司法試験の勉強会

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中止未遂とは?わかりやすく解説

意義


中止未遂とは,実行行為に着手した者が,自己の意思によって犯行を止めた場合を言う。この場合,刑は必要的に減軽されるか免除される(刑法四三条但書)。
この刑の必要的減免がいかなる根拠に基づくものかについては,見解が分かれている。
まず,刑事政策説は,中止を寛大に扱うことにより犯罪の完成を防止するためという刑事政策的考慮がその根拠であるとする。
これに対し法律説は,中止により犯罪の成立要件のいずれかが減少・消滅するとし,違法性減少・ 消滅説と責任減少・消滅説に分かれる。
現在は,わが国の刑法が刑の必要的免除ではなく減軽または免除としているため犯罪防止の効果は充分あがらないのではないか,あるいは中止犯の規定を知らない人には政策的意味がないのではないかといった疑問から,刑事政策説のみを根拠とする論者は少なく,法律説と刑事政策説を併用する論者が多いが,特に実務家には政策説的発想が強いとも思われる。
いずれにしても,この点は,自分が解りやすい考え方を決めてそれに従って説明すれば足りよう。


要件


1 犯罪の実行に着手したものであること
中止犯が未遂の一態様として規定されていることによる要件である。この点に関しては,予備・陰謀 の段階で犯行を思い止まり,実行の着手に至らなかった場合にも四三条但書を準用してもよいのではないかという主張がなされている。
肯定説は,準用を認めなければ,例えば強盗の予備行為をしたものが実行行為に及ぶ前にこれを自己の意思により思い止まった場合二年以下の懲役となるが(刑法二三七条), 実行行為に出たのち中止すれば刑の免除を得ることも可能となるのは不均衡であるとする(殺人予備の場合は準用を認めなくとも免除可能なのでさほど問題とならない。刑法二〇一条)。
特に法律説に立つ場合,予備段階の中止の方が違法性あるいは責任が低いと考えられるため強く主張される。肯定説に立つ場合, 減軽の基準となる刑は既遂罪の刑と考えられている。
これに対し,判例は強盗予備,殺人予備のいずれの場合についてもこれを否定し(大判大五・五・四刑録二二・六八五,最判二九・一・二〇集八・一・四一),一部の学説がこれに賛成する。
否定説の根拠としては,四三条の文理のほか特に政策的観点から,実行に着手した後は中止することが困難となるからこそ必要的減免の必要があるということが言われて いる。

2 「自己の意思により」犯罪を中止したこと
この要件に関しては,いかなる場合に自己の意思による中止と言い得るかが問題となる。
第一説は,一般の経験標準に照らして未遂となるに至った原因が通常犯罪が既遂となることに妨害を与えるべき性質のものであれば障害未遂,そうでなければ中止未遂と考える。
第二説は, 改悔,慚愧,恐懼,同情,憐愍など「広義の後悔」に基づくものであることを要すると考える。
第三説は,外部的障害がないのに行為者が自由な意思決定により中止する場合と考える(「例えできたとしても成し遂げることを欲しない」場合が中止未遂,「例え欲したとしても成し遂げ ることができない」のが障害未遂)。
但し,この外部的障害とは, 物理的客観的に存在する必要はなく,心理的なもの,あるいは行為者が存在すると誤信した場合も含むと考えているようである(例えば,警察官が来たと誤信して中止した場合)。
第一説は主観主義刑法理論, 第二説は責任減少説,第三説は違法性減少説と結びつきやすいとも言われるが,論理的必然性とまでは言えない。従来,通説は第一説と言われてきたが,近時は第三説が有力なようである。判例は,古くは 第三説的な表現をとるものが多かったが,近時は第一説的な表現をとるものが増えており,他方,実質的には広義の悔悟に当たる場合しか認めていないとの指摘もある。具体的には,放火の時刻が遅く発火が払暁に及ぶ虞れがあり犯行の発覚を恐れて止めた場合(大判昭一二・九・二一集一六・ 一三〇三),強姦の意思で被害者の陰部に手指を挿入したところこれが血に染まったことに驚愕して止めた場合(最判昭二四・七・九集三・八・一一七四),実母を殺そうとバットでその頭部を一撃し,既に死亡したものと思っていたところ,これが意識を取り戻し血を流して苦しんでいるのを見て驚愕して止めた場合(最決昭三二・九・一〇集一一・九・二二〇二)等につき中止未遂の成立を否定している。この点も,自分の解りやすい考え方を説明すればそれで足りよう。

3 「之を止めた」こと
行為者が犯罪が完成に至るのを阻止したことである。実行行為が終了する前であれば単に以後の行為を止めれば足りるが(着手中止),終了後であれば結果防止のための作為が必要となる(実行中止)。
例えば,人を殺そうと考えピストルで狙いを付けたが,その段階で思い止まればそれだけで中止犯となるが, ピストルを撃って人を傷つけた場合はその手当てをして死の結果の発生を防止しなければならない。そこで,実行行為がいつ終了するのかが問題となる。
例えば,連発銃で一発目を発射したが命中しなかった場合,実行行為は終了していると考えれば,結果発生防止のための努力の余地がなく中止未遂の可能性が無くなるため問題となる。
この点に関して,主観説は行為者の計画内容を基準に判断し,行為者が 二発撃つ予定であったのならば実行行為は終了していないと考える。
これに対し客観説は,客観的に既遂に達し得る行為がなされれば既遂に達すると考え,一発目を撃てば実行行為は終了するとする。近時は,因果関係を遮断しなければ結果が発生してしまう状態が惹起した場合(例えば,放置すると出血多量で死亡するような傷害を負わせた場合)には実行行為が終了し,そうでない場 合,なお二発目が発射し得る状況があれば実行行為は終了していないと考える見解が多いようである。
実行行為が終了している場合,中止未遂を認めるためには結果発生防止のための真摯な努力を必要とする。この努力は,他人の手を借りてもよいが,行為者自身が結果の防止に当たらないときは,自ら防止に当たったのと同視し得る程度の努力が払われたことを必要とする(大判昭一 二・六・二五集一六・九九八)。例えば,医者を呼び,これが到着して治療に当たるまで被害者に付き添い介護に当たるなどである。


4 結果の不発生
例え結果発生のための真摯な努力がなされたとしても,結果が発生してしまった場合はもはや既遂であるから,中止未遂を認める余地はない。この場合も中止未遂と同視すべきとの見解もあるが,文理上無理があるうえ,現に結果が生じていることを軽視するべきでなく妥当でないと言われている。
結果の不発生が行為者の防止行為との間に因果関係がない場合について,判例通説は中止犯の成立を否定するが(大判昭四・九・一七集八・四四六),その実質に着目して肯定する見解も有力である。

効果

中止犯が認められる場合は,刑が必要的に減軽または免除される(刑法四三条但書)。