司法試験の勉強会

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刑訴法事例問題

裁判所は「被告人は,×日A方において同人所有の現金五万円を窃取した」との訴因につい て審理したうえ,「被告人は,×日窃盗の目的でA方に侵入し,同所において,同人所有の現金 五万円を窃取した」との有罪判決をした。
右の有罪判決にはどのような瑕疵があるか。

 

(一) 旧刑事訴訟法は審判の対象を公訴事実と解していたが,現行法は刑事訴訟法二五六条において,公訴 事実は訴因を明示して記載しなければならないと定め,英米法上の訴因(count)の概念を導入した。そ のため,訴訟における審判の対象を,公訴事実と解するか,訴因と解するかについて学説の対立が生じ た。 訴因は,犯罪の構成要件に該当する事実,すなわち,「罪となるべき事実」と考えられており,これ に対して公訴事実は,「罪となるべき事実」の背景として存する,具体的,歴史的事実であると考えら れている。 審判の対象とは,裁判所がその事実の存否について判断する権利及び義務を有する範囲であることは いうまでもないが,旧法が公訴事実を審判の対象としたことから,現行法のもとにおいても,公訴事実 をもって審判の対象とする見解が根強く残っている。そして,このように説く見解は,審判の対象たり うるためには,具体的,歴史的事実でなければならないとする(青柳文雄)。また,審判の対象を公訴事 実としたうえで,訴因を審判の主題である(平場安治)とか,判決を拘束するもの(横川敏雄)と解する見解 もある。しかし,現行法は訴訟構造として当事者主義を原則的に採用しているのであるから,審判の対 象は自ら検察官の主張でなけれはならず,また被告人の防御の対象としても充分限定されている必要が ある。そうだとすれば,審判の対象を歴史的事実と考えるのでは,現行制度の越旨に反しているものと いうべきで,審判の対象は「罪となるべき事実」すなわち訴因と解するのが正当というべきである(平野 龍一)。もっとも,審判の対象を訴因としたうえで,公訴事実を潜在的審判の対象とする見解もある(団 藤重光)。 なお,近時公訴事実は審判の対象の抽象概念であり,訴因はこれに包含される具体的事実関係である とする見解(松尾浩也)がある。この見解によるならば,公訴事実と訴因とを区別し,審判の対象がいず れであるかを議論することは実益に乏しいことになる。


(二) さて,公訴事実は具体的,歴史的事実を指すのであるから,具体的,歴史的事実が同一である限り, 公訴事実が同一であると考えられることになる。例えば,被告人がAより金員を強取したという事実と, 喝取したという事実は,両事実が,日時,場所を同じくし,或いは近接している限り,歴史的には同一 の事実と解しうるのである。このことを公訴事実の同一性があるという。 しかしながら,本問のように,被告人のA宅への住居侵入とAよりの窃盗の事実,Aよりの窃盗のみ の事実の両事実の間には,Aよりの窃盗に住居侵入の事実が付加されたか否かの差異がある。従って,厳密な意味では両事実の間には歴史的事実の同一性があるとはいい切れない。もっとも,住居侵人と, 窃盗とは,科刑上一罪(牽連犯)として処理される関係にある。してみると,両事実は一罪として扱われ る以上,訴訟法上一個の犯罪として取扱ってよいことになる。このことを,窃盗と住居侵入とは公訴事 実が単一であるという。公訴事実の単一性の問題は,いうなれば罪数の問題そのものということになり, 公訴事実の同一性との区別が種々に論じられてきた。しかし,右に述べたところから明らかなように, 両訴因が両立しえない場合が公訴事実の同一性の問題,両立しうる場合が単一性の問題となる。 そこで,本問では被告人の住居侵人と窃盗の行為は単一,つまり一個の事実として把えうるわけで, この事実と窃盗のみの事実とを比較するならば,やはり歴史的事実としては同一であり,公訴事実の同 一性があることになる。なお,公訴事実の単一性については,広義の同一性にふくまれるものとして, 論じられてきている。


(三) しかし,審判の対象を公訴事実と解する限りは,窃盗の訴因に対して,住居侵入及び窃盗の事実を認 定することは,同一の公訴事実の範囲内で裁判所が事実を認定したことになり,なんら違法は存しない ことになる。だが,審判の対象を訴因と解したならば,窃盗の訴因の範囲を逸脱して事実を認定したこ とになる。すなわち,住居侵入及び窃盗と窃盗のみの各訴因との間には,訴因の同一性は認めることが できないのである。従って,裁判所は審判の対象となっていない事実の存否を判断したことになる。 そこで,刑事訴訟法三七八条三号にいう,審判の請求を受けた事件の意義が問題となる。審判の請求 を受けた事件について,これを公訴事実と解する立場と,訴因と解する立場とがあるが,この見解の対 立は,すでに述べた審判の対象を公訴事実と解するか,訴因と解するかによって生じたものということ ができる。また,訴因を審判の対象と解しつつ,公訴事実を潜在的審判の対象と考える立場では,本号 前段の事件を公訴事実の意味に,後段を訴因の意味に解している。さらに特殊な立場においては,本号 後段の事件について,公訴事実の同一性のある場合には訴因をこえて認定してよいが,単一性のある場 合には訴因をこえて認定してはならない趣旨と解する立場もある(鈴木茂嗣)。しかし,すでに述べてき たように,審判の対象を訴因と解する以上は,本条本号の前段,後段いずれについても,審判の請求を 受けた事件の意義を画一的に考えるべきもので,これは訴因を指称しているものと解するのが相当であ る。従って,本問の有罪判決は,住居侵入を認定した部分において,本条本号に違反しており,この事由は絶対的控訴理由となる。

(四)控訴理由のうち、刑事訴訟法三七七条,三七八条の定めるもの絶対的控訴理由と言われ,この事由が存する限りは,判決への影響の有無を問わず。原判決は必ず破棄されることになる。従って,本問の有罪判決も破棄されることとなる。
判例(最決昭和25年6月8日)は本問類似の事案について,審判の請求を受けない事件について判決し たものとしながらも,両罪は科刑上一罪の関係にあるから,破棄しなければならない程著しく正義に反 したものではないとしている。これは,本問の有罪判決の瑕疵は,上告理由にはあたらず,刑事訴訟法 四一一条一号の事由として,上告審が,職権により著しく正義に反する場合に破棄する理由にあたるに すぎないことによるものである。 従って,本問有罪判決は,控訴審においては絶対的控訴理由となり破棄されるが,上告審においては, 上告理由とならず,職権でも破棄されることはない。