司法試験の勉強会

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即時取得(善意取得)とは?わかりやすく解説

(一) 民法は,物権変動について,不動産については登記を,動産については占有を対抗要件として定めている。この対抗要件は主として二重売買の場合に問題となるのであり,権利者である前主から譲受けた者が二人いる場合に,いずれに権利が移転したかについては,対抗要件を取得した者を優先 させることにしたのである。

このことを,譲受人の側から考察するならば,前主に登記あるいは占有が 存すれば,前主からの物権変動は存しないものと考えてよいわけである。つまり,物権変動の過程が適 切に登記,占有という公示方法に伴われるべきであるという考え方から,法は譲受人を保護しているわけである。

これを,公示の原則という。

従って,公示の原則のもとにおいては,あくまで前主が権利者 であったことが必要で,その前提のもとに,権利者であった前主より以後の物権変動が存在しないであ ろうという消極的信頼を保護することにしたのである。

もとより,物権変動について,意思主義の立場をとれば,前主が目的物につき第一の譲受人と契約をなせば,物権は変動することになるのだから,前主はいわば無権利者となり,このように説明することになるのであろうが,近時有力に主張されている, 物権変動は契約,引渡,対抗要件の具備という過程を経て,順次移転していくという説に従えば,前主と第一の譲渡人の契約では,まだ前主に目的物についての何らかの権利が残存していることになるので, 公示の原則といわれるものは,当然の理を明らかにしたものにすぎないということになる。

動産の物権変動の場合,対抗要件の具備は占有移転の方法によってなされるが,占有の移転のうちには,占有の事実状態をそのままにしてなされる,簡易の引渡,占有改定,指図による占有移転の方法もあるため,目的物を支配している者が必ずしも占有者とはいい切れないことになり,占有が公示の役割 を果たすといっても,それは不完全なものにならざるをえないことになる。そこで法は,占有に,さらに公信力を与えることにした。

すなわち,法は,動産の占有者以後の物権変動が存しないという消極的信頼を,さらに高めて,動産 の占有者を権利者と信ずる積極的信頼をも保護することにした。

これを公信の原則という。

従って,動産の場合には,前主が純然たる無権利者であっても,その占有を信頼して前主から目的物を譲り受けた 者は権利を取得することになる。

その結果,占有を有していない権利者はその権利を喪失することになる。公示の原則しか適用のない不動産と異なるところである。 いずれにしても,公示の原則も公信の原則も,物権の帰属を本来的に保護する静的安全に対して,物権変動に加入する者の取引の安全の見地から修正を加えたものといいうるのである。


(二) 動産の占有に公信力が付与されたことは,民法一九二条の定める即時取得の制度に如実に現われてい る。従って,民法一九二条は公信の原則を基本として解釈されなければならない。

まず「平穏かつ公然に動産の占有を始めたる者」と定められている。条文の体裁からすると,権利を 取得する者の占有開始の原因は格別拘泥しなくてよいようにもみえる。

しかし,即時取得の背景となる 公信の原則は,あくまで,物権変動に伴う動的安全の保護を前提としているのであるから,動産上に権利を取得するためには,占有を取引行為に基づいて開始することが必要になる。

取引行為であれば,売買,贈与,弁済,代物弁済などどのようなものであっても構わないことになる。しかし,遺失物を取得 したとか,他人の物を自己の物と誤信して占有するようになったというような,取引行為に基づかない 占有の開始は保護の対象にならないことになる。

次に,取引行為が前提となる以上,前主の存在も必要となる。そして,前主が当該動産を占有し,そ の物について無権利であることが要件となる。 前主が目的動産を占有していたことが要件となるのは,即時取得が公信の原則に基づいて,前主の占 有を信頼した者を保護する法意にあることより当然のことといわなくてはならない。

しかし,前主の占有は,譲受人の信頼を保護するに足りる程度のものであればよいわけである。また,すでに述べたよう に,即時取得は,動産の占有が公示制度としては不完全なことより認められたものなのだから,前主の 主観的意思や,前主が占有を取得するに至った経緯についてまで,譲受人が調査しなければならないと することは無意味なことになる。

従って,前主については,占有の意思や,所有の意思が欠けていたと しても,占有という事実状態のみを有しておればよいことになる。 前主が無権利者であるということは,これを裏からいうと,前主が権利者であった場合に,前主と譲 受人との取引行為に関する瑕疵は,即時取得の保護の対象とならないということである。

このことも, 即時取得が,前主の占有に対する信頼のみを保護し,前主と譲受人との取引関係には意を払っていない ことからすれば,当然のことといわなければならない。


(三) 前主から譲受人が占有の移転を受けることが必要なことは,民法一九二条が,「占有を始めたる」こ とと定めていることより明らかである。

譲受人と前主との単なる契約が存するだけでは足りないことになる。この占有の取得は,前主の有すべき占有と異なり,占有の意思や,所有の意思が必要となる。

また,前主の有すべき占有と同様に,占有の意思や,所有の意思が存すれば,目的物に対する現実の支配 は不要である。要するに,民法の定める占有を取得すればよいのである。

従って,占有の移転は,現実の引渡,簡易の引渡,指図による占有移転によれば足りると一般に解されている。もっとも,指図によ る占有移転については,場合を分けて考察すべきとする立場もある。

問題は占有改定の場合である。例えば,Aが目的物をBに売ったが,引き続いてAがBのために代理 占有している間に,再び目的物をAがCに売却し,Cのために代理占有するに至った場合である。

仮に, 即時取得について占有改定でも十分であると解するならば,無権利者であるAより譲り受けたCが所有 権を取得する。このように考える立場もある。

しかし,それでは,後に譲り受けた者が,必ず優先することになるが,譲り受けの前後によって勝敗を決するのであれば,何 も後の無権利者から譲り受けた者を保護すべき合理性もないのであるし,BもCもいずれも事実の状態 は同等なのであるから,とりわけCが保護されるべき立場にあるとはいい切れない。

判例(最判昭和 35 年3月1日)は,占有改定では足りないとし,この考え方に賛成する立場もある。判例の考え方によると,Bが勝つことになる。Bは権利者から譲り受けたのであるから,Cよりも保護されてしかるべきように思われる。

しかし,この説でもCが後に現実の引渡を受ければ,即時取得をすることになるが,この場合,Cは前の占有改定のとき善意,無過失であるのでは足りず,後の現実の引渡を受ける時点でも善意,無過失でなければならないことになる。

このような,肯定説,否定説に対し,占有改定でも所有権を取得するが,これは未確定のもので,後に現実の引渡を受けることで確定的に所有権を取得するという折衷的な立場もある。

この立場では,B,Cいずれも現実の引渡を受けない間は,いずれにも勝敗の決し難い状態になる。すでに述べた,物権は,契約から対抗要件の具備に至るまでの間に,順次移転するという立場に従っ てみても,Bはすでに占有改定をしている以上確定的に所有権を取得していることになる。

折衷説の立場は,物権変動の考え方を修正しようとしているのかもしれないが,それでは,動産についての対抗要件は余り意味のないことになってしまう。


(四) 民法一九二条は,即時取得者が,占有を取得するに際して,平穏,公然,善意,無過失であることを要件としている。平穏,公然は当然のことで論ずるまでもない。

また,民法一八六条は,占有は平穏, 公然,善意になされるものと推定している。従って,即時取得をする者は,この点について立証を要しない。無過失について,判例は,当初即時取得者に立証責任を負わせていたが,後に相手方に立証責任を負担させるに至った(最判昭和 41 年6月9日)。条文の体裁からいうならば,即時取得者が立証すべきことのようにも思われるが,公信の原則は,前主の占有を信頼に足りるものとしているのだから,前主の占有がある以上,取得者は無過失であると一応いいうるのではないかと思われる。

従って,相手方が, 反対事実を立証すべきである。

なお,民法一九三条は,所有者がその意思によらずして占有を失った場合に,二年間に限り即時取得者に対して追求しうることを定めている。さらに,民法一九四条は,これを修正し,即時取得者が「競売もしくは公の市場において,その物と同種の物を販売する」者から買いうけた場合には,二年以内であっても,即時取得者の払った代価を支払わないと目的物を回収しえないことにしている。いずれも, 民法一九二条を修正するものである。