司法試験の勉強会

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訴状の必要的記載事項について解説

1 当事者及び法定代理人の表示  

当事者は,当該訴訟において誰が原告とされ,被告とされるのかが特定できる程度に表示をしなけれ ばならない。通常は,氏名又は商号と,住所によって特定されている。  
また,当事者が無能力者ならばその法定代理人を,法人ならばその代表者を表示しなければならない。

2 請求の趣旨  

請求の趣旨とは,原告がその訴えにおいてどのような主文内容の判決を求めるのかを表示するもので あり,判決主文に対応する記載がなされるのが慣例になっている。具体例を挙げると,給付訴訟では,「被告は原告に対し,金〇円を支払え,との判決を求める」,確認訴訟では,「原告の被告に対する昭和 〇年〇月〇日付売買契約による売買代金債務が存在しないことを確認する,との判決を求める」,形成 訴訟では,「原告と被告とを離婚する,との判決を求める」というような記載がなされるのである。  
このような請求の趣旨は,判決を求める請求の範囲を明確にするものでなければならない。したがっ て,前述の給付訴訟の例でいえば,具体的にいくらの金員の支払を求めるのかを明確にしなければなら ないのであって,「相当な金員を支払え」というような記載は許されない。また,請求についての判決 を確定的に要求するのが原則であって,条件付判決等を求める請求の趣旨は訴訟手続の安定を害さない 場合に,例外的に許されるだけである。

3 請求の原因  

ここでいう「請求の原因」とは,請求の内容(訴訟物)を特定するのに必要な範囲の事実をいう(これは, 識別説とよばれる考え方である。これに対し,原告の請求を正当と認めさせる事実をすべて記載すべき であるとする考え方―事実記載説―もあるが,識別説が通説,判例である)。「請求の原因」という言葉 は,訴訟物である権利関係の発生原因にあたる事実の意味でも用いられることが多い(これを「広義の請 求原因」とよぼう)が,ここでいう「請求の原因」はもっと狭い概念で,請求の内容の特定に必要なだけ の事実を記載すれば足りるのである。  
ところで,請求の内容の特定は,請求の趣旨の記載と相まって行われる。そして,確認訴訟の場合に は,請求の趣旨の項で例示したとおり,請求の趣旨の中に請求の内容を特定し得るだけの事実が出てき てしまうため,特に改めて請求の原因を記載する必要はない。しかし,給付訴訟,形成訴訟では,請求 の趣旨の記載が抽象的であるため(前述の例を参照されたい),請求の原因において,請求の内容を特定 し得るだけの事実を記載しなければならない。  
この請求の内容の特定のためにどの程度の事実を記載する必要があるかは訴訟物理論によって異なる。 すなわち,旧訴訟物理論は,実体法上の請求権を訴訟物と考えるから,実体法上の請求権を特定し得る だけの事実を記載する必要があるとするのに対し,新訴訟物理論においては,実体法上の請求権による 区別をしないから,どのような給付,或いは形成を求めるのかを特定しさえすればよいこととなり,そ の結果,金銭請求と,代替物の給付請求についてのみ,他の請求と混同しない程度の特定を要すること になる(金銭請求,代替物の給付請求では,例えば一〇〇万円の債権がいくつも成立し得るように,給付 請求権が複数並立し得るため,これらの間の識別を可能とするための特定が要求されることになるわけ である)。
次に任意的記載事項であるが,これは,訴状に記載される事項のうち,第二項で述べた必要的記載 事項を除いたものすべてである。通常訴状には必要的記載事項の外に,前述した広義の請求の原因やそ れを裏づける事情の主張,訴訟代理人,証拠方法,付属書類,名宛ての裁判所,訴額等の記載がなされ ているがこれらはすべて任意的記載事項となる。