司法試験の勉強会

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身分犯についてわかりやすく解説

 身分犯とは,構成要件上行為者に一定の身分のあることが必要とされる犯罪であり,行為者が一定の 身分を有することによって犯罪が構成される真正身分犯と,法定刑が加重又は減軽されるに過ぎない不 真正身分犯とがある。
前者の例としては,収賄罪,偽証罪,背任罪,後者の例としては,常習賭博罪, 尊属侵害致死罪,などがある。身分の意義について判例は「男女の性別,内外国人の別,親族の関係, 公務員たるの資格のような関係のみに限らず,総て一定の犯罪行為に関する犯人の人的関係である特殊 の地位又は状態を指称する」と広く解している(最判昭二七・九・一九刑集六・八・一〇八三)。
ところ で,右の「特殊の地位又は状態」はある程度継続性をもつことを要するであろうか。判例は,麻薬取締 法六四条二項の「営利の目的」が,刑法六五条二項にいう「身分」にあたるとしており,身分は必ずしも継続的性質を有しなくともよいと考えているようである。
後述するように,同条二項が身分の有無に よって異なる刑を科すべきものとしているのは,犯罪そのものは身分の有無とは無関係に成立するが, 特定の身分のある者がその犯罪を犯した場合には,可罰的評価がより高いから,より重い刑を科すべき であり,反対にその身分のない者は,身分のある者の可罰的評価の高い行為に加功したものであっても, 身分のある者の行為ほどに可罰的評価が高いものとは言えないから,軽い通常の刑を科するのが公平に 適するからであり,したがって,身分は,継続的性質を有さずとも,犯人の人的関係である特殊な状態 であって,それによって可罰的評価がより高くなり,もしくはより低くなると認められるものであれば 足りると言うべきであろう。

 身分犯に非身分者が加わった場合をどのように取う扱うべきであろうか。
刑法六五条の解釈が問題と なる。同条は次のように規定されている。「犯人の身分に因り構成す可き犯罪行為に加功したるときは, 其身分なき者と雖も,仍ほ共犯とす(一項)。身分に因り特に刑の軽重あるときは,其身分なき者には,通 常の刑を科す(二項)。」。
通説的見解は,一項は真正身分犯と共犯との関係について,二項は不真正身分 犯と共犯との関係について規定したものと理解している。そして一項,二項がともに共犯と身分の関係 を規定しながら,一項はこの関係を連帯的に,二項はこれを個別的に取り扱っていることに対しては, 一項は身分が行為の違法性を規制する要素となっている場合について,違法の連帯性を認めたものであ り,二項は身分が行為の責任性を規制する要素となっている場合について,責任の個別性を明らかにし た規定であり,このような理解は,違法は連帯的に,責任は個別的にという制限従属性説の基本思想と も合致するものであるとの説明するのが一般的である。
右の通説的見解に従うと,不真正身分犯につい て,身分のない者が身分のある者に加功した場合には,二項により(一項の適用なく),身分のある者に は身分により加重減軽された刑が,身分のない者には通常の刑が科されることになる。
これに対しては, 一項は真正身分犯,不真正身分犯を通じて,身分犯における共犯の成立の問題を定めたものであり,二 項は不真正身分犯について科刑の問題を規定したものと解する見解がある(団藤,大  ,福田説等)。真 正身分犯も不真正身分犯も,行為者が身分を有することによってはじめてその罪が構成されることに変 わりはないというのがその理由である。
この見解によれば,賭博の非常習者が常習者の賭博行為を教唆・ 幇助したときは,一項により常習賭博罪の教唆犯・幇助犯が成立し,二項により科刑の点において単純 賭博罪の教唆犯・幇助犯として処罰されることになるのであるが,犯罪の成立と科刑が分離されること になるのはおかしいし,一項の「身分に因り構成す可き犯罪行為」を二項の「身分に因り特に刑の軽重 ある」犯罪に対置させている規定形式からみると,「身分に因り構成す可き犯罪行為」とは一定の身分 が可罰性を基礎づける犯罪,即ち真正身分犯と解するのが文理上も自然であると批判されている。
判例 はこのような場合につき,原則的に一項の適用を否定しており,通説的見解と同様の立場に立つものと 思われるが(ただし,非身分者にははじめから通常の犯罪が成立するから通常の刑によるとするのか,そ れとも,非身分者には犯罪としては身分犯の共犯が成立するが刑だけを通常の刑によるとするのかにつ いては,必ずしも明らかではない。),業務上横領罪について,非占有者が業務上の占有者に加功した場 合,非占有者に対して一項の適用を認めて業務上横領の共犯とし,その上で二項により単純横領の刑を 科しており,不真正身分犯に一項の適用を認めているかのようにも見えるが,業務上横領罪は「業務上 の」占有者という点で不真正身分犯であるだけではなく,非占有者に対する「占有者」という身分の関 係では一項の身分によって構成すべき犯罪であるという特殊性があるので,右のような適条になったも のと考えることができ,判例のとる立場は通説的見解に反するものではないといわれている。

 次に,不真正身分犯において,身分のある者が身分のない者の行為に加功した場合,判例及び通説的 見解は,刑法六五条二項により,身分のある者には身分により加重減軽された刑が,身分のない者には 通常の刑が科されるとしており,責任は個別的にという前述の理由の他,文理上の根拠として,二項は 一項と異なり誰が誰に加功したことかは明らかにしておらず,「身分なき者」としているだけで身分の ない「共犯」とは規定していないことなどを挙げている。
これに対しては,教唆行為・幇助行為自体を 実行行為とみることに等しく,妥当ではないとして,身分のある者についても通常の犯罪が成立するに 過ぎないとする見解がある(団藤,大 ,福田説など)。この立場に立つと,非常習者の賭博行為を教唆・ 幇助した賭博常習者も,単純賭博罪の教唆犯・幇助犯として処罰されるにとどまるべきことになるが, これに対しては,非身分者はその犯行の直接・間接を問わず,常に同一の刑を受けるのと照応して均衡 を欠くことになるという批判が加えられている。


 

最後に,刑法六五条一項にいう「共犯」には共同正犯も含まれるか否かについて検討する。この点に ついては,身分がなく単純正犯になり得ない者は,その共同正犯にもなり得ないことになるのか否かが 問題となる。
真正身分犯については身分のない者の行為はその実行行為の類型を欠くから,共同実行と いうことはあり得ないし,身分ある者の犯罪実行であるからこそ可罰的違法性が認められるのであって, 自然的行為としては行為の共同があるとしても,身分なき者について身分ある者と同一程度の可罰的違 法性を認めることはできないという理由で,一項の「共犯」には共同正犯を含まないとする見解が有力 に主張されているが(団藤,大 ,福田説等),通説的見解は,身分のない者も事実面では加功できるか ら共同正犯を認めることに障害はないことなどを理由として,一項の「共犯」には共同正犯も含まれる と解しており,判例も通説的見解と同じ結論をとっている。