暴行の意義とは?わかりやすく解説
「暴行」という概念は,刑法上多くの条文で用いられているが,その内容は,「有形力の不正行使」と いう共通点はあるものの,各犯罪の性質の相違に基づいてかなりニュアンスの相違がある。
最も広い意味で用いられる場合は,有形力行使の総ての場合を含むとされ(騒擾罪,内乱罪),最も狭い意味で用いられる場合は,人の抵抗を抑圧又は困難にする程度の有形力の行使であるとされ(強姦罪,強盗罪)るほか,両者の中間的なものとして,直接人に対すると物に対するとを問わないが結局は人に対するものであることを要する場合(公務執行妨害罪)と人の身体に対し直接加えられることを要する場合(暴行罪)とが存する。
1 刑法九五条(公務執行妨害罪・職務強要罪)における「暴行」 公務員の職務の執行を妨害するため,その手段として,当該公務員に向けられた有形力の行使をいう。
したがって,職務執行の妨害となるべき程度のものであることを要する。
公務員に向けられた有形力の 行使であれば,直接公務員の身体に加えられた有形力の行使の他,直接には物に対して加えられた有形力の行使であっても,それが公務員の身体に物理的に感応しうる場合には,これも「間接暴行」として本条の「暴行」にあたる。
判例においては,これを更に広く解し,現行犯逮捕の現場において差押られ た証拠物を破壊する行為など,公務員の職務執行と関係のある物に対する有形力の行使であって,公務 員に向けられたものは,公務員の身体に物理的に感応しうるとはみられない場合にも,本条の「暴行」 にあたるとしている。
2 刑法二〇八条(暴行罪)における「暴行」 人の身体に対する不法な攻撃の性質を帯びる有形力の行使をいう。
したがって,肉体的,生理的或いは心理的「苦痛」を与えるものであることを要する。
人に対するものであることを要し,物に対する場合は含まれない。
ただし,有形力が直接人の身体に触れなくとも,一般通念に照らし,その有形力が人身体に触れる危険性が大きく,相手方に激しい精神的動揺を与えるような行為であれば,本条の「暴行」 にあたる。(たとえば,人の足元に向けた投石など。)
3 刑法二三六条(強盗罪)における「暴行」 「強取」の手段として,相手の反抗を抑圧するに足りる程度の強度を有する人に向けられた有形力の 行使をいう。
したがって,「傷害」「殺人」にあたる行為であっても,「強取」の手段であれば,本条の「暴行」にあたる。