司法試験の勉強会

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憲法規範の特質について解説

(一) 根本規範憲法は,いわば法の根源ともいうべきものであるから,その制定過程は実定法の定める制度内でなされるものではない,憲法制定権を有する者によって,自然状態から実定のものとして作出されるわけである。

従って,憲法制定権は,国家において始源的かつ無条件,絶対のものというべきであるが,これに対して,憲法制定権も憲法に内在するものと説く見解もある。

しかし,憲法改正権は憲法それ自体に内在するものであるが,憲法制定権は憲法定立という憲法の存在以前から認識しうるものであり,これを憲法そのものに内包されたものと考えることには疑問がある。

そして,この憲法制定権の所在,及び憲法制定権と不可分に結びついた統治の基本原則が憲法の定立により宣明されることになる。

もとより憲法はそのような基本的宣明に終始するものでなく,その他の 細かい規範も含んでいるのであるが,このような統治の基本を示した部分を,憲法秩序の中で根本規範 といわれている。

現行憲法においては,憲法制定権の所在を示した国民主権主義,統治の基本を示した 基本的人権の尊重,平和主義の立場が根本規範にあたるといえよう。憲法の根本規範の部分を改正する ことは,憲法制定権者の示した立場そのものの否定となり,ひいては憲法秩序全体の否定となるもので, 許されないものと考えられている。

憲法の改正規定も,その意味で,根本規範程本質的ではないにして も,改正される憲法の条項よりは優位にあるものであるし,硬性憲法のもとでは憲法秩序の本質をも示 しているものともいえ,本質的改変はなしえないものである。憲法の中において,このような根本規範の部分を除いたものを,憲法律と呼んでいる。


(二) 最高規範憲法九八条一項は憲法が国の最高法規であることを明らかにしている。このことは,憲法 が国法体系の中で最も強い形式的効力を有する最高法であることを示している。

そして,憲法が国家の基本的統治の原則を明らかにしているのであるから,国法体系そのものが憲法に依拠して秩序だてられ ているものということができる。ここに憲法が最高法であることの理由がある。

つまり,憲法より劣る法令は,憲法に反しては効力をもちえないのであるし,下位の法令は憲法に内在する権限によって定立されるのである。

そのため憲法九八条二項は,憲法に反する法令及び国務に関する行為が効力を持ちえないことを明らかにし,八一条は,最高裁判所違憲立法審査権を与えている。

この違憲立法審査権は, 憲法の最高性を保障するものとして,いわば制度的保障の規定ということができるかもしれない。

憲法の最高規範としての性質は,憲法が国家作用の根源または基礎になる法としての性格と,国家体系の中で最高の形式的効力を有する性格との両面から説明することができ,最高性のこの二つの側面は, 相互に関連するものであるというべきである。


(三) 授権規範法は一般に法定立の権限を上位の法によって委任されて定められるものであり,定立権限 を下位法の制定者に委ねる上位法を授権規範,授権を受けて定められる下位法を受権規範という。

従って,国家内の全ての法令は何らかの授権規範によって定立されたものなのであるが,この授権規範を順次上位へたどって行くならば,その究極に存するものは憲法であるということができる。

このように憲法は授権規範として根源的地位を占めるため,あらゆる法令定立の根拠は憲法にあるものということが できる。憲法四一条,五九条は法律の制定を,憲法七三条六号は政令の制定を,それぞれ授権している ものということができる。

しかしながら,憲法が授権規範として根源にあるとはいっても,法が自己に制定権を授権することはできないのであるから,憲法そのものの制定についての正当性が問題とされなければならない。

そして, 憲法は,その制定権者により自然状態から作出されるものなのであるから,憲法の正当性の根拠は正し く憲法制定権者にあるのであり,憲法制定権に内在し,超法規的に自然状態で観念されていた根本規範 にその正当性があるものといわなければならない。


(四) 制限規範 さらに,憲法は,統治の原則を基本的に示していることから,国家行為の内容を規律し, それに方向を与え,その限界を画するという機能を有している。

家族生活における個人の尊厳を定めた憲法二四条は,他面で個人の尊厳と両性の平等に基づく法の制定を要求しているし,議員及び選挙人の資格について定めた憲法四四条も,他方で選挙における差別の禁止を定めている。

このように,憲法基本的人権を明らかにする一方で,このような基本権を尊重するために国家行為を制約しているのである。

憲法の制定は,統治の原則を示すものであるから,統治組織が憲法内で明らかにされることは自明のことであるが,さらに近代憲法基本的人権をうたいあげている。

これは,憲法制定権が自然状態で観念した根本規範の中に基本的人権が存することを示すものであり,個人の基本的権利が憲法以前のものとして存在し,つまり憲法の定立した統治組織以前のものとして考察されるべきことになるのである。

すなわち,近代憲法の大半は,根本規範として基本的人権の尊重を掲げているのであり,このことは基本的人権が基本権或いは自然権として考えられるべきもので,前国家的に把握されるべきことを表明しているのである。

その結果,憲法は基本権の宣明をする一方で,その尊重のため国家作用を制約するこ とになる。

しかし,個人の存立も国家を前提としているのであり,その意味で個人の権利が国家から積極的に尊重されるべく要請されるようになると,国家が基本的人権を制限しないという消極的役割を担うことから,むしろ基本権を積極に保障することが求められてくる。

このような人権が,社会権といわれるものである。