司法試験の勉強会

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共謀共同正犯とは?わかりやすく解説【事例問題あり】 

甲・乙・丙の三人は,遊興費欲しさに,相談のうえ,A宅から金品を盗み出すことにした。 ところが,犯行当日になって,丙は,犯行に加担するのがいやになり,甲・乙に「自分は犯行を 止めた。君達も止めたらどうか。」。と話し,甲・乙も丙に「君が止めるなら自分達も犯行を断念 する。」と話した。しかし,遊興費の欲しい甲・乙は,A宅からやはり金品を窃取しようと考え, その夜A宅に行き,乙が玄関前で見張りをし,甲がA宅に侵入したところ,甲はAに発見された ため,所携のナイフを同人に突き付けで脅かし,同人から現金五万円を強取した。甲・乙・丙の 刑事責任について論ぜよ。

 

(一) 本問において,乙・丙はいずれも甲の犯罪の実行行為そのものを分担しているとはいえないと考えら れる。そこで,甲との何らかの関係を有する乙・丙についての罪責が問題となる。
判例は当初,知能犯について共謀共同正犯を認めていたが,やがて大判昭和 11 年5月 28 日によって, すべての犯罪に共謀共同正犯の理論を拡張するに至った。
共謀共同正犯とは,実行行為に加担しない者 も,犯行の謀議に参加することをもって,共同正犯として可罰的であるとする考え方であり,その理論 的根拠は,共同正犯は,二人以上の者が一身同体のごとく互いに寄りあい助けあって各自が共同意思の もとに犯罪を実行するところにあるわけだから,全員が実行分担をする場合と,謀議者のうち一部の者 が実行を分担する場合とでは,共心協力の作用ということでは価値的に異ならない,とする共同意思主体説に支えられていた。
つまり,数人の共謀によって,同心一体的な共同意思主体が成立する。その中 の一人の実行は,このような共同意思主体そのものの活動にほかならないと考えるのである。そのため, 共同意思主体を犯罪の主体と考えるのは,団体責任を認めることになり,近代刑法の個人責任の理念に 反するという学説の批判(団藤重光)を受けるに至った。
そこで,共謀共同正犯について,別個の観点よ り理論化する試みがなされ,目的的行為支配説(平場安治)或いは,共謀者が相互に間接正犯の関係にあ ると説明する見解(藤木英雄)などがある。
しかしながら,批判的見解は,実行行為に及ばない共謀者を 正犯と把えることは疑問とし,実定法上,実行の共同が必要であるとしている。最高裁判所最判昭和 33年5月28日により,個人責任の方向から共謀共同正犯を根拠づけており,以下この考え方によって 論述したい。


(二) そこで,甲・乙・丙間で一端は,A宅で金品を盗み出すことの謀議が成立したが,丙は犯行の実行に 至る前に,犯意を抛棄していることが問題となる。いわゆる共謀者の脱落の問題である。
共謀関係が,犯罪実行以前に解消されたときは,すでに共謀者相互に,相手の行為を自己のものとし て利用する意思は存在しなくなっているわけであるから,共謀者を共謀共同正犯として問擬しえなくな ることは当然といわなければならない。
その後,共謀関係より離脱したものを除いて,犯行が遂行され たとしても,それは新たに縮小された合意が形成され,犯行はその新たな合意に基づくものといわなけ ればならない。だから,共謀関係より離脱したものと評価しうるためには,離脱者と,残りの共謀者と の間の共謀関係が消滅し,残留者の脱落者より受けている支援の意識,すなわち脱落者の影響力が消滅 していなけれはならない。
従って,脱落者が自ら単に離脱の意思を有しているのみでは足りず,これを 共謀者に表明し,共謀者が諒承することを要するというべきである。この場合の離脱の意思表示は,明 示に限らず黙示で足りると考えられている(東京高判昭和 25 年9月 14 日)。
これを本問について考察すれば,丙は甲・乙に対し離脱の意思を表明し,甲・乙も諒承したうえに, 自己の犯意も抛棄する旨告げているのであるから,丙は共謀関係より離脱し,さらに,甲・乙・丙間の 共謀関係も解消し,犯行は,新たに形成された甲・乙間の共謀によることは明らかであるから,丙は何 ら罪責を負わないというべきである。


(三) もっとも,乙はA宅の玄関前で見張りをしたにすぎない。見張り行為そのものを実行の分担として共 同正犯を認めた判例(大判明治 44 年 12 月 21 日)もあるが,見張り役の者が,実行行為の犯行に際して, その傍らで佇立していたなどの特別の場合を除いては,見張りそのものをもって実行行為の分担と解す ることは困難のように思う。
むしろ,本問において,甲・乙間に共謀があるのだから,乙は共謀共同正 犯と解すれば足りるわけである。判例も,そのように解せられるものが多数ある。


(四) さて,甲・乙間の共謀の内容はA宅より金品を窃取するというものであるから,窃盗及び,そのこと の当然の前提としてA宅への住居侵入の共謀のあったことは疑いがない。事実,乙はA宅前で見張りを しているのだから,住居侵入の共謀は充分認められる。
従って,甲・乙が住居侵入の共同正犯であるこ とは争いのないところであろう。
問題は甲の五万円の強取である。甲・乙間には窃盗の共謀しかないのに,強盗の結果が生じているからである。つまり,共犯と錯誤の問題である。この場合,錯誤理論を適用して各自の罪責が検討されね ばならない。
共犯と錯誤については,同一構成要件内で錯誤が生じ,その限度で共同正犯相互の認識にくいちがい がある場合は,法定的符合説に立つかぎり,故意は阻却されないし,合意した犯罪の結果的加重犯の結 果が生じたときも,全員が重い結果について責任を負うものとされる。
しかし,共同者間で,異なった 構成要件にわたり錯誤が生じるときは,原則として,共同正犯の関係は否定されるが,異なった構成要 件相互に,同質的に重なり合う部分のあるときは,刑法三八条二項の適用により錯誤のある者は軽い限 度で責任を負うことになる。
そこで,本問では,共謀は窃盗の限定に止まるのであるから,強盗の結果 が生じているにもかかわらず,乙はその限度で責任を負えばよいことになる。
ところで,この場合,乙 には,何罪の共同正犯が成立するのであろうか。かつて判例(最判昭和 23 年5月1日,最決昭和 35 年9 月 29 日)は,重い罪についての共同正犯が成立し,刑は刑法三八条二項により軽い罪の例によると解し ていた。
これは,故意を主観的構成要件要素と解していなかったことによるものである。つまり,本問 についていえば,乙は窃盗の故意に止まるのであるから,強盗罪が成立するというのは疑問なのである。
その後,最決昭和54年4月13日に至り,構成要件の重なる限度で共同正犯が成立し,重い結果を招来 したものは重い罪が成立すると判示された。(団藤重光は学説として同旨)従って,甲は強盗罪,乙は窃盗 罪で甲と乙は窃盗罪の範囲で共同正犯の関係になる。

結論 甲は住居侵入罪及び強盗罪。 乙は住居侵入罪及び窃盗罪。 丙には格別罪責はない。