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国の財政に関する国会の権能とは?わかりやすく解説


財政とは,国家の活動に関する財力を調達し,管理し使用する作用であり,財源の調達において強制 的色彩を有すると共に,その管理,使用も国民の生活に重大な影響を及ぼす。従って,近代民主憲法は, 財政が国民の意思に由来することを定め,さらに,財政が国会の監督のもとに処理されるべきであると いう,国会中心主義を定めている。
憲法八三条は,このような理念から,財政についての総則規定とし て,国会中心財政主義を明らかにしている。
同条にいう,国会の議決とは,八四条以下に定められているように,法律,予算その他の方式によっ てなされるが,法律のように一般的抽象的内容をなすものと,国庫債務負担行為のように,個別的具体 的内容をなすものとがある。
従って,国会の議決が全てにおいて,個別的具体的であるわけではないが, 国会の意思が一般的抽象的なものにとどまれば,財政監督を期することも困難になるともいえるし,と りわけ支出面についての監督は,財源調達の面に比して具体的な内容によることが要求されるべきなの だから,憲法は財源の支出に関して,予算,国庫債務負担行為といった具体的な形式による国会の議決 を定めている。
憲法八四条は,八三条に定める国家中心財政主義を受け,さらに,国民に義務を課し,国民の権利を 制限することは法律によるという四一条の具体化として,租税法律主義を定めている。従って,租税に ついては,国会が財政を監督するには,法律の形式によるのであるが,租税の種類,根拠という一般的 準則のみを法律で定めるのでは足りず,課税物件,課税標準,税率,納税義務者等も法定することを要 する(最判昭和 30 年3月 23 日)。
国会が立法によって,財政を監督するとはいっても,個別的具体的な法 の制定が求められるわけである。もっとも,同条の解釈のうえからは,毎年租税立法をする一年税主義 も法政策上可能であるが,わが国は永久税主義を採用している。憲法が,租税について,国会の立法に よる監督を定めていることからすれば,一年税主義をとることも可能であろうが,建前は永久税主義に あるというべきである。従って,その限り国会の法律制定に基づく租税への監督は,一般的抽象的であるということができる。 このように,租税法律主義による国会の財政監督は,一般的抽象的性格を有しながらも具体的個別性 が要請されるわけであるが,現在,租税に関する細かい規定は法律が他の法形式に委任している。その ため,具体性の要請が満足されているかが問題となる。他の法形式へ委任しているものは,政令への委 任,条例への委任,条約に基づく協定税率があるが,まず,政令への委任については,国民の利益のた め急を要する事柄等の特別の必要性がある場合には,法律自体が個別的に定められている限り,本条に は違反しないと考えられているし,また,条例への委任については,法律では地方税に関して,詳細に 定め難いという実際上の必要性があると共に,地方自治の本旨にも合致するものということができるし, 条約に基づく協定税率も,法形式上条約が法律に効力が優越するため,格別に本条に違反するとは考え られない。だから,法律によって,このような法形式への委任がなされたとしても,実質的な必要性が あり,かつ,法律が個別的に委任し,包括的な委任をしていない以上は,国会の租税に対する監督を定 めた本条に反するものとはいえない。
次に,憲法八五条は,八三条を受けて,国費の支出及び国庫債務負担行為について,国会の議決を要 すると定めている。
国費を支出するについては,法律により政府に義務あるいは権能がある旨定められ ていなければならないが,一般的抽象的法律に伴う,具体的支出についても国会の監督が必要となる。国費の支出は予算の形式により国会で議決され,予算についてはさらに八六条の規定があるが,本条は 国費の支出に関する実質面を,八六条は形式面をそれぞれ定めているということができる。
国費の支出 及び公産の管理について,さらに八九条が制約を課している。同条前段は,宗教組織や団体の使用,便 益,維持のための公金及び公産の使用を禁じ,同条後段は,公の支配に服しない慈善,教育,博愛事業 に対する公金及び公産の使用を禁じている。
八九条に関しては,財政に対する国会の権能とはいささか 離れた問題であるので,詳論はさけることにするが,同条後段について,現行憲法が社会国家としての 立場を宣明していることとの関係から,その立法趣旨に疑義を呈する立場もある。 国庫債務負担行為に関する国会の議決については,憲法には明文はなく,財政法が法律と予算の二種 類を定めている。債務負担行為について国会が承認をしたとしても,それに伴う支出については,さら に予算による議決が必要となる。
すでに債務負担行為が承認されている以上,予算の議決もこれに拘束 されると考えられないでもないが,一般的には,債務負担行為の議決は予算の議決を拘束しないと考え られている。法律の議決と予算の議決との関係と関連する問題である。
債務負担行為には,財政公債と 財政法上の狭義の国庫債務負担行為である外国人傭入契約,土地建物賃貸借契約,災害復旧のための債 務負担の二種類のものがある。財政公債のうち償還期が次年度以降となる固定公債については法律の形 式で議決がなされているが,その余の国庫債務負担行為は予算の形式によっている。



憲法八六条は,八五条を受けて予算を国会の議決にかからさせている。 予算は,単なる歳入歳出の見積を示したものにとどまらず,国家機関の財政行為を規律するものとし て法規範としての性格を有している。
従って,予算は特殊な国法形式と考えられている。しかしながら, 予算は一般国民の行為を規律するものではなく,国家の財政行為を規律するものであるうえ,その拘束 力は一会計年度内にとどまることから,法律とは別の審議,議決手続を六〇条が定めている。
すなわち, 予算は衆議院が先議し,予算議決については衆議院の議決が優先することとなっている。そのため,予 算は国法形式とはいっても,法律とは異なる国法形式と考えられている。
もっとも,予算のうち歳入は, 単なる予測であって,歳出の財源として定めることが求められているにすぎず,法規範としての意義を有するのは,予算のうち歳出の部分にあるといわなければならない。 予算の発案権は,内閣にのみ専属すると解されている。本条が予算の作成者を内閣とし,予算が行政 の実際に応じたものでなければならないことから肯首されうるところである。
しかしながら,予算は, 計上されている収入・支出について根拠を与える法律が制定される必要があるのだし,また反面,法律 が制定されても予算に計上されない以上は,法執行を実現することはできない
。だが,憲法八三条は財 政処理を国会の議決にかからしめているし,七三条により内閣は法律を誠実に執行する義務を負ってい るのであるから,予算について内閣に発案権があるとはいっても,内閣は制定された法律に従って予算 を作成する義務があることになるし,法律上の根拠のない予算はその意義を失うということができる。
その意味で,予算に対して法律が拘束するともいえる。
もとより,法律が支出を定めていても,それに 見合う財源が得られないことも考えられるが,その場合でも,政府は近い将来法執行が実現しうるよ う措置を講ずべきことになる。 予算の発案権が内閣にあることとの関係から,国会の予算に対する修正がなしうるか,なしうるとし てどの範囲での修正が可能かということが問題となる。
多数の見解は,国会の修正を認めている。憲法 が財政に関して国会中心主義をとっていることからすれば,肯定できるところである。しかし,国会は 法律と予算を一致させる義務があるから,法律に基づく予算については,予算を修正する以上は法律を 変更すべきであるし,法律を存続する以上は予算も認めるべきであるという見解(清宮四郎)もある。
し かし,予算について内閣に法律による拘束が生じるのは,内閣が国会から法律による抑制を受けること と同義であるが,このことから当然に国会も自ら制定した法律に拘束を受けると結論することはできな いし,国会については憲法七三条のような明文も欠いている。のみならず,憲法は財政について国会中 心主義を明らかにしているし,予算と法律は審議,議決手続を異にするのであるから,予算と法律との 間に矛盾が生ずることもやむをえないと考えられる。
このような見解(橋本公旦)から予算の減額修正に ついては原則として無制約に認める立場もある。国会が予算と法律を一致させることは求められてしか るべきであろうが,そのことから国会の予算修正権が法的に制約されると考えることには疑問が残る。 予算の修正権については,かつて,増額修正を全く否定する見解(美濃部達吉)もあったが,今日では一 般的に程度の差はあってもこれを肯定している。
しかしながら,予算の発案権は内閣にあるのだから, 予算の同一性を損うような修正は許されないといわなければならない。その意味から予算の増額修正に ついては,自ら限界があるということができる。通説もそう解している。もっとも,国会は予算を否決 することができるのであるし,予算が否決された場合には,内閣は新たな予算の議決を求めなければな らなくなるのだから,国会の修正が予算の同一性を失ってはならないといっても意味はなく,増額修正 も無制限に認められるべきであるとする立場(佐藤功)もある。
予算は,時として予見しえない不足を生じることもある。そこで,憲法八七条は予備費について定め ている。予備費は予算のなかに計上されるが,他の款項と異なり具体的目的は定められていない。本条 一項により予備費を設けるには国会の議決を要するのであるが,この議決は予算に予備費を計上するこ との承認であって,予備費を支出することの承認ではない。
予備費は,予算の一部であっても具体的支 出を規定していないからである。そして,八五条によると,国費の支出については,国会の議決を要す るのだから,本条二項は予備費の支出について,事後に国会の承諾を得ることを要件としている。予備 費は,大蔵大臣が管理し,内閣の責任で支出することになっているが,事後に国会の承諾が得られれば, 内閣の責任は解除される。
これに反して,承認が得られなければ,内閣に政治責任が生ずるが,支出の 法的効果には影響がない。 憲法八八条は,皇室経費は予算に計上して国会の議決を要する旨定めている。これは,現行憲法が, 皇室財産を国有に移し,皇室経費を国の負担としたことから,国家財政に対する国会の民主的監督を定めたものである。



予算は国家財政に対する事前の監督であるのに対し,決算は事後の監督ということができる。憲法九 〇条は,決算は会計検査院が検査し,内閣が次の年度に国会に提出しなければならない旨定めている。
決算は,国家の現実の収支を示す国家行為の一形式であって,法規範としての性格を持たないのである から,国会における決算の議決は,現実の収支に対する正当性の判断ではあっても,収支そのものの効力に影響を及ぼさない。
さらに,憲法九一条は,内閣に,国会及び国民に対する年一回の財政状況報告 を義務付け,財政状況公開の原則を定めている。