司法試験の勉強会

司法試験の勉強会

現役弁護士が法学部1年生や司法試験受験者向けに法律の基礎を書くブログです。ブログを続けるモチベーションになるので、1日1回ブログ村のボタンを押して頂けるとありがたいです。

二重譲渡とは?事例問題で詳しく解説

Aは,昭和 45 年6月1日から現在に至るまで,B所有のX地を,所有の意思をもって平穏 かつ公然に占有しており,その占有の始め善意でかつ過失がなかった。一方,Bは,昭和 55 年 7月1日,X地について,何らその事実がないのに売買予約を原因として勝手にC名義への所有 権移転請求権保全の仮登記をしておいたところ,これを知ったCが,それを奇貨として右仮登記 に基づく本登記手続をしたうえ,X地を自己所有物としてDに売却し,その所有権移転登記を済 ませた。
この場合におけるA・D間の法律関係を説明せよ。

 


AはX地を,昭和 45 年6月1日から占有を始め,その占有は,所有の意思をもって平穏かつ公然に なされ,占有の当初Aは自己の所有について善意,無過矢であったのだから,一〇年間の占有継続に よってX地の所有権を時効取得していることになる。しかし,登記名義は,Aの時効取得後である,昭 和 55 年7月1日以降に真実の所有者BからC,さらにDに移転している。そこで,A,D間の法律関 係を考察するにおいては,まず,Aが現在の登記名義人Dに対して,時効取得を主張できるかどうかを 検討しなければならない。もっとも,BからCを経てDに至る登記名義の移転が,所有権の移転を伴う ものでなければ,X地の所有者は依然としてBになるのだから,Aが本来の所有者であるBに対して取 得時効を主張しうるのは当然のことである。しかし,ここでは,ともかく,Dに所有権が移転したこと を前提にして検討をすすめ,Dの所有権の存否は項を改めて議論することにする。 判例は,不動産を時効取得した者と,本来の所有者から不動産を譲り受けた者の関係について,時効 期間が満了し,時効取得がなされて後に,本来の所有者から譲受人に物権変動が生じた場合について, 時効取得と,不動産の譲渡とが,いわば二重譲渡の関係になるから,先に登記を具備した者が優越する という見解(最判昭和 33 年8月 28 日)に立っている。これに対して,時効期間が満了する以前に物権変 動が生じたときは,不動産の譲受人は取得時効についての当事者になるから,物権変動についての対抗 問題は生じないと解している(最判昭和 41 年 11 月 22 日)。通説は判例の立場に賛成している。しかし, 時効制度は,ある種の長期間の占有の事実から,それを権利にまで高めようというのであるから,占有 の事実が長期になればなるほど,権利として確実なものになるはずであるし,時効は占有という事実状 態を保護するのだから,所有権の存否が問題となった時点から遡って必要な期間の占有継続があれば, 時効取得を保護してよいのではないかという批判もある。これらの見解は,判例の立場を修正して,不 動産の真正な所有者からの譲渡に,時効中断類似の効力を認め,不動産の譲渡が時効完成の前になされ ようが,後になされようが,不動産が譲渡され,登記がなされてから新たに時効期間が進行し,時効完 成とともに所有権を取得すると解する立場(我妻栄)や,時効完成後取得時効に基づく所有権取得の勝訴 判決がなされて以後の不動産譲受人に対しては,登記なくしては対抗できないとする立場(舟橋諄一)な どが主張されている。なるほど,時効完成後の不動産譲受人に対して,時効取得者は登記なくして対抗 できないという判例の立場に立つと,時効が進行を始める起算点を遅らせて主張することにより,時効 取得者は,容易に不動産譲受人に勝つことができる。この問題について,判例は,時効取得者が時効の算点を任意に選択して主張することはできないという見解(最判昭和35年7月27日)をとっている。そ して,判例の立場に依拠しながら,不動産譲受人が登記を得た以前に,時効期間より長く時効取得者が 不動産を占有したことを明らかにすれば足りるとする見解(倉田卓次)もある。すなわち,時効取得者が 不動産譲受人が登記を得て以後に時効が完成したと主張しても,不動産譲受人の方で,それ以上の期間 時効取得者が不動産を占有していて登記移転時にはすでに時効が完成したことを明らかにすればよいと いうのである。この考え方に従うと,判例の見解は矛盾なく説明することができる。また,時効制度の 原則にもどってみても,時効は,期間の経過とともに権利関係が不明確になるため,一定期間が経過し た時点で事実状態を権利として認め,権利関係の存否を明確にする制度であること,民法一六二条二項 の一〇年の取得時効は,立法当時,無権利者から善意,無過失で譲り受けた者を保護する制度と考えら れていたことなどからすると,時効取得者が時効期間の経過後も自己の権利に対して無関心でいる場合 には,むしろ現実に登記を得て権利を具体化した者を保護する方が妥当のようにも思われる。 いずれにしても,判例,通説の立場に従って,さらにDがBからCを経てX地の所有権を取得してい るかを検討し,それが肯定されるのであれば,Aは登記なくして,自己の所有権をDに対抗できない と解したい。

そこで,Dの所有権の存否について検討することにする。Dは,少なくとも,Cの本登記を信頼して CからX地を譲り受けたのであれば,Dの信頼は保護されてしかるべきように思われる。もっとも,D が信頼したCの本登記が,何らX地の権利を化体していないものであれば,登記に公信力が認められな い以上,Dの信頼は保護に値しないものということができる。しかし,本問において,Cに本登記がな されるに至ったのは,X地の真正な権利者であるBの行為に基づくものともいうことができるから,C の本登記にはX地の権利関係が,ある程度反映されているということができる。 もし,BがCの承諾を得てX地の登記名義をCに移転し,DがCの登記名義を信頼してCからX地を 譲り受けたとすると,BとCはX地の登記名義を真実の所有者でないC名義に仮装することに合意した と同様に考えることができる。従って,判例はこのような場合,C名義の登記作出を,BとCの虚偽表 示と類似して考え,民法九四条二項を類推適用して,Dが善意であるならば,BはBC間の所有権移転 が存在しないことをもってDに対抗できないと解した(最判昭和 41 年3月 18 日)。すなわち,BからCへ の登記移転は,BC間の所有権移転に伴うものではないから,C名義の登記は権利を示すものではない が,Dに対してそのことを対抗できないのだから,Dとの関係ではC名義の登記は,BC間に所有権移 転があったものとして扱われるということである。だから,DはX地の所有権を取得することになる。 学説も判例の立場に賛成している。ところで,BとCはC名義の登記を仮装したにすぎないのであって, BC間の所有権移転まで仮装したわけではない,だから,Dの所有権取得は民法九四条二項そのものか ら肯定されるわけではない。しかし,DがC名義の登記を信頼したというのは,登記の推定力から,D がX地をCが所有していると信じたことにほかならないし,C名義の登記が作出されたことにはB及び Cの意思が介在している。そこで,判例民法九四条二項を類推適用してDを保護することにしたので ある。このような見解は,とりもなおさず,禁反言の法理や表見法理を背景とするものである。 さらに,判例は,BがCの承諾を得ることなく,X地の登記名義をCに移転し,DがCの登記名義を 信頼してX地を譲り受けた場合についても,民法九四条二項を類推適用することによってDを保護して いる(最判昭和 45 年7月 24 日)。Cは,自己名義に登記を仮装することについて,Bに承諾をしていない のだから,BとCとの間には,虚偽表示に相当する関係がなく,民法九四条二項を類推することには疑問があるという批判も考えられないではない。しかし,意思表示の当事者相互に虚偽行為のある虚偽表 示の場合でなくとも,単独虚偽行為である心裡留保の場合について,表意者の心裡留保に関して相手方 に悪意又は過失があれば,意思表示は無効になるが,相手方と取引関係に入った第三者が善意であれば, 民法九四条二項の類推適用により,第三者の関係では表意者の意思表示は有効になり,第三者は保護さ れると考えられている。そして,判例もこの理を認めている(最判昭和 44 年 11 月 14 日)。そうだとすれ ば,単独虚偽行為についても,民法九四条二項を類推する余地があるというべきであるから,Cが自己 名義に登記が移転されたことについて,承諾を与えなかったとしても,BがC名義の登記を仮装した以 上,これを信頼したDは民法九四条二項の類推適用により,保護されてしかるべきだということになる。 問題は,登記名義を仮装したBと,仮装の登記を信頼したDのいずれを保護するかにあるわけで,判例 は,表見法理及び禁反言の法理によって,Dを保護することにしたのである。 しかし,本問においては,BはX地についてC名義の仮登記を仮装したにすぎず,Cがその仮登記を 本登記に改めたうえ,X地はDに譲渡されたのである。このような場合にも,なおDは保護されるので あろうか。BはC名義の仮登記を作出しているが,Dが信頼したのはC名義の本登記なのだから,民法 九四条二項のみによったのではDは保護されない。判例は,本問と同種の事案について,民法九四条二 項,一一〇条の法意に照らし,Dを保護している(最判昭和 43 年 10 月 17 日)。すなわち,問題は,仮装 された外形と信頼の対象との不一致にあるわけだが,Bが何らかの外形を作出し,それが発展して,D が信頼しうる対象となった場合,Bには帰責原因があり,Dの信頼が保護に値するならば,Dを保護す ることにしたのである。本問を,民法一一〇条に促して説明すると,BがC名義の仮登記をしたことが, 基本代理権に対応し,Cが仮登記を本登記にしたことが代理権踰越に対応し,従って,DがCに本登記 手続をする権限があると信じたことに正当な理由があれば,Dは保護されることになる。もとより,B がC名義の仮登記を作出したことが,Cに対する代理権の授与とは考えられない。しかし,この解釈は 民法一一〇条に仮託して,その背後にある,表見法理あるいは権利外観の理論から導かれたものという ことができる。また,民法一一〇条については,代理権の存在を信じ,かつ信ずベき正当の理由をDに 要求しているので,Dは善意,無過失でなければならない。民法九四条二項を類推適用した場合には, Dは善意であれば足りた。もっとも,学説のなかには,民法九四条二項,一一〇条による保護の場合に 限らず,民法九四条二項を類推する場合も,ともに表見法理に基づいて保護されるのだから,保護され る第三者には,一律に善意無過失を要求すべきだとする見解(四宮和夫)もある。
〔参考文献〕