司法試験の勉強会

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憲法第七六条第二項について解説

一 はじめに

憲法七六条は,司法の章の冒頭に位置し,同条一項は,「すべて司法権は,最高裁判所及び法律の定 めるところにより設置する下級裁判所に属する。」と規定する。
これは,四一条,六五条とともに,三権分立を定めた規定である。
七六条一項にいう下級裁判所とは,最高裁判所に対する概念であるから, 司法権は,最高裁判所の系列下の裁判所に帰属することになる。
いうまでもなく,公正,平等な裁判の 確保を保障する趣旨である。この一項をうけて,二項前段は,「特別裁判所は,これを設置することが できない。」,後段は,「行政機関は,終審として裁判を行ふことができない。」と規定する。

二 特別裁判所の禁止(二項前段)

一般に,特別裁判所とは,特定の身分の人,若しくは,特殊の事件,または,非常の際に生じる事件 について裁判するために,通常裁判所の系列外に設けられる,常設または臨設の裁判所である。
憲法 は,この意味の特別裁判所の設置を容認した(同法六〇条)。軍法会議や皇室裁判所がそれである。
これ に対し,現行憲法七六条一項は,司法権が,最高裁判所の系列下の裁判所に属することを規定するから, 右の意味における特別裁判所の設置は,一項が禁止するところである。
したがって,二項前段は,一項 の規定の趣旨を,別の角度から明確にしたものと解される。
なお,最判昭三一・五・三〇刑集一〇・五・ 七五六は,上告人の,家庭裁判所は特別裁判所にあたるという論旨に対して,家庭裁判所は,「一般的 に司法権を行う通常裁判所の系列に属する裁判所として裁判所法により設置されたもの」であるから, 特別裁判所にはあたらないと判示している。

三 行政機関の終審裁判の禁止(二項後段)

七六条二項後段は,行政機関の裁判が終審となることを禁ずる。
行政機関の裁判が終審となることを 容認すると,その裁判は,最高裁判所の系列外で処理されることになるから,七六条一項の許すところ ではない。したがって,二項後段も,二項前段同様,一項の原則から導くことができる。
二項後段は, むしろ,行政機関に前審の機能を認めたことに意義がある。
現代社会において,行政の機能が極めて拡 大し,行政をめぐる紛争の一部は,高度に専門化,技術化した。
これを適切かつ迅速に解決するために は,専門的な知識と経験を有する行政機関に前審の機能を果させることが好ましい場合があることは, 否定できないところである。
行政機関の裁判にあたるものとしては,公正取引委員会の審決,特許庁審 判官の審決,海難審判庁の裁決などがある。
ところで,専門知識を有する行政機関は,その知識を生かし,裁判官には困難な事実認定を行うこと を期待されるが,その事実認定は,あくまで行政手続によるものであるから,行政機関の事実認定に対 して,裁判官が全面的に拘束されるとすると,裁判所に終審の権能を留保した意味が失われる。
この問 題の調整をはかる方法として,実質的証拠法則の採用がある。これは,アメリカの判例法上確立したも ので,日本においては,独占禁止法等が採用している(独占禁止法八〇条等)。
この原則は,行政機関の 事実認定が,実質的証拠に基づくものであれば,その認定は裁判所を拘束するというものである。しか し,独占禁止法のような明文の規定がない場合もあり,裁判所が,行政機関の事実認定についてどの程 度再審査すべきであるかという点は,困難な問題である。