司法試験の勉強会

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【ゼロから始める法学ガチ解説シリーズ】予算に関する国会の権能について【憲法】

問:予算に関する国会の権能について論ぜよ

 

第1 はじめに

 1    統治機構の概説

  ⑴ 統治機構の基本原理

    近代憲法は,権利宣言と統治機構の二つの部分から成り,統治機構の基本原理は国民主権と権力分立である。

国民主権の原理には,国の政治の在り方を最終的に決定する権力を国民自身が行使するという権力的契機,国家の権力行使を正当付ける究極的な権威は国民に存するという正当性の契機の二つの内容が存在する。

権力分立は,国家権力が単一の国家機関に集中すると,権力が濫用され,国民の権利及び自由が侵されるおそれがあるので,国家の諸作用を性質に応じて立法,行政及び司法というように区別し,それを異なる機関に担当させるよう分離し,相互に抑制と均衡を保たせる制度であり,その狙いは,国民の権利及び自由を守ることにある。

  ⑵ 国会

    国会は,全国民を代表する選挙された議員により組織された(憲法(以下法名略)43条1項),国権の最高機関であって,国の唯一の立法機関として(41条)立法権を独占している。

  ⑶ 内閣

    内閣は,行政活動全体を統括する地位にあり,行政権は内閣に属するものとされている(65条)。ここにいう「行政」とは,全ての国家作用のうち,立法作用と司法作用を除いた残りの作用であると解するのが通説である。

  ⑷ 司法

    全て司法権は,最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する(76条1項)。ここにいう「司法」とは,具体的な争訟について,法を適用し,宣言することによって,これを裁定する国家の作用をいう。

第2 設問の解説

   本問は,「予算に関する国会の権能について論ぜよ。」というものである。以下,設問に沿って解説を行うが,その中で,基本的な用語についての解説も加える。当然,解答に当たって,全てを網羅的に説明する必要はないと思われるが,一行問題は,当該設問と関連する事項についても配点が与えられることがあると思われるので,基本的事項については,適宜,答案に加えることが望ましい。

1 総論

  ⑴ 予算の意義及び財政民主主義

   ア 予算の意義

予算とは,1会計年度における国の歳入歳出の予定的見積もりを内容とする国の財政行為の準則をいう。歳入については,その性質上,単なる収入の予定の意味合いが強いが,歳出については,その使途及び金額に関し,政府を拘束する。そのため,予算は,単なる見積表ではなく,国家の行為を規律する法規範である。

   イ 財政民主主義

予算は,会計年度ごとに内閣によって作成され,国会に提出された後,両議院の審議・議決を経て成立する(73号,86条)。83条は,「国の財政を処理する権限は,国会の議決に基づいて,これを行使しなければならない。」と規定し,国の財政処理の権限を国会のコントロールの下に置く財政国会中心主義の原則を採用している。これは,国民から金銭を租税として徴収し,集められた金銭を配分するという点で,国家の財政は国民の生活に直結していることから,財政を国民の代表者で構成される国会(43条1項)の意思にかからしめることによって,ひいては広く国民の意思に基づかせることを要求する財政民主主義の表れである。そこで,憲法は,こうした財政国会中心主義の趣旨に鑑み,財政の準則である予算についても,その成立に国会の議決を要求している。

 予算の議決手続

憲法は,予算の提出権及び議決方法に関し,一般の法律とは異なる特別な定めをしている。まず,上記のように,予算は内閣によって作成される。すなわち,予算の作成及び提出権は内閣に専属する(86条)。予算の作成に当たっては,社会経済動向の把握を要し,計数のみを内容とするなどの点で,専門的・技術的能力が要求されることから,この権能を内閣に委ねたのと考えられている。

予算は,先に衆議院に提出しなければならず,衆議院に先議権が与えられている(60条1項)。衆議院での先議後,予算は参議院に送付される。予算は両議院の可決によって成立する。ただし,参議院衆議院と異なった議決をした場合は,両院協議会を開き,そこでも意見が一致しないとき,又は参議院が,衆議院の可決した予算を受け取った後,国会休会中の期間を除いて30日以内に議決しないときは,衆議院の議決が国会の議決とされ(同条2項),法律の場合よりも衆議院の優越が強く認められている。

成立した予算を公布することは,憲法上要求されていないが(7条1号参照),実際には官報で公示されている。

 予算の法的性格

予算の法的性格については,①予算行政説,②予算法律説,③予算国法形式説などの考え方がある。

   ア ①予算行政説

予算行政説は,予算は本来行政行為であり,議会に対する意思表示にすぎず,法規範性を持たないとするものであるが,予算に法規範性を認めない点で,憲法が採用する財政民主主義の原則と相容れない。

イ ②予算法律説

予算法律説は,予算は,法規範であるのみならず,それ自体法律であると解する考え方である。しかし,予算は政府を拘束するのみで,一般国民を拘束しない,予算の効力は1年に限られ,一般の法律のように永続性がない,予算の内容は計数のみを扱う,法律とは別個の議決手続が規定されている(59条,60条),との点で,予算が法律そのものであると解することは困難であると批判される。

   ウ ③予算国法形式説

こうした予算の特質に鑑み,予算は法律そのものではなく,「予算」という法律とは異なる別個の法形式であると解する③予算国法形式説が,今日の多数説である。

 2 予算に関する国会の権能

  ⑴ 予算の議決

    上記のとおり,予算は,会計年度ごとに内閣によって作成され,国会に提出された後,両議院の審議・議決を経て成立する(73号,86条)。83条は,「国の財政を処理する権限は,国会の議決に基づいて,これを行使しなければならない。」と規定する。したがって,国会は,予算を議決し,予算を成立させる権能を有する。

  ⑵ 予算と法律の不一致

予算は,国家の財政支出についての国会の同意に過ぎず,その前提となる実体法上の根拠は,別途法律で定められなければならない。もっとも,予算と法律をそれぞれ別個の法形式と解すると,法律相互のように後法が前法を廃するという関係に立たない上,予算及び法律の議決手続に違いがあることなどから,予算と法律の間に不一致が生じ得る。

ア 法律は制定されたが,その執行に必要な予算が成立していない場合

「法律を誠実に執行」する義務を負う内閣(73条1号)としては,補正予算の作成(財政法29条)や予備費支出87条,財政法35条)などの措置を講じることになろう。

しかし,予算の作成及び提出は内閣の権能であるから,国会は当該措置に関し,何らの義務を負わないと考えられている。

 予算は成立したが,その支出を命じる法律が制定されていない場合

予算に当該支出を計上した内閣としては,法律案の提出などによって当該施策の実施に努めるべきである。もっとも,国会はそのような予算を議決した以上,道義的には当該法律の制定に努めるべきであるが,制定すべき法的義務までは負わないと解されている。

 予算の修正

上記のとおり,予算は国会の議決により成立するが,国会が,内閣の提出した予算に修正を加えることは許されるのか。

 減額修正

財政民主主義の原則を尊重すべきであること,減額修正であれば,内閣の予算発案権を害するおそれがないことから,国会は無制限に減額修正ができると解されている。

 増額修正

予算の発案及び提出権が内閣に専属していることを重視して,国会が予算の増額修正をすることは全くできないと解する説もあるが,財政民主主義の原則の重要性に照らせば,国会による予算の増額修正も可能と考えるべきである(国会法57条の3,財政法19条も増額修正が可能であることを前提としている。)。

もっとも,その限界については,国会は予算全体を否決することもできるのであるから,減額修正と同様に,増額修正にも限界はないと解する考え方も有力に唱えられているが,内閣の予算の発案及び提出権に鑑み,予算の同一性を失わせるなど,内閣の当該権限そのものを否定する程度に至る大幅な修正は許されないとするのが多数説(政府見解)である。

なお,国会法57条の3は,予算の増額修正について,内閣に意見を述べる機会を与えなければならないとしている。

⑷ 決

決算とは,1会計年度における国の収支の実績を示す確定計算書をいう。予算と異なり,法規範性はない。

90条1項は「国の収入支出の決算は,すべて毎年会計検査院がこれを検査し,内閣は,次の年度に,その検査報告とともに,これを国会に提出しなければならない。」と規定している。

国会は,決算を審査することにより,予算の執行が現実に適正に行われたかどうかを検討し,内閣の政治的責任を明らかにするとともに,将来の財政計画等の策定に備えることができる。

 3 結論

   以上によれば,国会は,予算を作成する権能を有していないが,内閣により作成及び提出される予算を議決し,予算を成立させる権能を有する。そして,予算と法律に不一致が生じた場合でも,これらが一致するようにすべき法的な義務を負うものではない。

また,国会は,無限定に予算を減額修正することができ,一定程度,増額修正する権能も有する。さらに,国会は,決算の権能を有し,内閣の政治的責任を明らかにするとともに,将来の財政計画等の策定に備えることができる。

 

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