司法試験の勉強会

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詐害行為取消権とは?事例問題と合わせて解説

多額の債務を負担している甲は,強制執行を免れるため,ほとんど唯一の資産ともいうべき 所有土地をいとこの乙に売り渡す契約を結び,その所有権移転登記を済ませた。甲乙間の売買に 先立ち同じ土地を甲から買い受ける契約を結んでいた丙は,いかなる法的構成によって,乙に対 し右所有権移転登記の抹消を求めたらよいか。

 

(一) 甲乙間にすでに法律関係が成立してしまっているため,近代法の理念である契約自由の原則によるな らば,直接の当事者でない第三者である丙が,甲乙の法律関係を左右しえないかのように思われる。し かしながら,甲は丙に対する関係では,周知のように,土地の所有権を移転できない関係に至っている のであって,そのため丙は甲に対しては何らかの権利を有していることがわかる。
さらに,甲は乙に土 地を譲渡したことにより,自らの資産を散逸させているわけではあるまいか。してみると,本問は,甲 のこのような責任財産の減少に対し,丙は甲に対して有する権利で何らかの方策が講じられまいかとい うことに帰着する。すなわち,詐害行為取消権の成否を論じることになる。


(二) 詐害行為取消権の性質については,詐害行為そのものの絶対的無効を求めるものであるとする形成権 説と,詐害行為取消による散逸した財産の返還を請求するものであるとする請求権説とが古くから対立 している。
形成権説によると訴訟の被告は,詐害行為そのものの当事者であり,散逸財産を取戻すこと までは請求しえず,そのためには別訴の提起を要することになる。請求権説によると,被告は,詐害行 為の受益者,つまり本問では乙のみでよいことになり,目的財産の引渡を求めることになる。
しかしな がら,今日の通説,判例は,すでにこのような概念の対立に関心を示さずに,折衷説をとり,詐害行為 取消権を,取消と返還請求の合一したものと把える。すなわち,被告は受益者のみということになり, 請求の内容は,詐害行為の相対的取消,及び,目的物の取戻ということになる。以上が本問では前提と なっている。


(三) それでは,丙は乙を被告として,詐害行為取消請求訴訟を提起することになるわけであるが,ここで 二つのことが問題となる。
まず第一は,丙が甲に対して有している債権は金銭債権ではないことから,このような債権に基づい て,詐害行為取消権を行使しうるのであろうか。
当初の判例は不統一であったが,大審院大正7年 10 月 26 日民事連合部判決により,否定説を採ることを明らかにした。すなわち,債権者取消権によって 保全される債権者は,取消の結果として債権者に復帰した財産から,平等割合による弁済をうることに より,救済されるのであるから,取消権を有する者は,金銭給付を目的とする債権を有する者に限ると いうのである。
これは,動産の二重譲渡において,第一の譲受人から,第二の引渡を受けた譲受人に対 してなされたものであった。さらに,大判昭和8年12月26日は,不動産の二重譲渡についても同様の判示をした。
ところが,学説は,このような判例の傾向に批判的であり,特定物債権といえども,債務 者の一般財産を担保されているものであることは,金銭債権と同様なのであり,従って特定物債権と金 銭債権とを格別に扱う合理的根拠が見出し難いし,不動産の二重譲渡の場合も,売主の無資力,売主及 び買主の悪意が要件となるのだから,決して登記を対抗要件とした,不動産の物権変動の法理論にも反 することにはならないことなどをその論拠としていた。
そこで,大審院は,不動産の二重譲渡の事案において,第一の譲渡行為である贈与の後,譲渡人が第 三者のために抵当権を設定したため,受贈者に対する移転債務が履行不能となり,そのため損害賠償債 務(金銭債務)に変じているときは,第二の譲渡は詐害行為になるとした。
その後,戦後に至り,最判昭 和 36 年7月 19 日で,判例は前記学説の見解を容れ,不動産二重譲渡の場合に,第二の譲渡行為が詐害 行為になりうることを全面的に認めた。従って,その意味において,本問については,詐害行為取消権 の行使に支障はないのであるが,しからば,丙は乙に対して直接移転登記請求をなしうるのであろうか。
肯定する学説(柚木馨)も多いが,否定する見解(我妻栄)に賛成すべきであろう。すなわち,この場合丙は あくまで甲の一般財産より満足をうける限度で詐害行為取消権を行使しうるのであり,自己の特定物債 権の弁済まで受けることを認めるのは,責任財産保全を目的とする詐害行為取消権制度の趣旨を免脱す ることになるからである。
取消の効果として,金銭の支払を求める場合には,直接取消権者に支払を求 めうると解されているが,これは債務者(本問では甲)が受領しない場合に処置がないことによるもので, 本問においてはこのことと同一には論じえない。以上のことは本問では前提となっている。


(四) 次に,第二に,甲から乙への不動産の売買が,そもそも債権者を害する行為といえるのかということ が問題となる。
つまり,売買そのものが,不当な廉価でなされた場合に,詐害行為となることは間違い ないとしても,相当な価格でなされた場合には,格別甲の責任財産に変動を生じていないからである。 従って,そのような立場から,さらには,取引の安全を害すべきでないことなどの理由から,詐害行為 にあたらないとする立場(我妻栄)もある。
しかし,やはり,詐害行為にあたると解して妨げないと思う。 すなわち,債務者の一般財産に総和として変更がないとしても,消費しやすい金銭に変えることは,共 同担保としての効力を減ずることになるからである。判例(大判明治44年10月3日,最判昭和33年7 月 10 日)も同旨である。
もっとも,債務者において,売買代金を優先債権者への弁済とか,有用なもの の購入などの有用の資に充てたならば,詐害行為にあたらないとするのが判例(前記明治44年10月3日) であるが,これは,被告である取消行使の相手方の主張立証すべき事項である。
なお,問題文から受益者,つまり取消権行使の相手方である乙の悪意の有無が明らかでなく,従って 詐害行為取消権の成否がその点から疑問のようにも考えられなくはない。しかし,これは被告である乙 の主張立証すべき事項であり,丙としては関心を示す必要がないので問題としなかった