司法試験の勉強会

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最高裁判所の5つの権能とは?わかりやすく解説

最高裁判所の権能として以下の5つが上げられる

1 一般裁判権

 最高裁判所も裁判所の一つとして一般裁判権を有する(憲法七六条一項)が,特別裁判所や行政機関に よる終審裁判が禁止された(七六条二項)ことから,最高裁判所は,一切の法律上の争訟について最終的 な判断を下す権能を有している。これにより,下級裁判所の間の法令解釈や判例を統一する役割を果た している。最高裁判所の法的判断が,当該事件について下級裁判所を拘束することは明文の規定(裁判所 法四条)があるが,同種の他の事件についても事実上大きな影響を及ぼすことは否定できない。

2 規則制定権

 最高裁は,「訴訟に関する手続,弁護士,裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について」 規則制定権を有する(憲法七七条一項)。憲法が国会を唯一の立法機関と定めた(四一条)例外であるが,こ の権能が与えられた根拠は,1権力分立の見地から,右のような事項について裁判所の自主独立性を確 保すべきであること,2技術的見地からみても,裁判の実際に通じている裁判所に,実際に適した規則 を定めさせるのが適当であること,である。  規則で定め得る事項は,本条に列挙されている事項に限る。ところで,この列挙事項は,規則のみの 専属的所管事項であるのか,それとも法律でも定め得る,規則と法律との競合的所管事項であるのか, という問題がある。この点は,憲法が国会を唯一の立法機関と規定し,立法は法律の形式によるのを原 則とし,また本条項の列挙事項についても,例えば刑罰を課するには法律の定めを要するとしている(三 一条)点から判断して,競合的所管事項であると解するのが妥当であろう(清宮等多数説)。  次に競合的所管事項だとすると,法律と規則とが競合する場合には,どちらが優位に立つであろうか。
学説の対立があるが,右に述べたように,四一条及びそこから導かれる,法律が憲法の下ではもっとも 強い形式的効力を持つべきであるという原則からして,法律優位説をとるのが妥当であろう(宮沢,清 宮)。

 

3 法令審査権

(1)
 最高裁判所は,「一切の法律,命令,規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限」を 有する(八一条)。いわゆる法令審査権である。  純法律論的に考えれば,憲法は国の最高法規であり,その条規に反する法律,命令その他の国家行為 は無効であることは明らかである。しかし,いかなる機関に,どの程度に国家行為,法令の合憲,違憲 の審査権を与えるかは,各国の制度により異なる。基本的に法令審査権を認めないもの,政治的機関に 認めるもの,司法的機関に認めるもの等があり,また司法機関に認めるものでも,特別の憲法裁判所を 設け,具体的な訴訟事件と関係なく抽象的な審査を行なう憲法裁判所型と,通常裁判所が具体的訴訟事 件を裁判する前提として審査を行なう付随的審査型とがある。  わが国の制度は,司法機関に法令審査権を認めているが,一般に司法機関,即ち裁判所による法令審 査権が認められる理由としては,1憲法最高法規性(九八条一項)に照らし,憲法に反する国家行為は 当然無効とされるべきであるという法理論的理由,2権力分立の原則に基づき,憲法の解釈適用につい て立法部に対する司法部の自主独立性を認めようとする政治的,制度的理由,3これにより他の国家機 関,特に立法府の専横から国民の基本権を守り,裁判所を憲法の番人にしようという実際的理由,の三 点が考えられる。  次に,わが国の制度は,右に述べた憲法裁判所型のように抽象的審査を認めているのか,付随的審査 型なのか争いがある。  抽象的審査を認める見解は,八一条を,最高裁判所が通常の訴訟での終審裁判所であることと,法律 の合憲性を抽象的に審査しうることの二つを定めた規定であると解する。しかし,付随的審査制をとる と解するのが通説的見解である。その理由としては,第一に最高裁判所の法令審査権を定めた八一条は, 第六章「司法」の中に位置しているが,司法とは具体的な法律上の争いを裁判する作用を言うのである から,八一条の定める権限も,司法裁判所としての最高裁判所の有する権限とみるべきであること,第 二に司法権の行使とは無関係に抽象的法令審査権を最高裁判所に与えるには,積極的明示規定が必要で, 提訴権者,裁判の効力等に関する規定がなければならないことがあげられる。最高裁判所も,付随的審 査制をとる旨の見解を表明している(最判昭二七・一〇・八民集六・九・七八三。いわゆる警察予備隊事 件)。なお,現行制度は憲法裁判所を認めていない,という前提に立ちつつ,八一条は法律によって最高 裁判所に憲法裁判所としての権限を与えることを禁じていないとして,法律又は最高裁判所規則により 抽象的審査を可能にすることもできるとする見解もある。
(2)
 法令審査権の対象は,「一切の法律,命令,規則又は処分」である。最も問題となるのは,条約が審 査の対象となるかどうかである。  審査肯定説(鵜飼,小林)は,合憲性の審査から条約を除くという明文規定がない限り,全憲法体制か らいって条約の審査権は認められるべきだとする。これに対して否定説(清宮,佐藤)は,条約は特に八一条の列挙から除外されていること,条約は国家間の合意という特殊性をもつこと,条約は極めて政治 的な内容を含むことが多いから,裁判所の審査の対象とするに適さないことなどを理由とする。否定説 が妥当であろうか。なお,条約それ自体は審査の対象とはならないとしながら,国が条約では単に将来 の立法を約したり,一般的な政策を宣言したにとどまる場合には,それを具体的に実施する法令の違憲 性を判断するための前提問題として審査する限り審査可能である,とする見解(橋本,伊藤)もある。
(3)
 最後に,最高裁判所により違憲の判断を受けた法令の効力が問題となる。この点については,当該事 件についてのみ法令の効力が否定されるとする個別的効力説と,法令そのものを客観的に無効とすると する一般的効力説とがある。しかし右に述べたように,法令審査権自体が付随的審査制をとり,具体的 訴訟事件を解決するための前提として審査権が認められるのだから,その効果も当該事件に限られると 解するのが妥当であること,仮に法令そのものを客観的に無効にすることができるとすれば,それは消 極的立法作用にほかならず,代表民主制,四一条の基本原理を破ることになること,などから考えて, 個別的効力説をとるのが妥当であろう。

 

4 下級裁判所の裁判官指名権

 下級裁判所の裁判官の任命権は内閣に属するが,それは最高裁判所の指名した者の名簿によって行な う(八〇条一項)。これは司法権の独立を維持するために,人事権を実質的に最高裁判所に委ねた趣旨で ある。内閣は,名簿に載せられていない者を任命することはできない。これは八〇条一項の文言上当然 である。名簿に載せられている者の任命を拒否することができるかどうかについては争いがあるが,任 命権者はあくまでも内閣であるから,拒否できると解すべきであろう(清宮)。

 

5 司法行政監督権

司法権の独立を確保するためには,行政権等他の権力による司法行政への介入を排除することが必要 である。最高裁判所は法律によって,最高裁判所の職員並びに下級裁判所及びその職員を監督する権能 を与えられている(裁判所法八〇条一号)。

 

 

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