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受領遅滞の意義と効果とは?わかりやすく解説

債権者が債務の内容を実現するためには,債務者の行為だけで足りる場合もあるが,債権者の協力(受 領)を要する場合も多い。後者においては,債務者が一方的にできる限りのことをしたにもかかわらず債 権者が協力しない場合,債務者の責任を軽減し,債権者に責任を認める方途が必要となってくる。これ が受領遅滞であり,民法四一三条がこれを規定する。 本問では,この意義と効果が問われているが,受領遅滞の法的性質のとらえ方如何によって結論を異 にするので,まず,この点について考えてみよう。


受領遅滞の法的性質


1 法定責任説 債権は権利であって義務の観念を容れる余地がないとの伝統的立場に立ち,受領遅滞の責任は法によって特に定められた法定責任であるとする。この立場からは,受領遅滞の要件は,四一三条の文言通り,1弁済の提供があること,2債権者がそれを受領することを拒み(受領拒絶),または受領すること ができない(受領不能)こと,の二つで足ることとなり,債務不履行とは異なり,主観的要件は必要とは されないこととなる。
2 債務不履行説 債権者に受領義務を認め,それに基づく不受領は債務不履行になるとする。債権者と債務者は,当該債権を発生させる社会目的達成のため,信義則によって支配される関係に立つとの発想に立つもので, 近時の有力説である。この立場からは,受領遅滞の要件は,右 1 の1,2に加えて,3受領拒絶または 受領不能が債権者の責に帰すべき事由に基づくこと,が要求されることとなる。
3 判例最判昭和 40 年 12 月3日は,請負人が,注文主の引渡拒絶を理由に請負契約を解除して損害賠償を請求した事案につき,「債務者の債務不履行と債権者の受領拒絶とは,その性質が異なるのであるから,一般に後者に前者と全く同一の効果を認めることは民法の予想しないところというべきである。民法四一四条,四一五条,五四一条等は,いずれも債務者の債務不履行のみを想定 した規定であること明文上明らかであり,受領遅滞に対し債務者のとりうる措置としては,供託,自助売却等の規定を設けているのである。されば,特段の事由の認められない本件において被上告人の受領 遅滞を理由として上告人は契約を解除することができない旨の原判決は正当」とした。右 1 の立場に立 つものと言えよう。
もっとも,その後の判例(最判昭和 46 年 12 月 16 日)は,硫黄鉱区の採掘権を有する甲が鉱石を採掘して乙に売り渡す硫黄鉱石売買契約において,甲は,乙に対し,右契約の存続期間を通じて採掘する鉱石の全量を売り渡す約定があったなどの事情がある場合には,信義則上,乙には, 甲が右期間内に採掘した鉱石を引き取る義務があると解すべきであるとした。しかしながら,これは, 買主が理由なく引取を拒絶すると,売主が甚しく困却する事案において信義則上取引義務を認めたものであって,一般的に買主に引取義務を認めたものではなく,やはり,右 1 の立場の範囲内にとどまるも のと思われる。


受領遅滞の効果


1 四一三条は「履行ノ提供アリタル」ことを受領遅滞の要件としているので,受領遅滞の効果と弁済の 提供の効果が重複しうることについては異論がない。かかる効果としては, 1 損害賠償責任を免れる
2 契約を解除されない
3 担保権は実行されない
4 遅延利息・違約金の請求をされない
5 約定利息は発生しない
が認められることとなる。その他に,前記いずれの立場に立っても認められる効果としては次のようなものがある。
6 債務者の目的管理義務(四〇〇条)の軽減
7 危険の移転(五三六条一項の場合)
8 受領遅滞によって増加した弁済費用を債務者は請求できる
更に,債務不履行説に立った場合は,次の効果も認められることとなる。
9 債権者の損害賠償責任
10 債務者の契約解除権


答案作成上の注意


本問では,両説の対立をふまえた上で自説の根拠を十分に示し,要件・効果につき論理一貫した展開 をしなければならない。答案の形式としては,この解説とは逆に,まず,受領遅滞の効果として何を認めるべきかを利益衡量,債権法理論の観点からじっくりと論じ,そこから,受領遅滞の意義,要件を帰結するのも一つの方法であると思う。

 

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