司法試験の勉強会

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公務執行妨害罪における職務行為の適法性について解説

(一) 公務執行妨害罪で成立する前提として,なされた公務で違法であった場合はどのように考えたらよい であろうか。
公務はそもそも職務の執行といえるものであれば足り,適法性・合法性は必要なしとする 見解(小野清一郎)もある。しかしながら,公務執行妨害罪が,本来公的職務を,私人の業務以上にこと さら保護する考え方から定められたものであることよりするならば,そもそも違法な公務を保護するこ とは背理であるのみならず,公務の違法な執行は,職権濫用罪となる余地もあり,これに対して私人は 正当防衛をもって対抗することもできるのである。
してみると,私人の自己に対する侵害の排除をわざ わざ正当防衛と考えるまでもなく,そもそも構成要件該当性を否定することが,定型的な構成要件理論 からは当然のことというべきで,そうだとすると,職務の適法性は公務執行妨害の成立要件というべき ことになる。


(二) しかし,違法な公務に対しては常に反抗することが許されると結論し,わずかでも公務の適法要件で 欠如しているならば,公務執行妨害罪で成立する余地がないとすることは行き過ぎというべきであろう。
公務執行妨害罪は,暴行・脅迫を手段とする妨害行為を禁圧するに止まり,公務を威力を用いて妨害す る場合は,その公務が権力作用に関するものである限り不可罰とされている(最判昭和26年7月18日) のであるから,違法な公務の執行を受けた私人は,直ちに暴行・脅迫による抵抗に至ることなく,平穏 な方法による中止,是正を求めるように考えられたとしても,あながち不都合とはいえないのである。
このことを,公務執行妨害の公務が有効であることを構成要件要素として把え,職務執行が不適法でも, 直ちに無効といえない場合や,一定の法的救済手続を経て無効とされる場合には,公務は一応保護され るべきで,当面は公務執行妨害の成否に関係ないと説明することもできよう(団藤重光)。
そこで,公務 の適法要件そのものが,刑法上の公務の適法性と全ての面において一致するものではないのである。す なわち,保護されるべき職務執行の円滑性と,基本的人権の擁護との相関的な見地からの考察が要請さ れるのである。
従って,公務員の側に職権濫用の意図が存し,職務執行が抽象的権限外であることが明らかである場 合,私人の権利に対する不当な侵害にわたることがないようにするため設けられた職務執行の根拠とな る要件とか,正当な職務執行の本質的要件として定められた事項に違反するような場合には,その場に おける私人の実力による抵抗が認められてさしつかえないであろう。
しかしながら,公務の適法性につ いては,そのような重大明白な違法が伏在しない限りは,事後の慎重な判断によって明らかにされるの であり,その場の論争により解決しえるものでない以上,一方的に公務の違法性を根拠に暴行,脅迫に よって職務遂行を妨害することはやはり許されるべきでなく,一応平和的説得の方法を講じ,その後は 事後的な法的救済の手段に訴えるべきものといえよう。
さらに,公務員の職務執行で正当であることを 告知し,責任の所在を明白にしたり,職務遂行の定式化,能率化をはかるために定められたもので,職 務そのものに本質的でなく,むしろ形式的・手続的事項に違背してなされた職務の執行については,こ れらの要件が欠缺することで,にわかに職務行為を無効たらしめるものでなく,事後的な追完によって も有効性を回復しうるものなのであるから,刑法上は,客体として保護に値する公務と解して,妨げな いものというべきであろう。


(三) そこで,職務執行をするについて,その前提事実について公務員に事実の誤認が存した場合はどのよ うな結果となるであろうか。
すなわち,仮定として誤認した事実が存すれば適法な職務行為であったが, そのような事実が存在しなかった場合である。 判例は,専ら公務員の主観的判断に依拠し,抽象的職務権限の範囲内の処分について,職務執行の前 提事実の存在を信じてなした処分は適法であるとしていた(大判昭和7年3月24日)。
しかし,それでは, およそ抽象的職務権限内であるならば,適法な職務行為となるのであり,公務の適法性の要件を不要に し,ひいては,不当な人権侵害を誘発するものといわなければならない。
そこで,学説においては,裁 判所が客観的な法解釈のもとに判断すべきであるとする客観説が提唱されている(福田平)。しかし,そ れでは迅速性を要し,即刻の判断を求められる公務員の職務の円滑な遂行が阻害され,必要以上に慎重 な判断を求めることになり不適当であろう。
従って,当該状況において,一般人の見解で一応の職務行 為であれば足りるとする折衷説が妥当であり,近時この説に従った判例(大阪高判昭和 28 年 10 月1日) も現われている。
すなわち,公務の能率的遂行を阻害しない程度の慎重さを要したうえで,前提事実の 認定に過失がなく,当該状況のもとで前提事実の存在を信じたことが合理的な場合には,正当な職務行 為として保護されるべきである。

 

(四) 最後に,公務員の職務行為が違法であると誤信して,これを妨害した場合はどうなるかが問題となる。
職務の適法性についての錯誤を,事実の錯誤と考える立場(団藤重光)と法律の錯誤と考える立場(藤木英 雄)とがある。事実の錯誤と法律の錯誤の区別については,違法性の意識が喚起されるに足りる規範的事 実の認識に錯誤が存した場合が前者,前提事実の法的評価に錯誤が存した場合が後者という具合に考え られている。
従って,職務の適法性についての錯誤は,適法性を基礎づける前提事実の錯誤に帰着する ため,事実の錯誤と解されることになる。
しかし,これを法律の錯誤と解する立場は,職務の適法性に ついての概念そのものが,職務の要保護性という法律判断を介して得られるものなのだから,このこと についての錯誤は法律の錯誤であるというのである。
そして,すでに論じてきたように,刑法上の職務 の適法性は,適法要件の形式的存否というものをこえた,職務の要保護性という,規範的概念から判断 されるべきものであることは,法律の錯誤と解する立場の指摘するとおりであり,その意味で法律の錯 誤と解することにはかなりの説得力があるというべきである。
もっとも,事実の錯誤と解する立場も,職務の適法性を違法要素と解する余地もあり,そう考えるの であれば違法性の意識の問題となるというのである。
そして,法律の錯誤と解する立場も,職務の適法 性について実質的違法判断であるとするのだから,ここにおいて両説の差異はなくなる。そして,そう 解すれば,職務行為が違法(この場合公務執行妨害の成立を阻却するに足りる程違法であることをいう) を考えたことに,相当の理由があれば故意は阻却されることになる。