司法試験の勉強会

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【ゼロから始める法学ガチ解説シリーズ】量的過剰防衛とは?わかりやすく解説【刑法】

甲は,知人であるAから罵られたため,言い返したところ,Aは,甲にむかって手を振り上げた。次の場合における甲の刑事責任(特別法違反の点は除く。)を論ぜよ。
甲は,Aから暴行を受け,これに対応するためにAの顔面を手拳で殴打した。Aは甲から殴打されたことによって体勢を崩して転倒し,頭部を地面に強打した。Aはそのまま気を失い,甲もそれに気づいていたが,Aから突然殴られたことに憤りを覚え,怒りに任せてAの腹部を十数回蹴った。Aはその後死亡したが,死亡の原因は,頭部を地面に打ち付けたことによる外傷性くも膜下出血であった。

 

asuparapon.hatenablog.com

 

 ※ 本問は,量的過剰防衛の理解を問う問題である。今までの問題は,行為をまず特定し,それについての犯罪の成否を検討してきたが,この問題は,両方の行為の関係性について論じる必要がある。

⇒ しかし,最初に行為を分断することを明記して記載してしまうと,量的過剰防衛の理解を示しがたくなってしまうところに,さらに難しいポイントがある。

 

 1 前提知識

  過剰防衛には2種類があることを理解する。

   ⑴ 質的過剰防衛

    相手方の攻撃に対して,防衛行為そのものが,「やむを得ずした行為」(必要性相当性)を充たさない態様で反撃した場合(侵害行為はまだあるが,手段面で過剰な類型)

   ⑵ 量的過剰防衛

    侵害行為そのものは終了した(相手方の攻撃がやんだ)後も,なお攻撃をしてしまった場合

 

  過剰防衛の刑の任意的減免の根拠は,上述のように,心理的な焦り等から適切な行為を咄嗟にとりがたい場面においては通常の場合と比べて責任非難を強く加えることができないという点にある。

  侵害が終了した後の局面おいても,心理的な焦りから不必要に攻撃を加えてしまうことがあり得るから,そのような場合には,先行防衛行為と後行侵害行為の一体性を肯定して,量的過剰防衛として36条2項を適用し得る。

  しかし,以上のような趣旨からすれば,心理的な焦りとは異なった局面である場合,具体的には,相手の侵害行為が終了しているのを分かっているにもかかわらず,攻撃の意思を生じてさらに攻撃を加えた場合においては,一連の行為とみることはできないから,量的過剰防衛は成立しないと考えられる。

 

 判例…最決平成20年6月25日刑集62巻6号1859頁

  「第1暴行により転倒したXが,被告人に対し更なる侵害行為に出る可能性はなかったのであり,被告人は,そのことを認識した上で,専ら攻撃の意思に基づいて第2暴行に及んでいることは明らかである。そして両暴行は,時間的,場所的には連続しているものの,Xによる侵害の継続性及び被告人の防衛の意思の有無という点で,明らかに性質を異にし,被告人が前記発言(注:「おれを甘く見ているな。おれに勝てるつもりでいるのか。」などの発言)をした上で抵抗不能の状態にあるXに対して相当に激しい第2暴行に及んでいることにもかんがみると,その間には断絶があるというべきであって,急迫不正の侵害に対して反撃するうちに,その反撃が量的に過剰になったものとは認められない。そうすると,両暴行を全体的に考察して,1個の過剰防衛の成立を認めるのは相当でなく,正当防衛に当たる第1暴行については,罪に問うことはできないが,第2暴行については,正当防衛はもとより過剰防衛を論ずる余地もないのであって,これによりXに負わせた傷害につき,被告人は傷害罪の責任を負うというべきである。」

 

 2 両方の行為にまたがる場合の起案の仕方

  何を問われている問題であるか毎に書き方と分けると書きやすい。

  本問のような量的過剰防衛の問題については,まず,第1行為と第2行為をそれぞれ分けた場合について仮定的に罪の成立を書き,第2行為の違法性・責任阻却事由の検討の中において,第1行為と一体として捉えて量的過剰防衛の成立が認められないかを検討するのが望ましい。

 

 例 

  1 ⑴ 甲が顔面を手拳で殴打した行為(以下「第1行為」という。)単体で検討すると,人の身体に対する有形力の行使であって「暴行」(刑法208条)にあたり,それにより,Aは頭部を地面に打ち付けて外傷性くも膜下出血を生じているため,人の生理的機能に障害を加えているので,結果的加重犯としての「傷害」(刑法204条)にあたる。さらに,この傷害によって,Aは死亡しているので,甲の第1行為は,傷害の結果的加重犯として傷害致死罪(刑法205条)の構成要件に該当する。

    ⑵ もっとも,第1行為はAからの暴行という甲の身体への急迫不正の侵害に対応するため,「防衛の意思」に基づいて行われた行為である。また,第1行為は結果的にはAの死亡をもたらしているが,用いられた手段としては,単にAの顔面を殴るというものであり,これはAからの暴行に対する反撃として必要最小限度の行為であるといえるから,必要性相当性を満たし,「やむを得ずした行為」といえる。

したがって,同行為を単体で見た場合には正当防衛(刑法36条1項)が成立する。

  2 ⑴ 甲がAの腹部を十数回蹴った行為(以下「第2行為」という。)についても単体で検討すると,同行為は,第1行為と同様に,人の身体に対する有形力の行使であるので,「暴行」(刑法208条)であり,暴行罪の構成要件に該当する。

    ⑵ しかし,第1行為と異なり,この段階では,すでにAは頭部を地面に強打して気を失っているので,急迫不正の侵害は終了している。したがって,正当防衛状況にないので,正当防衛は成立しない。

    ⑶ しかし,第1行為と第2行為は時間的場所的に近接している行為であることから,第1行為と第2行為を一連の行為として捉えて,いわゆる量的過剰防衛として刑法36条2項により刑の任意的減免を受けることができないかが問題となる。

      過剰防衛の刑の任意的減免の根拠は,心理的な焦り等から適切な行為を咄嗟にとりがたい場面においては責任非難を強く加えることができないという点にある。

      そうすると,侵害終了後の局面おいても,心理的な焦りから必要以上に攻撃を加えてしまうことがあり得るから,そのような場合には,先行防衛行為と後行侵害行為の一体性を肯定して,量的過剰防衛として36条2項を適用し得る。

      しかし,以上のような過剰防衛の根拠からすれば,心理的な焦りとは異なった局面である場合,具体的には,相手の侵害行為が終了しているのを認識しているのに,攻撃の意思を生じてさらに攻撃を加えた場合においては,一連の行為とはみれないから,量的過剰防衛は成立しないと考える。判例も同様であると解される。

      本件では,甲はAが気を失ったことに気付いており,また,Aの行為に憤りを覚えて怒りに任せて第2行為を行っており,Aの侵害行為が終了しているのを認識し,かつ,専ら攻撃の意思に基づいて第2行為を行ったといえる。

      そうすると,第1行為と第2行為は一連の行為とは見ることができない。

      したがって,第2行為について量的過剰防衛の成立を認められず,単に暴行罪が成立する。

   3 結論

    以上より,甲の第1行為は傷害致死罪の構成要件に該当するが,正当防衛が成立するので罪とならず,第2行為は暴行罪が成立することから,甲は,第2行為にかかる暴行罪の刑事責任を負う。