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契約を守らない相手の対処法!!同時覆行の抗弁権について現役弁護士が解説!

履行拒絶権

同時履行の抗弁権の本質的な効力は,双務契約における一方当事者が,相手方からその債務の履行を請求された場合に,「相手方カ其債務ノ履行ヲ提供スルマテハ自己ノ債務ノ履行ヲ拒ムコトヲ得」るこ とである(民法五三三条)。

裁判上の行使の効果

裁判外で履行を請求されたときに抗弁権を行使してこれを拒絶する場合は,行使の効力について,とくに問題はない。しかし,相手方から,訴により請求された場合に,被告の立場でなす抗弁権の行使の効力は問題である。

この場合,裁判所は,原告の請求を棄却すべきではなく,原告の給付と引換に,被告に給付を命じる判決をなすべきである。なぜなら,原告は,双務契約における一方の債務の履行を請 求している以上,その中に自己の債務の履行と引換に相手の債務の履行を求める趣旨も含んでいると解されるからである(民訴法一八六条)。

引換給付を命じた判決や,引換給付を定めた和解調書によって強制執行をする場合は,さらに問題がある。反対給付の提供の有無は,将来の不確実な事実の成否にかかわる事柄であるから停止条件である。

これを,民訴法五一八条二項の条件とみると,債権者は先履行を強制され,引換給付の趣旨に反する結果となる。したがって,反対給付の提供は,執行開始の要件(五二九条二項)と解される。なお,昭和 55 年 10 月1日から施行される民事執行法は,明文で執行開始の要件としている(同法三一条一項)。

抗弁権を行使せずに生じる効果

民法五三三条が,「拒ムコトヲ得」と規定しているため,抗弁権を行使しない場合においても,履行拒絶権以外の効力が生じるか否かは,争いのあるところである。

抗弁権は,行使によって効果が生じるものであり,抗弁権が存在するだけでは,何ら効力が生じないと主張する説もある(行使効果説)。

しかし,他方において,五三三条は抗弁権を,行使効果説のいうように,限定したものとして明示しているわけではなく,同説によると,自分は履行しないで,相手方の履行を求めることができ,双務契約における当事者間の公平を害するとして,同時履行の抗弁権が存在するだけで,一定の効力が発生することを認める説もある(存在効果説)。

この説による主な効力は次のとおりである。

第一に,同時履行の抗弁権の付着する債権を自働債権として相殺に供することはできない。

第二に,同時履行の抗弁権を有する債務者は,履行遅滞にならない。

したがって,第三に,債権者が契約を解除するためには,自己の債務の履行を提供しなければならない。