司法試験の勉強会

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補強証拠とは?事例問題で解説

被告人は無免許運転及び業務上過失傷害で起訴されたが,第一回公判期日においては全面的 に事実関係を認めて争わない。しかし,業務上過失傷害についての客観的な証拠(実況見分,目撃者の供述調書等)と両罪についての司法警察員及び検察官に対する自白調書しかなかった。裁判所は,被告人を有罪にすることができるか。

 


本問においては,業務上過失傷害罪について証拠に欠けるところはないので,これを有罪とすること ができることは問題がない。議論となるのは無免許運転の罪についてである。 憲法三八条三項は,被告人本人の自白のみでは,有罪とされることはない旨定めている。同条にいう 自白については見解が分れている。
判例(最判昭和23年7月29日は,この自白には公判廷の自白は含 まないと解している。そして,判例の立場に従う学説(江家義男)もある。その理由とするところは,公 判廷の自白については,強制が加わる余地がなく,裁判所の前面でなされるのであるから真実性が担保 されているのであるし,英米法においても,公判廷の自白のみで有罪とすることができる制度があると いうのである。
これに対して多数の見解は,公判廷の自白を含むと解している。そして,この立場から は,自白のみでは被告人を有罪とすることができないとする憲法上の原則は,自白に対する偏重を防止 しようとする政策的考慮に基づくものというべきところ,判例は,これを任意性の問題と取り違えてい るのであるし,英米法において,自白のみによって有罪とすることができるとするアレインメントの制 度は,現行刑事訴訟法では採用していないので,これをもって,公判廷の自白を含まないとする根拠に はできないとしたうえで,結局,公判廷外の自白と公判廷の自白との差違は,量的なものにとどまるのだから,区別して取扱うことは妥当でないというのである。
しかしながら,憲法が,自白のみによって有罪とすることができないと定めた趣旨は,これを認める と,自白を獲得するために捜査機関が違法行為に及ぶことが考えられるため,そのような事態を防圧し ようとする政策的な配慮にあるわけなのだから,この理は公判廷における自白には妥当せず,公判廷の 自白と公判廷外の自白とは,質的にも異なっているというべきで,憲法にいう自白から,公判廷の自白 を除外する合理性があるとする立場(田宮裕)もある。この立場は,自白のみによる有罪認定を否定した 立法目的から説明したもので,説得ある見解というべきである。
もっとも,この立場に対しては,自白 のみによる有罪認定を,憲法が禁止した理由は,違法捜査の抑制ばかりでなく,公判審理における自白 偏重が誤判の危険を招くことにもあるのだから,公判廷の自白のみによっては有罪と認定することはで きないと解するほかはないとする批判(鈴木茂嗣)もある。しかし,公判廷の自白に依拠することによる 誤判の危険について,判例はすでに示したような理由でこれを否定しているのである。結局は,判例の 立場を是認するか否かにかかってくるのである。
ところで,憲法三八条三項についての判例の立場を肯定するならば,本問において,被告人が第一回 公判期日においてした陳述を,自白と解することができるなら,この自白のみをもって,被告人を有罪 と認定できることになる。そして,判例(最判昭和 26 年7月 26 日),通説は,このような被告人の冒頭 手続における陳述を,自白と解している。しかしながら学説のなかには,冒頭手続における公訴事実に 対する陳述のように,一般的,概括的な陳述は自白というべきではないとする立場(高田卓爾)もある。だ が,自己の犯罪事実について,これを肯定する供述をする以上,一般的,概括的になされたかどうかに かかわりなく,自白であるというべきである。従って,判例,通説の立場に従うべきものと思われる。



憲法三八条二項にいう,自白に,公判廷の自白が含まれないと解するにしても,刑事訴訟法三一九条 二項は,公判廷及び公判廷外の自白のいずれについても,それのみをもって有罪を認定することができ ないと定めている。
従って,憲法三八条二項の解釈について争いがあるにしても,同条を受けた刑事訴 訟法三一九条二項の規定によるときは,憲法解釈上の争いは意義を有さないことになる。 従って,公判廷か公判廷外の自白かにかかわりなく,自白のみによっては有罪を認定することができ なくなる。自白以外の証拠があって,はじめて有罪を認定することができることになる。このような自 白以外の証拠を補強証拠という。だから,被告人の自白のみによっては,無免許運転の罪は認定するこ とができなくなる。
しかし,被告人の業務上過失傷害の事実については自白以外の客観的な証拠がある のだから,無免許運転の事実のうち,業務上過失傷害の事実と重なる部分である,被告人が自動車を運 転していたという事実は,やはり自白以外の客観的な証拠があるということができる。そこで,無免許 運転の事実の自白について,被告人が自動車を運転していたという事実のみが,他の証拠で裏付けられ ているわけであるから,この程度の補強証拠で有罪を認定することができるかを検討しなければならな い。換言すれば,自白を補強する他の証拠はどの範囲で必要かという,補強証拠の範囲の問題である。
通説は,犯罪事実の客観的側面について補強証拠が必要であると解している。そして,客観的法益の 事実のみならず,それが何人かの犯罪行為に起因することについても補強が必要であるというのである。 これに対して,反対説は,補強証拠は,犯罪構成要件の全てについて必要とするわけではなく,自白の 真実性を担保しうる証拠があれば足りると解している(平野竜一)。もっとも,通説も反対説も,犯罪事 実と被告人の結びつきや犯罪の主観的側面までは補強証拠を要求しておらず,その限りで争いはない。 そこまで補強証拠を必要とすることは困難であることによる。問題は,犯罪事実の客観的側面について,どの程度補強証拠を要するかである。
ところで,刑事訴訟法三〇一条は,自白以外の他の証拠を取調べ てから,自白についての証拠の取調請求をするように定めている。従って,法は,まず他の証拠につい て犯罪事実の証明をし,自白がこれを裏付けるという手続を要求している。このことからするならば, 自白以外の証拠で犯罪事実を,独自に証明しなければならなくなるわけで,通説の立場が是認されるよ うにも思われる。しかし,三〇一条は公判廷の自白を除外しているのだから,公判廷の自白については 反対説の立場に従うことにもなる。このような考察のもとに,公判廷外の自白と公判廷の自白を区別し, 前者については通説に,後者については反対説に依拠する立場(鈴木茂嗣)もある。
一般に,判例(最判昭 和 23 年 10 月 30 日)は,反対説にあるとされているが,通説と反対説との折衷的立場に立つ右見解は, 判例は,むしろ公判廷の自白と公判廷外の自白を区別しており,折衷的見解に依拠していると解してい る。確かに,三一九条二項が,自白のみによる有罪認定を禁じている趣旨は,違法捜査の抑止とともに, 自白に偏重した審理による誤判の危険にあるというべきで,そのために,三〇一条も,自白についての 証拠の取調請求時期を,他の証拠による独自の立証がなされた後にする旨定めているのであるが,判例 は,すでに述べたように,公判廷の自白に依拠した事実認定の危険は,重大視すべきでない旨判旨して いるのであるし,三〇一条にいう自白からも,公判廷の自白が除かれていることからするならば,誤判 の危険のある自白について,公判廷の自白と公判廷外の自白とを区別して考察することは理由があると いうことになる。折衷的見解には,それなりの説得力があるというべきであろう。



さて,本問においては,被告人が自動車を運転したということに補強証拠はあるが,被告人が無免許 であったということについては,補強証拠がないのである。そして,判例(最判昭和 42 年 12 月 21 日) は,被告人が無免許であった事実についても補強証拠が必要であるとしている。
この判例については, 被告人が自動車を運転したという事実のみでは,何ら違法な行為とはいうべきでなく,その際被告人が 無免許であった事実が立証されてはじめて,運転行為が違法性を帯びるのであるから,無免許の事実に ついても,補強証拠を要するというべきであって,覚せい剤取締法違反の事実における被告人の無資格 事実は,犯罪の成立を妨げる理由がないということであるが,無免許の事実は犯罪の成立を基礎付ける 事実であるとして,これを支持する見解(松本時夫)がある。正当な見解というべきであって,判例に従 うべきと考える。
さらに,被告人が公判廷で自白した場合にも,同様の結論になると思う。
犯罪の違法 性を積極的に示す事実について,補強証拠を要しないというのは,不都合であるばかりか,無免許の事 実については,比較的容易に立証することができるからである。ただ,公判廷で自白がなされた場合に は,無免許の事実は,一般に被告人が住居地で免許を取得していた事実をもって立証される。もとより, それ以外の地でも免許を取得していない事実も立証しなければならないわけであるが,住居地で免許を 取得していない事実をもって自白の補強証拠としては足りると考えられているのである。
これに反し, 捜査段階では無免許の事実を自白していても,公判廷でこれを否認したならば,右自白を裏付ける補強 証拠がより要求されることになると思われる。従って,公判廷の自白と公判廷外の自白とには,差違が あるということになる。 いずれにしても,被告人の無免許運転の事実については,有罪を認定することができない。