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時効取得とは?わかりやすく解説

第一問 Xは,A所有の甲土地を,昭和 51 年3月3日から,所有の意思を持って,平穏かつ公然, 善意無過失で占有していたところ,AはYに対し,昭和 62 年5月5日,甲土地を売り渡し,そ の所有権移転登記を経由した。XはYに対し,昭和 53 年3月3日から占有していたとして時効 取得を主張する。また,A・Y間の前記売買は通謀虚偽表示によるものであった。
X・Y間の現在における法律関係を説明せよ。

 

 

一 問題点の所在
Xは,甲土地を昭和 51 年3月3日から占有を開始し,その占有は所有の意思を持って平穏かつ公然 となされ,占有開始時Xは自己の所有権について善意かつ無過失であったのであるから,一〇年間の占有の継続により,Xは,甲土地の所有権を時効取得していることになる。しかし,他方,Xの時効完成後にYはAから甲土地を買い,所有権移転登記を経由している。そこで,X が時効による所有権取得をYに主張しうるかが問題となる。もっとも,AY間の売買に瑕疵があり,所有権が有効に移転していなければ,Yへの所有権移転登記は実質的要件を欠くことになるが,この点は 後に検討することにして,まず,Yに所有権が移転したことを前提にして検討することにする。

二 時効取得と登記との関係について
この点について判例は,次のような理論を形成している。
1 登記簿上A名義になっている間にXの取得時効が完成したときは,XはAに対し,時効による所有 権取得を主張し,所有権移転登記を要求することができる(大判大正7・3・2民録二四輯四二三頁等)。 原始取得である時効取得には当事者はないが,登記名義人は当事者たる地位にある者とみなすべきであ るからである。
2 Xの取得時効が進行中に,当該土地がAからYに譲渡されても,さらに所有権移転登記がされても, Xの取得時効はそのまま進行し,完成し,Xは所有権を取得する。そしてYに対して所有権取得を主張 して,所有権移転登記を要求することができる。この場合,Yは1のAと同様に当事者とみなされ,第三者でないからである。
3 Xの取得時効が完成した後に,AからYに譲渡された場合には,Xは登記なくしてYに所有権取得 を対抗できない。時効完成時にAからXへ所有権移転があったものとみなすと,その後のAからYへの譲渡と いわゆる二重譲渡関係に立つからである。
4 時効の完成時期は,必ず時効の基礎たる事実の開始された時を起算点として決すべきで,Xが任意 に起算点を選択して,登記を不必要ならしめることはできない。これは,AからYへの所有権移転登記が 時効の完成前になるような時点を時効の起算点として選択することにより,一〇年(一六二条一項の場合 には二〇年)以上占有を続けたXが常に登記なくしてYに対抗しうることになると,3の立場を没却する ことになるからである。
通説は判例理論に賛成しているが,学説の中には,所有権の移転が時効完成の前か後かで登記の要否 を区別するのはおかしいと判例を批判するものもある。ひとつは,2を批判して,例えばXとYが二重 譲渡関係にある場合,先にYが所有権移転登記を得ても,Xが一〇年間占有を継続すれば登記なくして Yに所有権を対抗できることになり,一七七条に反し,登記を軽視するものであるとして,時効完成前 にYが所有権移転登記をした場合には,その時点からさらに時効期間を経過しなければXは時効により 所有権を取得しないとするものがある。他方,これとは逆に,3及び4を批判し,時効制度は一定の事 実状態が継続する場合にそれが真実の権利関係と一致するか否かを問わず,そのまま権利関係として認 め,保護しようとするものであるから,所有権の存否が問題になった時点から逆算して法定の期間の占 有継続があれば,時効取得を保護して,登記なくして第三者に対抗しうるとするものである。なお,起算点を任意に選択しうるとする見解も同じ結果になる。また,このように逆算を認めながら,時効完成 後取得時効に基づく所有権取得の勝訴判決がなされた以後の第三者には登記なくして対抗できないとす る見解もある。
しかしながら,前者の見解は,法律に規定のない時効の中断事由を認めることになるし,そもそも占 有が継続しているのに何故時効が中断されるのかを説明できない。また,後者の見解では,法定の期間 以上占有している者は何人に対しても登記なくして所有権を対抗しうることになり,登記制度を無視す ることになるし,時効取得者が時効期間の経過後も自己の権利に対して無関心でいる場合には,むしろ 現実に登記を得た者を保護するのが実質的にも妥当ではないかとも思われる。
そこで,本問について検討するに,判例の立場をとれば,YはXの取得時効完成後にAから譲り受け たのであるから,3により,XはYに対し登記なくして時効による所有権取得を主張しえず,また,4 により,実際の占有開始時と異なる昭和 53 年3月3日から占有していたとして時効取得を主張するこ ともできないことになる。したがって,逆に,YはXに対し,所有権に基づいて甲土地の明渡しを請求 できることになる。 これに対し,時効の起算点を任意に選択しうるとする見解をとれば,Xは,昭和 53 年3月3日から 占有していたとして時効取得を主張することができ,その結果AY間の売買はXの取得時効の完成前と いうことになり,2により,Xは登記なくしてYに時効による所有権取得を対抗できる。したがって, XはYに対し,甲土地の所有権移転登記を請求することができる。

 

三 AY間の売買の有効性について
1
以上は,Yが所有権を取得していることを前提にしたものである。しかし,本件では,AY間の売買 は通謀虚偽表示によるものというのであるから,民法九四条一項により無効である。したがって,Yに甲土地の所有権は移転していないことになる。
2
また,登記は実体的権利変動を公示するためのものであって,登記さえあればこれに示された権利関係を第三者に主張しうるというものではないから,実体上の権利変動がない限りその登記は無効である。
3
したがって,二でいずれの見解をとるかにかかわらず,Xは,時効を援用し,かつ,AY間の売買の 無効を主張することにより,Yに対し,時効による甲土地の所有権取得を主張することができ,所有権に基づいてAY間の所有権移転登記の抹消登記を請求しうることになる。

 

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