司法試験の勉強会

現役弁護士が法学部一年生向けに本気の解説をするブログです。

代理人と使者の違いと法律上の問題点について解説

代理人

本人のためにすることを示して(顕名),相手方との間で自ら意思表示をして,その法律効果をことごとく直接本人に帰属させる者である。

使者

本人が既に決定済みの意思表示を相手に伝える者であり,その中には本人の完成した意思表示をそのまま伝達する伝達機関としての使者と本人の決定した意思を相手方に表示して意思表示を完成させる表示機関としての使者が存在する。

基本的な差異

上記のとおり,代理,使者ともに,他人を介して法律行為を行うという点においては,両者は共通するものであるが,意思表示をする主体という点においては,代理の場合は代理人,使者の場合は本人と相 異なるものである。 したがって,代理の場合は,意思表示に関する要件,その瑕疵の有無はすべて代理人について決せら れることになるが(民法一〇一条参照),使者の場合は,それらはすべて本人について決せられること になる。

法律上の問題点

ところで,代理については,たとえ代理権が欠缺したとしても,表見代理の各規定(民法一〇九条等) によって,相手方の取引安全が配慮されているが,使者については,本人の決定済みの意思表示を正確 に伝えなかった場合を想定し,相手方の取引安全を配慮した明文の規定は存在しない。 しかし,代理と使者の区別は,その者の表示によって区別することになるところ,必ずしもその区別 を明確にすることは容易ではなく,しかも,代理,使者ともに,他人を介して法律行為を行っている点 では何らの差異もないから,代理人の代理権が欠缺した場合のみならず,使者が本人の決定済みの意思 表示を正確に伝えなかった場合についても,相手方の取引安全を配慮する必要性は十分に存在するもの というべきである。 したがって,使者の場合にも,表見代理の規定を類推することができると解するのが相当であろう。

まとめ

以上のとおり,代理人と使者は,他人を介して法律行為を行うという点においては何らの差異もない が,その意思表示の主体にという点においては,厳然と区別されるものであるところ,両者は相手方の 取引安全保護の見地から,同様の取扱いがなされるように法律解釈をすべき場合があるというべきであ る。