司法試験の勉強会

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訴訟条件とは?わかりやすく解説

一 総説

訴訟条件(訴訟要件)とは,公訴の有効要件をいう。  訴訟条件が欠けている場合(訴訟障害という。)は,公訴の提起が許されず(もっとも,有効な公訴の提 起のような訴訟条件はこの場合問題にならない。),公訴が存在したとしても実体的判決(有罪もしくは無 罪の判決)をすることができず形式的裁判で訴訟手続を打ち切らなければならない。このように,訴訟条 件は,一部の例外(例えば,被告人が,公訴提起後,管轄区域外に転居したような場合)を除いて,訴訟 手続を通して終始存在することが必要とされる。訴訟条件の追完が許されるかについては議論があり,訴 訟経済等を理由にこれを肯定する説もあるが,判例(大判大五・七・一刑録二二巻一一九一頁)はこれを 消極に解するものと考えられている(なお,最判昭三三・一・二三刑集一二・一・三四,最決昭三六・一 〇・三一刑集一五・九・一六五三参照)。  
なお,訴訟条件は,これが欠けている場合無罪もしくは刑の免除の実体的判決がされる点で,処罰条 件とは区別されなければならない。  
訴訟条件は,一般的訴訟条件と特殊的訴訟条件(親告罪の告訴のように一定の事件のみに必要とされる もの),絶対的訴訟条件と相対的訴訟条件(土地管轄のように被告人の申立が必要なもの),積極的訴訟条 件と消極的訴訟条件(同一事件の訴訟継続のようにある事実の不存在が必要とされるもの)などに分類さ れることもあるが,公訴棄却,管轄違の事由と免訴事由との区別に対応して,形式的訴訟条件(手続条件) と実体的訴訟条件(訴訟追行条件)とに区別されることが一般的である。  
以下,この区別に従って,訴訟条件をみていくこととする。

二 形式的訴訟条件

形式的訴訟条件とは,これが欠けたままでは訴訟追行を許さないものをいう。三二九条,三三八条, 三三九条がこれを規定するが,三二九条の場合は管轄違の判決をし,三三八条の場合は判決で三三九条 の場合は決定でそれぞれ公訴を棄却することになる。
三三八条四号の例としては,親告罪における告訴の不存在,訴因の不特定,道路交通法の反則行為に つき反則金納付通告の不存在,公訴権濫用(理論的には肯定されるが現実的にはほとんど考えられない。) 等がある。  
形式的訴訟条件の共通点としては,その存否の判断に事件の実体に止ち入る必要がなく,純手続的事 項について審理すれば足りるという点が挙げられる。もっとも,三三八条二号,三号,三三九条一項五 号については,ある程度の実体に立ち入った判断が必要となる。また,管轄違及び公訴棄却の裁判は既 判力を有さず,検察官は後日訴訟条件が整えば同一事件につき再び公訴を提起することができる。

三 実体的訴訟条件

実体的訴訟条件とは,これが欠けた場合には,およそ訴訟追行を許さない事由をいう。三三七条がこ れを規定するが,狭義の公訴権が存在しない場合のことであり,免訴の判決により訴訟手続を打ち切る ことになる。  
免訴事由は,三三七条所定のものに限定されず,少年が保護処分を受けたとき(少年法四六条参照)の ような場合にも類推適用されると解されているほか,憲法三七条一項の迅速な裁判の要請に反するよう な事態が生じた場合は,判決で免訴の言渡しをすべきであるとされている(最判昭四七・一二・二〇刑集 二六・一〇・六三一)。  
免訴の判決は既判力を有し,検察官は再び公訴を提起できなくなる。このようなことを説明するため, 免訴は実体関係的形式裁判であるとする説もあるが,前記のとおり形式的訴訟条件にも実体的判断の必 要なものもあるので,必ずしもそのようにいいきれるものではなく,結局,免訴判決の既判力は政策的 なものというほかない。  
免訴の裁判の性質を形式的裁判と解する場合,実体的訴訟条件が欠けているときには,たとえ犯罪事 実の不存在が認められても無罪判決をすべきではなく,免訴判決をすることになる(最判昭二三・五・二 六刑集二・六・五二九)。

訴訟条件と訴因

訴訟条件は訴因に関わるものが多いが,1甲事実については訴訟条件が欠けるが,乙事実に訴因を変 更すれば訴訟条件が備わる場合,2甲事実については訴訟条件が備わっているものの乙事実しか認定す ることができず,乙事実に訴因変更すれば訴訟条件が欠ける場合などにどのような扱いがされるかが問 題になる。  
1の場合,検察官が訴因変更を請求すれば裁判所はこれを許可して実体的裁判をすべきであり(最決昭 二九・九・八刑集八・九・一四七一),2の場合,審判の対象は訴因であり,訴訟条件の存否も訴因を基 準に決せられると考えるならば,甲事実に訴訟条件が備わっている限り,形式的裁判をすることは許さ れず,検察官が訴因変更をすれば形式的裁判を,しなければ無罪の実体的裁判をすべきであろう。但し, 乙事実が甲事実に訴因として包含されるような場合には,特に訴因変更を要さずして形式的裁判ができ る(最判昭三一・四・二一刑集一〇・四・五四〇,最判昭四八・三・一五刑集二七・二・一二八頁参照)。