司法試験の勉強会

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停止条件と贈与契約について事例問題を上げて解説

A は,叔父 B との間で,A が一流会社に就職したら,B 所有の甲建物を A に贈与する旨の契約 をし,甲建物について所有権移転請求権保全の仮登記を経由した。ところが,右の仮登記は登記 官の過誤により抹消されたため,B はこれを奇貨として,甲建物を事情を知らない C に売却し, C への所有権移転登記もすませてしまった。
A が一流会社に就職した場合の A,B,C 間の法律関係について説明せよ。

 

一 事案の分析

1 AB 間の停止条件付贈与契約

B は,自己所有の甲建物を A に贈与した。民法は,物権変動につき意思主義を採用するから(一七六 条),原則として贈与契約と同時に所有権が移転する。
ところが,A と B は贈与契約に,「A が一流会社 に就職したら」という停止条件を付した。
したがって,贈与契約の効力は,条件が成就したとき,すな わち,A が一流会社に就職した時に発生し(一二七条一項),それと同時に,甲建物の所有権は B から A に移転する。

2 A の期待権とその確保

A は,条件成就前に所有権を取得するわけではないが,将来所有権を取得しうる地位を有する。
民法 は,この将来権利を取得する可能性のある地位を,法律上の権利として保護する(一二八条)。この権利 を期待権という。したがって,B が甲建物について,条件成就前に法律上の処分行為をしても,それが 期待権者 A の条件成就の効果を制限する限り,効果を生じない。
他方,民法は物権の変動につき対抗要件主義を採用するから(一七七条),A は,対抗できない第三者 が現われる前に,対抗要件を具備する必要がある。しかし,期待権の段階で所有権移転の本登記を経由 することはできない。そこで,民法は,期待権者が期待権を確保するための手段を講じることを認めた。 これを保存という(一二九条)。
A は,期待権の保存として,所有権移転請求権保全の仮登記を経由した(不動産登記法二条二号)。仮 登記自体に対抗力はないが,仮登記に基づいて本登記がなされると,その本登記の順位は,仮登記の順 位によって定まるから(同法七条二項),A は,仮登記に基づいて本登記をすれば,仮登記以後に生じた 甲建物に関する権利取得者に対抗できることになり,A の期待権は保存される。

3 対抗問題の発生

C は,A が甲建物について仮登記を経由した後,甲建物を買受けた。いわゆる二重譲渡である。A は, このような場合に備えて仮登記を経由したのであり,もし,仮登記が抹消されなければ,A が一流会社 に就職した段階で,A は,B に本登記請求,C に本登記承諾請求をすることができる。
ところが,本登 記経由前に,仮登記が登記官の過誤により抹消された。このような場合に,A は仮登記の効力を C に対 して主張することができると解すべきであろうか。

4 登記官の過誤により抹消された仮登記の効力

判例は,本登記の対抗力について,一旦生じたものは,法律上の消滅事由が発生しない限り消滅しな いと解している(大判大一二・七・七民集二・四四八)。
さらに,判例はこの理を,仮登記の順位保全的 効力と,警告的効力を理由に,仮登記が不法に抹消された場合にも及ぼす(最判昭四三・一二・四民集二 二・一三・二八五五)。
また,仮登記の抹消登記も,公示方法の一種であると解し,これに対応する実質 関係が存在しない以上,公示方法としての効力を生じないとして,判例と同じ結論を導く学説もある(舟 橋)。
いずれにしても,Aの仮登記の効力は,登記官吏の過誤による抹消によっても消滅しないと解される。

二 A,B,C 間の法律関係

1 登記をめぐる法律関係

以上のように解すると,A は,条件成就による甲建物の所有権取得を C に対抗できるから,A は B に 対して,抹消された仮登記の抹消回復登記手続を請求することができ,C は,これに承諾を与える義務 を負う(不動産登記法六七条)。
A は,回復した仮登記に基づいて,B に対して本登記手続を請求するこ とができ,これに対しても,C は承諾義務を負う(同法一〇五条一項,一四六条一項)。

2 AB 間の法律関係

書面によらない贈与契約は,各当事者において取消すことができる(民法五五〇条)。
しかし,本件で は,仮登記の際の登記申請書に贈与契約が明示されるので,B の贈与意思は明確となり,かりに贈与契 約書を作成しなかったとしても,書面による贈与となり,取消の問題は生じない。

3 BC 間の法律関係

A が甲建物について本登記を経由すれば,BC 間の売買契約は,B の責に帰すべき事由によって履行不 能となり,C は B に対して損害の賠償を請求できる(四一五条)。
C は,売買契約を解除することもでき (五四三条),その場合でも,損害賠償請求権を行使しうる(五四五条三項)。
また,C は,仮登記がないものとして甲建物を買受けたのであるから,法律行為の要素に錯誤がある として,売買契約の無効を主張しうる(九五条)。
C が錯誤に陥ったのは,B の欺罔行為によるから,C は, 詐欺を理由に売買契約を取消すこともできる(九六条一項)。
さらに,C は,B に対して詐欺による不法 行為に基づいて損害賠償を請求することもできる(七〇九条)。