司法試験の勉強会

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窃盗罪の保護法益とは?わかりやすく解説

犯罪は法益,即ち法的に保護された利益の侵害である。
従ってある罪の保護法益は何か,という問題は,当該の法規,各個の構成要件が法的に保護しようとしている利益は何か,と言いかえることができよう。
窃盗罪の保護法益については,いわゆる本権説と占有説(所持説)との間で争いがある。

本権説

窃盗罪の保護法益は,財物に対する他人の所有権その他の本権であるとする立場であり,学説上ほぼ通説的見解であるとされている。
この説の根拠としては次のような点があげられる。
文理上の理由として,刑法二三五条は「他人ノ 財物ヲ」と規定しているが,これは他人の「占有」する財物と規定されていない以上,他人の所有に属する財物という意味に理解さるべきであること。
比較法上の理由として,フランス,スイス等外国刑法典の規定において保護法益は本権と解されること。
実際上の理由として,刑法が法益保護を目的,任務とする以上,その法益は法律秩序により肯定されることが必要であり,本権と切り離された単なる占有自体は刑法上保護に値しないこと,などである。
この説によれば,刑法二四二条は,特に例外的に,被害者に本権がなくともその占有する財物について窃盗罪の成立を認めた規定であり,同条の「他人ノ占有」とは権原に基づく占有であることを要 することになる。
また被害者が窃盗犯人から財物を取戻す行為は,窃盗犯人には保護さるべき本権がないから無罪であり,窃盗犯人から第三者がさらに盗む行為は,本権者(元の被害者)に対する窃盗罪 を構成することになるとする。

占有説

窃盗罪の保護法益は,単なる財物の占有自体であるとする立場である。
この説の根拠としては,文理上の理由として,刑法二四二条は自己の財物でも「他人ノ占有ニ属」 するものは「他人ノ財物ト看做ス」と規定し,占有そのものを保護しようとしているが,その趣旨は二 三五条の解釈にも及ぶべきだと考えられること,旧刑法三六六条は窃盗罪について「人ノ所有物ヲ窃 取シタル者」と規定していたが,現行刑法はわざわざ「所有」という言葉を用いていないこと,実際上の理由として,現代の複雑な財産関係の下においては,窃盗罪の規定の機能は,本権が誰にあるにせよ,まず占有された財物の財産的秩序を保護することに重点が置かれるべきであることなどがあげられる。
この説によれば,刑法二四二条は,財物の他人占有自体を保護するという当然のことを,いわば注意的に規定したにすぎないことになり,従って同条の「他人ノ占有」は必ずしも権原によるものでなくてもいいことになる。
また被害者が窃盗犯人から財物を取戻す行為は,違法性阻却事由の一種である自救行為の要件を備えた場合以外は窃盗罪を構成し,窃盗犯人から第三者がさらに盗む行為は,窃盗犯人に対する関係で窃盗罪を構成することになる。
ただ,この説のように窃盗罪を占有に対する侵害ととらえると,窃盗犯人が後に賍物を処分する行為が占有への侵害を超えて本権(例えば所有権)の侵害に及ぶような場合に,これを不可罰的事後行為として,すでに当初の窃盗で評価し尽くされたと説明しにくい点が指摘される。

中間的学説

右の両説の中間的な考え方として,窃盗罪は究極的には本権の保護をめざしつつも,その前提として,まず財物の占有自体を保護法益としているととらえた上,ただ,その占有とは,明らかに違法な占有まで含むべきではなく,必ずしも権原による占有,適法な占有に限られないが,少なくとも刑法的に保護に値する,社会生活上「一応理由のある占有」に限るべきだとする見解がある。
基本的には占有説に近いが,その「占有」にしぼりをかけた考え方といえよう。
この説の根拠としては,刑法が法的保護を任務とする以上,法益は法律秩序により肯定されることが必要であること,但し,現代社会の複雑な財産関係の下では,本権の存在等が外見上認識困難であり,これを十分保護するためには,まず占有そのものを独立に保護の対象とすることが必要であることが主張されている。
この説によれば,二四二条の考え方は占有説に近いが,「他人ノ占有」とは前述のように一応理由のある占有であることを要することになる。また,前述の問題は,その場で取戻す場合のように窃盗犯人の占有が未だ十分確立していないような場合を除き,窃盗罪の成立を肯定することになろうし, 第三者との関係では窃盗犯人の占有も一応理由ありとみて占有説と同様の結論になろう。
そして不可罰的事後行為については,「一応理由のある占有」は間接的に本権と結びつきうるから,当初の窃取行為で本権への侵害も間接的にあったとして説明ができることになる。

判例

大審院判例は本権説をとっていたと理解される。
大判大正7年9月25日は,法令上担保に供することを禁止されている恩給年金証書を債権者に担保として交付した後,これを騙取したという詐欺罪に関する事案であるが,一般論として「刑法二四二条は占有者が適法にその占有権をもって所有者に対抗しうる場合に限って適用されるべきである」旨判示した。
ところが最高裁になってから判例は占有説的な考え方を示している。
最判昭和35年4月26日は,貨物自動車を譲渡担保にとった債権者が,債務者において引続き占有保管している右自動車を,無断で運び去ったという事案について,「窃盗罪の保護法益は他人の所持,占有であり,それが所有権その他の本権に基づかなくとも,これを侵害する所為は窃盗罪を構成する」とした原判決を支持し,同旨の考え方をとる最高裁判例を列挙した上,これらにより上述の「大審院判決は変更された」と判示している。
もっとも具体的事案と照らしてみる時には,最高裁がはたして純粋な占有説をとっていると断言できるかは疑問であり,むしろ右の第三説に近いのではないかと考えられる。