司法試験の勉強会

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 甲と乙は,丙から共同で A 土地を買い受け,各二分の一の持分で共有していたところ,甲 は,A 土地につき,乙に無断で自己への単独名義の所有権移転登記をした上,その直後に,これ を丁に対し一〇〇〇万円で売却し,丁への所有権移転登記をしてしまった。 丁は,A 土地の所有権を取得するか。また,その場合の甲・丁間の法律関係について説明せよ。

 甲と乙は,丙から共同で A 土地を買い受け,各二分の一の持分で共有していたところ,甲 は,A 土地につき,乙に無断で自己への単独名義の所有権移転登記をした上,その直後に,これ を丁に対し一〇〇〇万円で売却し,丁への所有権移転登記をしてしまった。
丁は,A 土地の所有権を取得するか。また,その場合の甲・丁間の法律関係について説明せよ。

 

 

一 丁は,A 土地の所有権を取得するか

1 原則
まず,丁は,甲から A 土地を代金一〇〇〇万円で購入したものである(以下「本件売買契約」という) が,一部が他人に属する財産権を目的とする売買契約も有効である(民法五六〇条)。そして,甲は,本 件売買契約当時,A 土地につき自己の持分として二分の一の割合による共有持分権を有していたのであ るから,丁は,本件売買契約によって右共有持分権を取得したものである。
しかしながら,甲は,乙の A 土地につき二分の一の割合による共有持分権については処分権を有する ものではないから,丁は甲との間で本件売買契約を締結したからといって,乙の右共有持分権まで取得 したものとはいえない。
したがって,丁は,現状のままでは,A 土地につき甲が有していた二分の一の割合による共有持分権 のみを取得したものである。
2 例外 1(財産権移転義務の履行)
しかし,甲は,本件売買契約に基づき乙の有している共有持分権を取得した上で,丁に対し,A 土地 の所有権を移転する債務を負担しているものであるから(民法五六一条・五六三条),丁は,甲に対 し,右債務の履行を請求することができるところ,甲が,乙の有している共有持分権を取得した場合に は,本件売買契約の効力として,丁に対し,右共有持分権も移転するものというべきであるから,かか る場合には,丁は A 土地の所有権を完全に取得することになる(以上「民法概説(改訂版)」二二〇頁 裁判所書記官研修所編参照)。
3 例外 2(民法九四条二項の類推)
ところで,甲は,A 土地につき自己へ単独名義の所有権移転登記をしていたものであるから,買主の 丁は,右登記名義を信用し,甲が単独で A 土地を所有していると信頼して本件売買契約を締結したこと が推認されるところであるが,右のとおり,甲が乙の共有持分権を取得しないかぎり,丁はいかなる場 合においてもA土地の所有権を完全に取得することができないとすると,丁の右信頼を裏切ることにな り,取引の安全が余りに害されることになるから,丁の右信頼をいかに法的に保護するかが問題となる。
不動産の物権変動においては,登記に公信力は認められない(民法一九二条の反対解釈)。 しかしながら,民法九四条二項は通謀の上真意ではない意思表示を外形的に作出した者は,右意思表 示の外形を信じて取引関係に入った第三者に対し,右意思表示の無効を対抗することができないとして, 取引の安全を確保しているところ,A 土地につき真実とは異なる甲の単独名義の所有権移転登記という 外形が作出され,かつ,甲をして右外形を信頼せしめたことについて,乙に重大な責任がある場合(例 えば,黙認した場合等)には,右外形の作出について甲と乙の間の通謀自体は存在しないものの,外形 を信頼した第三者を保護すべき状況が存在する

 

ことについては何らの差異も存在しないものと考えるの が相当である。
そこで,かかる場合には,民法九四条二項を類推して,乙は,A 土地について取引関係に入った第三 者である丁に対し,甲の単独名義の所有権移転登記が真実とは異なるものであることを対抗しえないも のというべきである。
したがって,本件では,事情が明らかではないが,仮に,右のような事情が存在する場合には,乙は, 丁に対し,右登記が真実とは異なるものであることを対抗しえない結果,丁は反射的に A 土地の所有権 を単独で取得することができるというべきである(以上「民法(1)総則〔第 4版〕」一五三頁有斐閣双書 参照)。

 

 

二 甲・丁間の法律関係

1 前記例外 1,2 のとおり,丁が A 土地の所有権を単独で取得できた場合には,財産権の移転,代金 の支払,登記名義の移転が既に終了しているから,甲・丁間には本件について何らの債権債務関係も存 在しない。
2 しかし,前記原則のとおり,丁が A 土地の二分の一の割合による共有持分権しか取得しえなかっ た場合には,甲・丁間の法律関係は次のとおりになる。 (一) 第一に,甲は丁に対し,民法五六三条に基づく責任を負うことになる。
(1) まず,丁は,甲に対し,A 土地の二分の一の割合による共有持分権が乙に帰属していたことにつ いての善意,悪意を問わず,権利を移転しえない部分に相当する既払の代金額の返還を求めること ができるから(同条一項),右共有持分権相当額である五〇〇万円の返還を請求することができる。
(2) 次に,丁が善意の場合には,権利を移転することができる部分だけであったなら本件売買契約を 締結しなかったであろうという事情が認められる場合には,甲に対し,本件売買契約全部を解除す ることができるから(同条二項),丁は,甲に対し,本件売買契約を解除する意思表示をした上で, 原状回復請求として代金一〇〇〇万円の返還等を請求することができる。
(3) さらに,丁が善意の場合で,しかも,本件売買契約締結によって損害が発生した場合には,前記 一部代金の返還,契約解除に加えて,甲に対し,右損害の賠償を請求することもできる(同条三項)。
(4) 但し,丁が善意の場合には,甲が乙の共有持分権を取得することができないという事実を丁が 知った日から一年以内に右権利行使をすることが必要であり,他方,丁が悪意の場合には,契約締 結の日から一年以内に右権利行使をすることが必要である(民法五六四条)。なお,右の期間は除 斥期間というべきである。
(二) 次に,民法五六三条の責任は,一般の債務不履行責任を排斥するものではないというべきであ るから,甲が乙の共有持分権を取得しえなかったことについて,責に帰すべき事由が存在するときは,一般原則に従って,契約を解除することができ(民法五四三条),また,損害賠償を請求することもで きる(民法五四五条三項・四一五条)。
したがって,丁が A 土地の二分の一の割合による共有持分権が乙に帰属していたことについて悪意で あったとしても,丁は,一般の債務不履行責任を追及することによって,甲に対し,損害賠償請求をす ることができる(以上「民法(6)契約各論〔第 3 版〕」四三頁有斐閣双書,「新版注釈民法(14)」一九 八頁,最判昭四一・九・八民集二〇・七・一三二五,同年度最高裁判例解説〔64〕参照)。
(三) さらに,付言すると,丁が A 土地の二分の一の割合による共有持分権が乙に帰属していたこと について善意であった場合には,表示に対応する意思が欠缺し,しかも右欠缺につき表意者である丁の 認識が欠けているとも考えることができるので,本件売買契約は錯誤に該当するため無効ではないか(民法九五条),あるいは,甲が欺罔行為によって丁を錯誤に陥れた場合には,詐欺に該当するために丁 はその意思表示を取り消しうるのではないか(民法九六条)が問題となる。
しかし,民法が他人物の売買契約が可能であることを前提にその効果を詳細に規定したのは,いやし くも権利が存在すればその移転は理論的に不可能でないことに着眼して,契約を有効に成立させ,売主 に権利移転の義務及びその不能である場合の責任を課すことによって問題の解決を図る趣旨であると解 するのが相当であるから,丁は錯誤あるいは詐欺を主張することは許されないものと解すべきであろう
(「新版注釈民法(14)」二〇〇頁参照)。