司法試験の勉強会

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憲法三一条について解説

一 本条の趣旨


憲法三一条は,「何人も,法律の定める手続によらなければ,その生命若しくは自由を奪はれ,又は その他の刑罰を科せられない。」と規定する。同条は,その文言や,規定の位置が三二条以下の司法手 続とりわけ刑事手続上の人権保障規定の冒頭にあるということから,刑事手続上の人権についての総則 的な規定ということができる。その具体的な保障内容については,同条が沿革上,アメリカ合衆国憲法 の修正五条及び一四条のいわゆるデュープロセス条項と密接なつながりがあることとも関連づけて,さまざまに議論されているところである。


二「法律に定める手続」


本条にいう「法律の定める手続」の意味については,1科刑手続の法定とする説,2科刑手続の法定 とその内容の適正とする説,3科刑手続と実体要件の法定とする説,4科刑手続の法定とその内容の適 正及び実体要件の法定とする説,5科刑手続及び実体要件の法定とその内容の適正とする説などの諸説 がある(5が通説とされており,判例も後に紹介する諸判例を総合すれば同様の立場と思われる)。科刑 手続,実体要件のそれぞれについて法定と内容の適正に分けて順次検討していくことにする。

1 科刑手続の法定
科刑手続が法律で定められなければならないことは,本条の文言から明らかである。 ここでの「法律」とは,形式的意味の法律を指し,政令,命令,条例を含まない。 この点に関し,憲法最高裁判所に「訴訟に関する手続」について規則制定権を認めている(七七条一 項)ので,最高裁判所規則との関係が問題となる。七七条が無留保に規則事項を規定していることからこ こでの「法律」には裁判所規則も含むという説,刑事手続の基本的事項は法律で定める必要があり技術的・細目的な事項のみ規則で定めることができるという説などがある。

2 科刑手続の適正
(一) 適正性の保障の有無 本条は,「法定」のみを定める趣旨で,「適正」までは要求していないという見解(前記1,3説など) の根拠としては,本条には単に「法律の定める」とあるのみで,(合衆国憲法と異なり)「 適正な」という文言は見当たらないこと,三二条以下に詳細な人権保障規定があることから本条を広く解釈する必要が ないことなどが挙げられる。 しかし,憲法が人権尊重主義の立場をとり,その人権保障体系の中で本条が刑事手続上の人権保障の 総則的規定であることを考えると,科刑手続を法律で定めさえすれば,いかなる内容でも構わないとい うものではない。また,科刑手続の適正性の問題がすべて他の条項によって早くされているとは断言で きない。したがって,本条は法定の科刑手続の内容が適正であることをも要求すると考えるべきである。
(二) 適正性の内容 科刑手続の適正性の具体的内容として,主として挙げられるのは,告知・聴聞・防禦の原則,すなわ ち公権力が国民に刑罰その他の不利益を科するときは,当事者に対して予めその内容を告知し,当事者 がそれについて弁解したり防禦する機会を与えなければならないということである。 前述のとおり三二条以下に刑事手続上の人権についての具体的な規定があるので,科刑手続の適正性 についても,これらの規定によってカバーされる場合にはこれらが適用されることになる。これらの規 定は相当詳細なので三一条が直接適用される場面はさほど多くはないが,第三者の所有物をその所有者 に対し告知・弁解・防禦の機会を与えずに没収することは,適正な法律手続によらないで財産権を侵害 する制裁を科するにほかならないとして,当時の関税法一一八条一項による第三者所有物の没収を憲法 三一条,二九条に違反するとした判例(最大判昭和 37・11・28 刑集一六巻一一号一五九三頁)は,その一例である。

3 実体要件の法定
本条は,文言上「手続」とのみ規定し,実体要件についての明示はない。しかし,憲法基本的人権 の保障を基本原理としており,罪刑法定主義は人権の保障に関する重要な原則である。そして,本条が 刑事手続上の人権保障の総則的規定であり,他に明示的に罪刑法定主義を定める規定が存在しないこと からすれば,本条が明示する手続法定主義の前提として,手続の前提となる実体法上の要件の法定すな わち罪刑法定主義をも,本条が保障していると解すべきである(この点,遡及処罰の禁止(三九条),政令 による罰則についての法律による個別的委任の必要性(七三条六号但書)から罪刑法定主義を黙示的に導 き出すことができるとの見解もあるが,それでは,このような重要な原則が憲法上黙示的にしか定めら れていないということになり,そのような解釈には疑問が残る。)。 したがって,実体要件も「法律」の定めが必要である。ここでの「法律」は,形式的意味での法律を 指す。法律による個別的,具体的な委任があれば政令など法律以下の法令で刑罰を定めることもできる (政令につき,七三条六号但書)。 条例も,法律以下の法令であるが,公選議員で組織される地方公共団体の議会の議決による自治立法 で,国会の議決を経て制定される法律に類するものであるから,政令等の場合とは異なり,法律の授権 が相当な程度に具体的であり,限定されていればよい(最大判昭和 37・5・30 刑集一六巻五号五七七 頁)。

4 実体要件の適正
本条に「適正」の文言がないことはすでに述べたが,本条の規定上の位置,実体要件の適正の問題が すべて他の人権規定で早くされているとは断言できないこと,実体要件の法定だけが必要で適正性は含 まれないというのは整合的でないことなどから,本条は実体要件の適正をも要求するものと解される。 ただ,憲法には一三条以下に詳細な人権規定があり,これらによってカバーされる問題についてはそ れらの規定によるべきである。そこで,通常ここで問題となるのは,刑罰法規の明確性の問題と犯罪と 刑罰の均衡の問題である。
(一) 刑罰法規の明確性 刑罰法規があいまい不明確の場合には三一条に違反するが,その違反の有無は,通常の判断能力を有 する一般人の理解において,具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断が可能な基 準が読みとれないかによって決する(最大判昭和 50・9・10 刑集二九巻八号四八九頁〈徳島市公安条 例事件〉,最大判昭和 60・10・23 刑集三九巻六号四一三頁〈福岡県青少年保護育成条例事件〉)。
(二) 罪刑の均衡 判例は「刑罰規定が罪刑の均衡その他種々の観点からして著しく不合理なものであって,とうてい許 容しがたいものであるときは」違憲となるとする(最大判昭和49・11・6刑集二八巻九号三九三頁
猿払事件〉)が,根拠条文の明示がない。学説は,本条の問題とするものと,三七条の問題とするものが ある。


三「生命若しくは自由を奪はれ,又はその他の刑罰を科せられない」


本条の適用があるのは,固有の意味の刑罰であるが,秩序罰,執行罰としての過料や,精神保健法上 の入院措置などのような身体の自由を奪うような行政処分にも適用ないし準用が認められる。 さらに進んで,行政手続一般に本条の適用ないし準用があるかが問題である。 本条が行政手続にも適用ないし類推適用されるとする見解が通説と思われる。その理由としては,本 条の背景ないし根底にある適法手続の思想は,アメリカでは当然に行政手続にも及ぶとされていること, 現代国家における行政権の拡大強化の傾向が顕著で,行政手続を手続的保障の範囲外におくのでは人権 保障の重要な部分が失われることなどが挙げられる。 これに対して,本条は刑事手続に関する規定であって,行政手続の適正は一三条の問題であるとする 見解も有力である。 裁判例としては,いわゆる個人タクシー事件の第一審が,一三条,三一条は「国民の権利,自由が実 体的のみならず手続的にも尊重さるべきことを要請する趣旨を含む」としたが,同事件の上告審は,憲 法に言及せずに行政処分について公正な手続を要求する判断をしている(最判昭和 46・10・28 民集 二五巻七号一〇三七頁)。

 

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