司法試験の勉強会

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手附とは?わかりやすく解説

一 手附の意義及び種類

手附の意義

 手附とは,契約に際し当事者の一方から相手方に対して交付される金銭その他の有価物である。要物 契約であり,他の契約に附随して締結されるから従たる契約である。

手附の種類

(イ) 証約手附
       契約締結の証拠として授受される手附。これはすべての手附に共通.      する手附の最小限度の効力である。
(ロ) 違約手附
       債務不履行の際には没収されるという趣旨で交付される手附。これには併せて損害賠償を請求しう る純粋の違約罰と損害賠償の予定としての意味を持つものがある。民法が違約金をもって損害賠償の 予定としている(民法四二〇条三項)点からみて,いずれか不明の時は損害賠償の予定とみるのが相当 である。
(ハ) 解約手附
        契約解除権留保の対価たる意味を持つ手附。授者は手附を放棄し,受者は倍額を償還することによ り,解除原因がなくとも契約を解除することができる。

二 手附の認定

1 当事者は手附の交付にあたりその趣旨を明確にしない場合が多く,その場合いずれの手附と認定すべ きかという解釈問題がおこる

判例は,民法五五七条が解約手附についてのみ定めていることから,本条をわが国の解約手附性の慣行を尊重したものとして,手附は原則として解約手附であると推定し,他種の手附であることを主張す る者は別段の意思表示のあったことを主張・立証しなければならないとし(最判昭二九・一・二一民集 八・一・六四),さらに,解約手附性はその違約手附性と矛盾するものではないとしている(最判昭二四・ 一〇・四民集三・一〇・四〇七)。

3 これに対しては,手附は本来契約の拘束力を強めるためのものであるのに解約手附が原則であるとす るのは矛盾であるとする批判があるが,現代のわが国の法意識が解約手附性よりも違約手附性を認める に傾いているかについてはなお疑問がある。手附損,倍返しの旧慣はなお根強いものがあり,手附は解 約手附であるという推定を認めておいたうえ,なお個々の契約について当事者の意思を率直に追求する という態度を保持すれば十分であろう。

三 解約手附による解除

解約手附が交付された時は,当事者の一方が履行に着手するまで契約を解除することができる。ここ では要件効果で問題になる点をいくつか述べる。

1 (イ) 要件でもっとも問題となるのが履行の着手の概念である。判例は「履行に着手」するとは,「客 観的に外部から認識しうるような形で履行行為の一部をなし,または,履行の提供をするために 欠くことのできない前提行為をした場合」をさすとしている(最判昭四〇・一一・二四民集一九・ 八・二〇一九)。具体的には,買主が売主に履行を求め,登記があればいつでも代金を支払うべく 残代金の準備をしていたとき(最判昭三三・六・五民集一二・九・一三五九),履行期日前におい ても残代金支払と引換に目的物の引渡を求めた時(最判昭四一・一・二一民集二〇・一・六五)等 は履行の着手があったとされている。

 (ロ) 本条は履行に着手したことにより費用を支出し,契約の履行に期待を寄せている相手方を保護 する趣旨の規定であるから,自ら履行に着手した場合であっても相手方が履行に着手しない時は なお本条による解除をなしうると解すべきである。

 (ハ) 解除をなすためには,手附流しの場合は解除の意思表示で足りるが,倍返しの場合にはさらに 倍額の提供をすることが必要である。

2 この解除は債務不履行による解除ではないから,解除の効果として損害賠償請求権は発生しない。

3 解約手附解除には当事者が履行に着手するまでと期間の制限があるので民法五四七条(催告による解除 権の消滅)の適用はない。

四 その他

1 契約が履行された時は手附はその意義を失い,交付者は不当利得として返還を請求することができる。 しかし代金の一部に充当されるのが普通である。

2 契約が無効,取消,合意解除された時は,手附契約も従たる契約として主たる契約と運命をともにし, 交付者は不当利得としてその返還を請求しうることとなる。

 

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