司法試験の勉強会

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規則制定権とは何か、わかりやすく解説

規則制定権の意義・制度趣旨

現行憲法は,1訴訟に関する手続,2弁護士,3裁判所の内部規律及び4司法事務処理に関する事項 について,最高裁判所に規則制定権を付与し(七七条一項),更に下級裁判所に関する規則の制定権は下 級裁判所に委任することもできるとして(同条三項),司法内部の諸事項について裁判所に自主立法権を 認めた。これは,明治憲法下では存在しなかったものである。

権力分立の見地

 憲法は,基本的人権を永久不可侵のものとして保障し(一一条,九七条),国家権力の集中によって生 ずる権力の濫用から国民の自由権を確保するために,立法・行政・司法の各権力を分離独立させて,そ れぞれ異なる機関に担当せしめ,互いに他を抑制し,均衡を保つようにする制度(三権分立)を採用した (四一条,六五条,七六条一項)。この結果,裁判所が司法権を担当する独立の機関とされたが,司法権 の独立を実効あらしめ,法の支配を実現するためには,個々の裁判官の職権行使の独立の確保(これは裁 判官の身分保障によって担保される。)とともに,その前提として,組織体としての裁判所(司法府)の独 立,すなわち,政治部門(議会や内閣)による干渉を排除し,裁判所が自主的に活動できる環境を確保す ることも不可欠である。規則制定権は,まず第一に,かかる裁判所の自主独立性を確保するための手段 のひとつとして定められたものと解される。

技術的見地

また,裁判の運用という技術的・専門的見地から見ても,裁判の手続的・細目的な事項については, その実際に通じている裁判所自体に実際に適した規律を定めさせるのが適当である。そこで,一定の事 項については裁判所の専門的知識と実際的経験とを尊重すべきものとして規則制定権を設けたと解される。

規則制定権の位置づけ

ところが,憲法は他方で,主権者たる国民の代表者からなる国会を国権の最高機関とし,「唯一の立 法機関」であるとして(四一条),国の立法はすべて国会を通し,国会を中心として行うべきこと(国会中 心立法の原則)と,法律が国会の議決のみで成立すべきこと(国会単独立法の原則)を要請している。
では,この四一条と最高裁の規則制定権とはどのような関係にたつのだろうか。その前提として,「立法」の概念をどう捉えるかが問題となる。  
この点,「立法」とは国民の権利・義務に関する法規範の制定であると狭く解する見解(清宮二〇四頁, 四一六頁)もあるが,国民の生活にかかわる重要なものはすべからく国会の意思で定めるものとしたほう が民主主義の精神に合致し,国会を唯一の立法機関とした趣旨にも沿うと思われる。
しかも,現代では, 福祉国家化に伴って行政権が肥大化した結果,行政組織の活動による人権侵害の危険性が増大している から,国会による国政への民主的コントロールを広く行政組織にまで及ぼす必要があり,そのためにも 立法の概念は広く解するのが適当である。
したがって,四一条の「立法」とは,一般的抽象的法規範を 意味する広い概念であると捉えるべきである。  
そうだとすれば,最高裁による規則制定権の制定も四一条の「立法」に含まれることになり,右規則 制定権は,憲法自らが四一条の国会中心立法の例外として定めたものと位置づけることになる。  
ただし,後述五 1 の佐藤幸治説は,前記34に関する規則制定権は四一条の例外にはあたらないとするようである(佐藤幸治一〇七頁)。

規則制定権の範囲

規則によって定めうる事項(規則所管事項)の範囲は,原則として,前記七七条一項所定の1ないし4 の事項に対して広く及び,逆にそれ以外の事項には及ばない(仮に定めたとしてもその規則は無効である) が,次の点に注意すべきであろう。
(一)  1のうち,裁判所の機構や管轄権は,国家の権力機構の根幹にかかわる問題であり,法律事項と解す べきである(佐藤幸治二二七頁)。また,裁判官の懲戒に関する事項は含まれるが,弾劾裁判は司法裁判 所の行うものではない(七八条,六四条)から,弾劾裁判に関する事項は除かれる。更に,2は弁護士に 関する事項のうち訴訟にかかわる事項のみであり,弁護士の職務・資格要件・身分等については,職業 選択の自由(二二条一項)にかかわる問題でもあるため,法律で定めるべきものと解すべきである。  問題となるのは,1と三一条(適正手続の保障)との関係であり,刑事手続の基本原理・構造や被告人 の重要な利益に関する事項については法律のみが定めうるとする見解もあるが,七七条一項が何らの留 保なしに規則事項を列挙していることから,法律に規定のない限り規則で定めることも可能と解してよ いのではないか(清宮四三七頁,佐藤幸治二二七頁)。なお,判事補の参与を定めた規則に関する最決昭 和五四・六・一三(刑事最判解説 15 事件)参照。
(二)  同条項所定以外の事項であっても,司法権に関する限り,法律の委任がある場合には定めることがで きる(書研の憲法概説・改訂版一五一頁)。なお,規則事項を改めて法律が委任したケースとして最大判 昭和三三・七・一〇(民事最判解説 82 事件)参照。

法律との関係

規則事項を法律で定めることもできるか。  国会が「唯一の立法機関」とされ,立法は法律の形式によるのを原則としていることに鑑み,法律で 定めることも可能と解してよかろう(最判昭和三〇・四・二二刑事最判解説 52 事件。裁判官分限法の合 憲性を前提に判断した最大決昭和二五・六・二四裁判所時報六一号六頁も同旨と思われる)。  ただし,前記二(一)の趣旨を重視し,裁判所の自律権に直接かかわる34については,裁判所の内部 的作業方法及び規律の自主的決定権を確認したものにすぎず,規則だけが定めうる排他的所管事項だと 解する見解もある(佐藤幸治二二七頁)。

規則と法律との効力関係

右の問題を肯定した場合,法律と規則とが競合する所管事項(競合的所管事項)が生ずるため,更に,規則と法律とが矛盾したときにそのいずれを優先すると解すベきか,が問題となる。この点,規則優位 説,同位説(優劣関係はなく,前法・後法の関係で捉えて原則どおり後に制定されたほうが優先すると解 する説),法律優位説が考えられるが,右 1 で規則事項を法律で定めることもできると解したのと同様の 理由から,法律が優先すると解すべきだろう。  なお,最近,両議院の規則制定権(五八条二項)に関しては,議院自律権を重視する立場から,規則優 位説(法律との競合的所管を認めつつ規則が優先適用されるとする説,議院活動に必要な事項を規則の専 属的所管事項とする説など)が有力になっており,今後,最高裁の規則についても同様の議論のなされる 可能性がある。もっとも,たとえ規則優位説にたつとしても,刑事手続の基本原理・構造など国民の権 利・義務に直接かかわる事項については,前記四(一)のとおり,三一条との関係上規則では定めえない とする見解もあるくらいであるから,法律が優先すると解すべきであろう。

手続き,効力

最高裁判所規則は,最高裁の裁判官会議の議によって制定され(裁判所法一二条),官報で公布される。 代表的なものとしては,民事訴訟規則,刑事訴訟規則などがあり,また,近時公布された民事保全法は, 各種申立書の記載事項,審尋調書及び口頭弁論調書の作成及び記載事項などを含む裁判所の内部手続に 関する事項は最高裁判所規則で定めるものとして(同法案八条)規則への広汎な委任を定めている。

最高裁判所規則は,内部事項に限られないから,検察官(七七条二項)その他関係者すべてを拘束する。