司法試験の勉強会

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【ゼロから始める法学ガチ解説シリーズ】共同正犯とは?事例問題で答案の書き方も併せて解説

 甲と乙は,かねてから恨みを抱いていたAに乱暴しようと相談して,言葉巧みに誘い出したAに対し,二人で一緒に殴るけるの暴行を加えた。暴行を加えているうちに,乙は,かねてからのAに対する恨みが高じて,暴行の結果Aが死ぬことがあるかもしれないがそれでも構わないという気持ちになっていた。一方,甲は,Aがぐったりとしてきたので,もう十分に恨みは晴らしたと考え,なおもAに暴行を加えている乙に,「おれはもう帰る。」とだけ言い残して,その場を立ち去った。その後も乙はAに殴るけるの暴行を加えていたが,Aは,次第に衰弱して,遂にその場で死亡してしまった。乙は,Aが死んだので,その場から逃走しようとしたが,たまたまAの着衣のポケットにAの財布が見えたので,これを自分のものにしようと考え,ポケットから抜き取って持ち去った。

甲及び乙の刑事責任について論ぜよ。

 

 

共犯関係での書き方

 

 基本的には,実行行為をすべて行った者から記載するのがよい。共謀者や本問の甲のように一部実行行為を行っていない者については,他者の行為を帰責できるかが問題となることが多く,前提として実行行為者の行為を認定しておいた方が楽であるし,また,理論的にも妥当である。

 したがって,以下では,全ての実行行為に関与していた乙から記載し,その乙の行為及び甲が自ら行った行為により,甲がどのような罪責を問われるかを検討する。

 

乙の刑事責任について

行為の抜き出し

  ① 甲と共謀の上,甲と共にAに殴る蹴るの暴行を加え,甲が帰宅したあともAに殴る蹴るの暴行を加え,Aを死亡させた行為

  ② Aの着衣のポケットから財布を抜き取った行為

①の行為について

 殺人罪(刑法199条)の成否を検討する。

 乙は,Aに対して甲とこもごも暴行を加え,Aがぐったりして甲が帰ったあとも,Aに暴行を加え,Aは次第に衰弱していき,死亡するに至ったものである。

 このような乙のAに対する苛烈な暴行は,人の生命侵奪の危険性の高い行為であったといえ,殺人罪の実行行為に該当する。

 また,乙は,暴行の結果Aが死ぬことがあるかもしれないがそれでもかまわないとしてこれら行為を行っており,自身の行為がAの死をもたらし得る行為であることを認識し,Aの死の結果が生じることを認容しているのであるから,殺意も認められる。

 以上から,乙の①行為については殺人罪が成立する。

 なお,後述のとおり,甲については共犯関係からの離脱は認められず,乙の行った行為も含めて帰責されるが,甲に殺意はないのであるから,同行為につき,甲との間では傷害致死罪の限度で共同正犯(60条,205条)となる。

②の行為について

 乙はAの死亡後に財物奪取の意思を生じ,Aが所有及び占有していた財布につき,その占有取得を開始している。

 そこで,同行為につき,占有離脱物横領罪(254条)が成立するにすぎないのか,それとも窃盗罪(235条)が成立するかが問題となる。

 この点,死亡結果を発生させた行為者との間では,時間的場所的接着性が認められる限度では,その死者の生前の占有はなお継続して保護に値すると考えられる(最判昭和41年4月8日刑集20巻4号207頁)。

 本件で,乙はAを殺した直後に財布について領得意思を生じているのであるから,Aの生前の占有は,その財物奪取時においても保護されていたといえる。

 したがって,乙の②行為は,財布に対するAの生前の占有を侵奪したものといえ,「他人の財物を窃取した」といえるので,窃盗罪に該当する。 

罪数

 以上より,乙は,①の行為につき,殺人罪(前記のとおり傷害致死罪の範囲で共同正犯)と,②の行為につき,窃盗罪の刑事責任を負い,①と②の関係は併合罪(45条前段)となる。

 

甲の刑事責任について

 

問題の所在

甲は,乙と共にAに対して暴行を加えることを企て,実際に加えていたのであるから,その間の行為については,共同して暴行したといえ,少なくとも暴行罪ないし傷害罪の共同正犯(60条,208条ないし204条)が成立することに問題はない。そして,その後,Aは死亡するに至っているが,Aが死亡した段階においては,甲はすでに現場から立ち去っていたので,Aが死亡した原因が甲が現場にいた際に行われた両名による共同暴行を理由とするものか,甲が現場から離れたあとの乙のみによる暴行を理由とするものか明らかでない(問題文をみる限り,乙のみによる暴行により,Aが死亡したと解釈して問題ないとは思われる。)。

したがって,甲にAの死亡の結果を,傷害致死罪(205条)として問うことができるかの検討として,すでに両名の共犯関係が解消されたとすれば,甲にA死亡の責任を問い得ない場合があるので,甲が「おれはもう帰る。」と言ったことにより,共犯からの離脱が認められるかを検討することとなる。

 

因果的共犯論

 共犯を論じる上では,因果的共犯論を理解しておくことが肝要である。

 多くの共犯問題が因果的共犯論をベースとして説明でき,近時の判例も,共犯関係からの離脱や承継的共同正犯などにおいて因果的共犯論をベースとしているとみられる判断をしている。

 

 因果的共犯論とは,実行行為を行っていない者がなぜ責任を負い,処罰されるのか(共犯の処罰根拠論)にき,他者を介して結果に対する因果性を自らの行為により創出したからであるとするものである。

 

 この因果的共犯論をベースとして,各論点につき,以下の通りの説明ができる。

 まず,共同正犯か狭義の共犯かについては,正犯性の有無により決されるところであるが,正犯性が認められるかは自らが行った役割の重要性,言い換えれば自らが作出した結果への因果的寄与の重要性が問題となる。

 次に,承継的共同正犯については,因果的共犯論からすれば,結果に因果を及ぼし得ない犯罪の成立部分については,その責任を負わないこととなる(最決平成24年11月6日刑集66巻11号1281頁を参考にしてほしい。)。

 また,共犯関係からの離脱についても,次に述べるように因果的共犯論による判断基準の解決を図ることが可能である。

 

共犯関係からの離脱についての論証

 甲が帰ると述べた時点で,共犯関係からの離脱が認められるかが問題となる。

 共犯者が他人の行為によって発生した結果について帰責される処罰根拠は,他者を介したり意思を通じ合うことにより自ら結果に対する因果性を作出した点にある(因果的共犯論)と考えられるところ,一度成立した共犯関係からの離脱が認められるためには,自らが作出した因果性を消失させる必要があると考える。

 本件において,甲は乙との間でAをこもごも暴行を行うことを企て,それに従って実行に着手していたところ,両者の間でAに対して暴行を加えることにつき,心理的に補強し合っていた。また,Aがぐったりしてきたのは,甲も関与していた共同暴行によるものであって,犯行継続が可能な状態がなお続いている状況を作り上げていた,すなわち,このような状況を作り上げることにつき,物理的に因果性を及ぼしていたといえる。

 このような状況において,甲が因果性を消失させるためには,乙に対し,これ以上の暴行をやめるように説得を行い心理的な影響力を遮断したり,Aを助け出して暴行が物理的に不可能な状態にするなどの措置を講ずる必要があった。それにもかかわらず,甲は単に帰ると述べただけであり,甲の作出した因果性はその後も十分に残存していたといえる。

 また,乙は前述のとおり引き続き暴行を加えていた,すなわち,新たな意思に基づき暴行を加えていたわけではない。

以上からすると,甲は共犯関係から離脱したものではないので,甲が帰宅した後の乙によるAに対する暴行も,甲はその責任を負う。

 

何罪の範囲で共犯関係が成立するか-部分的犯罪共同説

 ※ 本件では些末な話であるので,端的に書くこと(論じなくてもいいレベル)。

 もっとも,甲は乙とは異なり,Aに対して死んでも構わないという意思はなく,殺意は認められないので,傷害致死罪の限度で犯罪が成立する。

 このように,共犯関係にある者の中で罪名が異なる犯罪を行った場合に,どのように処理するかが問題となるも,乙の達成した殺人罪と甲の達成した傷害致死罪は構成要件は異にするものの,単に殺意の有無が異なるだけであり,行為態様や保護法益において共通性を有するから,軽い傷害致死罪の限度で犯罪を共同したとして,共同正犯性を肯定することができる(部分的犯罪共同説)。

 したがって,甲は,傷害致死罪の共同正犯(60条,205条)の刑事責任を負う。