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売買契約の履行不能とは?わかりやすく解説

問 特定物売買契約において,その契約締結後に,売主の債務の全部または一部が履行不能となった場合の当事者間の法律関係について説明せよ。 

 

一 はじめに

特定物の売買契約締結後に,売主の債務が履行不能となった場合の当事者間の法律関係については, その履行不能が売主の責に帰すべき事由に基づく場合と,売主の責に帰すべからざる事由に基づく場合とに分かれる。


二 売主の責に帰すべき事由に基づく場合


1 買主は,売主に対し,損害賠償を請求することができる(民法四一五条)し,また,当該売買契約を解除する(民法五四三条)こともできる。

履行不能を理由として請求する損害賠償は,目的物に代わる損害の賠償,即ち,填補賠償である。したがって,賠償を請求しうる損害とは,全部不能の場合には目的物の交換価格が原則であるから,通常, 当該売買契約における売買価格ということになろう。 問題となるのは,一部不能の場合である。売主の債務が不可分であるか,可分であっても履行可能な部分が僅少であって売買契約の目的を達することができないときは,買主は履行可能な部分の受領を拒 み,全部についての填補賠償を請求しうるが,そうでない限り,履行不能になった部分に該当する填補賠償を請求しうるに止まると解するのが通説である。

3 履行の全部または一部が不能となったときは解除しうるとされているが,そもそも解除の趣旨は,債務の不履行があるのになお相手方を契約に拘束しておくと相手方に損害の生じるおそれがあって適当でない場合にその契約から解放して保護することにあるから,債務の一部が履行不能となっても,残部の履行により当該売買契約の目的が達成できる場合には,売買契約全部を解除することはできず,履行不能になった一部分についてのみ解除権が生じる。 なお,解除しうる場合には,催告という手続き要件は不要である。

4 ところで,履行不能になれば,買主は解除しなくても損害賠償を請求できるが,解除しない場合には自己の債務(代金支払い義務)を免れることはできない。これに対し,解除した場合には自己の債務を免れるが,損害賠償額の算定に当たっては,解除により免れた反対給付の価格を控除する必要が生じるこ とになり,いずれにしても同じ結果となることになる。


三 売主の責に帰すべき事由によらざる場合


1 これに該当するものとして,買主の責に帰すべき事由による場合と,不可抗力による場合とが考えられるが,いずれの場合にも危険負担の問題となる。

2 危険負担の問題とは,双務契約において一方の債務が履行不能になった場合に相手方の債務が残存するか否かということであるが,これには,相手方の債務も消滅するという債務者主義と,相手方の債務 は消滅しないという債権者主義があり,民法は特定物に関する物権の設定又は移転を目的とする双務契約については債権者主義を採っている(五三四条一項)。 したがって,特定物の売買契約である本件においては,買主が危険を負担し,履行不能が全部であろ うと一部であろうと,売主に対し,売買代金を全額支払わなければならないことになる。

3 ところで,債権者主義の根拠としては,例えば売買契約の締結により,買主は目的物の価格の騰貴による利益や他に転売することによる利益をあげうるのであるから,反対に目的物の棄損ひいては滅失に ついてもその損失を甘受すべきであるとか,売買契約により所有権が移転するから危険も移転するとか言われている。しかしながら,買主は目的物の価格降下の不利益も受けるのであるから目的物の滅失等まで負担を負わせるのは公平ではなく,また,そもそも価格の騰貴と目的物の滅失とを対比させるのは不合理であること,観念的所有権が移転しても対抗要件を具備しないうちに危険を負担させるのは公平に反すること,双務契約によって生じる両債務は互いに密接な関係を有し,成立上及び履行上の牽連性が認められることに照らすと存続についても牽連性を認めるのが妥当であることを指摘して,債権者主義の適用範囲をできるだけ制限すべきであるという有力説がある。そして,特約のない限り,買主が目的物についての支配を収めたと認められる時,例えば,引渡,登記,もしくは代金支払いのなされた時, または当事者が所有権移転時期あるいは果実収取権移転の時期を定めた時はその時から,買主に危険が移転すべきであるとしている。 したがって,この説に従えば,右のような事情によって,目的物の支配が買主に移転した後に売主の債務の履行が不能になった場合には買主は自己の債務を免れず代金を支払う義務を負うが,目的物の支 配が買主に移転する前に売主の債務の履行が不能になった場合には買主は自己の債務を免れ,代金を支 払う義務はないことになる。 

4 なお,買主が危険を負担する場合,売主が債務を免れたことによって得た利益があれば,これを買主に償還すべきであるし,また,履行不能と同一の原因によって売主が目的物の代償と考えられる利益を得た場合(例えば火災保険金)には,買主は売主に対し,履行不能によって買主が被った損害の限度においてその利益の償還を請求しうるとされている。

 

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