権限を分離し,かつ兼職の禁止により権限を行使する機関の構成員たる人を分離することが必要である (権力の分離)。
その上で,いずれの機関,いずれの権力からも国民の自由を守るために,各機関,各権力間が互いに抑制しあい,均衡を保つよう,はかるわけである(権力の均衡)。
ところで,各権力の抑制・均衡をはかるとすると,各権力が互いに影響を及ぼしあうことにより,厳密な意味での権力の分離・独立が動かされ変容することになる。
このことがまた権力分立制が,各国により様々な形態をとる一因ともなる。
そこで以下,日本国憲法における権力の区別,分離とその間の抑制・均衡の制度の特色を見ていくことにする。



日本国憲法は,四一条で「国会は,......国の唯一の立法機関である。」と規定し,六五条で「行政権は,内閣に属する。」と規定し,七六条一項で「すべて司法権は,最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。」と規定して権力分立主義(三権分立主義)を採用し,国家権力を立法権,行政権,司法権に区別し,それぞれの権力を国会,内閣,裁判所の各機関に担当させることを明らかにしている。
ところで,日本国憲法における権力分立の特色(ないし三に述べた意味での変容)は,次の三点に顕著である。
まず第一に,四一条は「国会は,国権の最高機関であって......」と定める。
三権のうちの一機関が国権の「最高」機関というのは,仮にそれが法的意味を持つとすれば,純粋な権力分立制度からはおかし いことになる。
これについては,この規定は明治憲法天皇中心主義を否定し,主権の存する国民の代表機関たる意味において,国会が国政の中枢的地位にあることを政治的に強調したにすぎず,法的意味はないとするいわゆる政治的美称説が支配的である。
なお,この法的意味をより積極的にとらえる見解としては,国会には,三権の間の権力の総合的調整的作用があり,その権限が国家機関のいずれに属するか不明なものは当然に国会の権限に属するものと推定される,とするいわゆる総合調整機能説などがある。
第二に,憲法は,内閣がその成立及び存続につき国会の信任に依存し,その責任を国会に対して負うという議院内閣制を採用している。
この議院内閣制は,立法権と行政権の関係について分離・独立を旨とする(その意味で権力分立制度に忠実な)大統領制(例えばアメリカ合衆国)とは異なり,連結・共働に重点を置いたものである。
即ち,内閣の成立と存続が国会の意見に依存することによって行政府は立法府のコントロールをかなり強く受けることになるが,その代わり,主権者たる国民-国会-内閣という直線的な連結というものが民主主義の実現に適するばかりでなく,行政府が立法府と密接に結びつき,立 法府を背景としてこれと共働することによりその行動に柔軟性と弾力性とが与えられ,国政の円滑な能率的遂行が期待されるというメリットがある。
第三に,八一条は「最高裁判所は,一切の法律,命令,規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」と規定し,裁判所に違憲立法審査権を与えている。
裁判所が立法権及び行政権に対し,大きな抑制機能を有しているわけである。



ここで,国会,内閣,裁判所間の関係について,抑制・均衡をはかるための具体的な規定をいくつかかかげると次のようなものがある。

(1)国会と内閣の関係
国会からの抑制は,主として右に述べた議院内閣制に基づくものであるが,内閣総理大臣の指名(六七条),内閣不信任決議(六九条),内閣の国会に対する連帯責任(六六条三項)など。 内閣からの抑制は,国会の召集,衆議院の解散,総選挙の施行の公示はいずれも天皇の国事行為(七条, 二,三,四号)で,内閣が実質的に決定することになる。

(2)国会と裁判所の関係
国会からの抑制は,最高裁判所の構成(七九条一項),下級裁判所の設置及び構成(七六条一項),裁判官の定年(七九条五項)などを法律で定めること,弾劾裁判所の設置(六四条)など。 裁判所からの抑制は,違憲立法審査権(四参照)。

(3)内閣と裁判所の関係

内閣からの抑制としては,最高裁判所の長たる裁判官の指名(六条二項),その他の裁判官の任命(七九条一項,八〇条一項)など。 裁判所からの抑制としては,四に述べた違憲立法審査権行政処分の審査権(七六条二項)などがあげられる。