司法試験の勉強会

司法試験の勉強会

現役弁護士が法学部1年生や司法試験受験者向けに法律の基礎を書くブログです。ブログを続けるモチベーションになるので、1日1回ブログ村のボタンを押して頂けるとありがたいです。

物権変動における公示の原則と公信の原則について解説

例題 物権変動における公示の原則と公信の原則について比較して説明せよ。

 

一 物権の公示の必要性


物権は,その客体から権利者の自由な意思で一定の収益を収めることができる権利(支配権)であるから,同一の物の上に同一内容の物権は両立しえず,当然に排他性が帰結される。
したがって,その物についてその所有権を譲り受けるとか,担保権の設定をさせようとする者にとっては,その物の上に,誰がどのような内容の物権を持っているかを事前に知ることができるかどうかは, 確実にその意図する権利を取得する上で不可欠である。
そこで,取引の安全と迅速を確保するためには, 物についてどのような内容の権利が誰に帰属しているかという物権の現状を,外部から知りうる一定の表章で公示することが必要となる。
そして,取引の安全のためには,その公示に対する信頼を保護することが必要となる。公示の原則も公信の原則も,この信頼保護のための原則であるが,保護される信頼の態様が異なっている。

二 公示の原則


公示の原則は,物件変動について,これに対応する公示方法(登記・引渡しなど)上の変動を必要とする原則である。
これは,登記や引渡しなどの公示方法上の変動がないときは、物権の変動はないであろうという信頼(消極的信頼)を保護することを目的とするものである。
この原則を制度化するには,1登記・引渡し等を物権変動成立の成立要件ないし効力発生要件とする方法(形式主義)と,2物権変動自体は意思表示だけで成立する。(意思主義)としながら,登記・引渡しを第三者対抗要件とする(対抗要件主義)の二つの文法主義がある。
実体的物権変動があるときに,それに対応して変動した公示方法の具備を求めるとともに,そのような公示を伴わない場合には,その効力が発生せず,または第三者に対抗できないという形で不利益を受けさせるのである。
我が民法は後者を採用していると理解される(一七六条,一七七条,一七八条)。
すなわち,不動産については登記が,動産については引渡しを備えることによって,物権変動を第三者に対抗し得るものとされている。
そこで,1 A 所有の不動産が,B に売られていたとしても,その登記がされていない間は,C は,その所有権移転はないものとして A と取引をすることができ,B よりも先に登記を備えてこれを公示すれば,B に対抗することができる。
他方,実体的物権変動が存存するときに,これに対応する公示がある限りでその公示への信頼が保護されるに過ぎないから,2 A 所有の不動産を B が書類を偽造して勝手に自己名義に移転登記したような場合には,C がこの B 名義の登記を信頼したとしても,AB 間に実体的物権変動はない以上,C は B からその不動産を取得できない。

三 公信の原則


公信の原則は,公示を信頼して取引をした者は,たとえその公示が真実の権利と合致していなくとも,その公示通りの権利が存在したのと同一の法律効果が受けられるという原則である。
これは,公示に対応する権利が存在するであろうという信頼(積極的信頼)を保護することを目的とする。
この原則を採用すると,公示を信頼したものは,その公示の相手方が実質的無権利者であっても権利を取得することができるが,反面,真実の権利者は,自分がその変動に関与していなくとも,その権利を失うことになる。
前記二2の例では,実質的無権利者である B 名義の登記を信頼した C は権利を取得するが,真実の権利者 A はその権利を喪失することになる(あとは金銭的損害回復の途が残されるだけである。)。
要するに,真実の権利者の静的安全を犠牲にして,取引に入る第三者の動的安全を保護するわけである。 我が民法は動産にのみこの原則を採用している(一九二条)。
動産は,流通性が激しく,他面で占有という公示方法が不完全(占有により公示される権利が所有権なのか,質権なのか,賃借権等なのか明らかにできないし,占有の態様についても代理占有がある)であるために,真実の権利関係を調査するのに限界があること,ほかに合理的な代替手段がないことから,取引の安全を確保するためにこの原則を採用したのである。
他方,不動産については,公信の原則は採用されていない。
けだし,不動産が社会生活の基礎となっている場合が多く,動的安全だけでなく静的安全の重要性も看過しえないことに加え,我が国では,登記が物権変動の成立・効力要件ではなく,さらに登記について登記官に形式的審査権しか認められていないなど,真実の権利関係と公示との食い違いを最小限にするための制度的対応策がとられていないことから,公信の原則を採用するのは適当ではないと立法者が判断したためであろう。
ただし,九四条二項の類推適用に関する判例法の結果,不動産についても一定の条件の下で事実上公信の原則が認められ たのと同じ結論が導き出される。

四 論述のポイント


設問は,「比較して説明せよ」というのであるから,公示の原則と公信の原則の共通点・相違点が明らかになるように注意しなければならない。いずれも,取引の安全のために,公示に対する信頼を保護する原則であるが,前者が消極的信頼を保護の対象とするのに対して,後者は積極的信頼を保護の対象とする点に相違があるという点をしっかり押さえること。