司法試験の勉強会

現役弁護士が法学部一年生向けに本気の解説をするブログです。

訴因制度と当事者主義との関連について解説

公訴事実と訴因

大陸法系の刑事訴訟には,公訴事実という概念が存在するのみであり,公訴提起の効力,審判及び判 決の効力の各範囲は,この概念により一律に限界付けられる。大正 11 年,ドイツ法の影響を受けて制 定された我国の旧刑訴法はこの型に属する。  
一方,英米法系の刑事訴訟には,公訴事実という概念はなく,訴因という概念のみ存在し,同様に審 判の範囲等を律している。
これに対し,昭和 23 年,アメリカ法の影響を受けて制定された我国の現行刑訴法は,旧法以来の公 訴事実の概念を維持しながら,「公訴事実は,訴因を明示してこれを記載しなければならない」(法二五六 条三項)と規定を置いて,新たに訴因制度を採用した。ここに,公訴事実と訴因の関係をめぐり困難な問題が生じて来た。

2 公訴事実と訴因との関係について最も根本的な問題は,審判の対象は公訴事実か訴因か,という形で 提起される。そしてこの問題は,次の二つの面を持つ。即ち,審判の対象の性質いかんという面―審判 の対象は嫌疑なのか主張なのか―と,審判の対象の範囲いかんという面―裁判所が審判の権利を持ち義 務を負う範囲は,公訴事実の全体に及ぶのか,訴因に限られるのか―である。そして,この二面は互い に関連している。審判の対象が嫌疑だとすると,その嫌疑全体,即ち公訴事実全体が審判の対象となろ う。この立場に立つと,訴因とは嫌疑がどのようなものであるかを明らかにするための手段ということ になる。この立場を公訴事実対象説と呼ぶ。これに対し,審判の対象を検察官の主張だとすると,主張 されているのは訴因ゆえ訴因が審判の対象となる。この立場を訴因対象説と呼ぶ。

職権主義と当事者主義

職権主義とは,裁判所が主体となって,積極的に職権を行使しつつ訴訟を主宰し進行せしめていく形 態,当事者主義とは,当事者の積極的な訴訟活動を中心に訴訟を進行していく形態,と一応定義付ける ことができよう。

1 これを裁判所(官)と検察官との関係という側面から見ると,職権主義の特色は,「嫌疑の引継ぎ」,即 ち,検察官はもちろん事実を探究するが,裁判所も,検察官の探究の結果を前提とするだけでなくこれ を引継いで自らも探究を行い,この両者の間に本質的差異がない,という点にあるといえる。  
旧法の下では,検察官は公訴提起と同時に証拠を裁判所に提出し,裁判官はこれを見た上で公判に臨 み,自ら事実の探究にあたる,という制度をとり,職権主義の様相を強く呈していた。このような制度 の基礎にあるのは,訴訟の中核をなすのは嫌疑であり,この嫌疑の発展過程―即ち,捜査の開始から判 決の確定まで検察官,裁判所の段階を通じて一本の連続した嫌疑が発展して行く過程が訴訟の実体であ る,という理論である。従って,起訴状の犯罪事実は嫌疑を表示したもので,一件記録とあいまって嫌 疑を裁判所に伝達する手段といえよう。  
現行法の起訴状一本主義の下でこの考え方を維持するとすれば,起訴状に記載された訴因は嫌疑を伝 達する手段であり,訴因は嫌疑を化体したものだということになる。「訴因は実体形成の手続面への反 映である」というのは,このような考え方を表わしたものである。

2 これに対し,当事者主義の特色は,「嫌疑の断絶」,即ち有罪無罪の認定をより慎重に,より公正にす るために,事実を探究する者と事実を判断する者とを明確に区別し,裁判所の判断者としての地位を純 化した点にあるといえる。けだし,事実の探究者と判断者の双方の立場を一身に兼ね備えると,誤りに 陥りやすいからである。  
現行法は起訴状一本主義をとっており,公訴提起に際しては,裁判所に証拠が提出されず,裁判官は 白紙の状態で公判に臨み,公判廷でも原則として当事者が提出する証拠のみを取調べ,証人尋問も主と して当事者が行い,裁判所は原則として自ら新しい事実を探究しない,という制度をとる。この制度の基礎にあるのは,捜査機関の持つ嫌疑と裁判所の持つ嫌疑との間には断絶がある,という理論である。 従って,訴因は嫌疑の化体であってはならないはずであり,訴因は実体形成の反映ではなく,その目標 としての意義を有する。即ち,訴因は構成要件に該当する具体的な事実だが,存在する事実,証明され た事実ではなく,主張された事実にすぎない。

訴因制度と当事者主義

1 右に述べて来たことからも明らかなように,審判の対象を公訴事実ととらえる説は,訴訟構造につい て職権主義的考え方をとる。けだし,公訴事実が審判の対象であるとする以上,裁判所は,訴因の枠を 超えて積極的に公訴事実全体について審理しなければならず,いきおい自らも探究の必要性が出てこよ う。これに対して,審判の対象を訴因ととらえれば,裁判所は,その訴因に対しての当事者の立証が十 分か否かを判断すれば足り,自ら進んでそれ以上の(但し,もちろん公訴事実の範囲内での)探究をする ことを要しない。
訴因制度採用は,このように裁判所を純粋の判断者としての地位に置き,訴訟の当事者主義化を促進 しているといえる。

2 訴因制度採用による訴訟の当事者主義化の例として,訴因変更命令がとりあげられる。法三一二条二 項は,裁判所に訴因変更命令を出す権限を認めているが,この義務性,その効力に関しては争いがある。  
まず審判の対象を公訴事実と考える説は,訴因を変更するのはもともと裁判所であるべきはず,とい う職権主義的考え方を前提とするから,裁判所は「審理の経過に鑑み適当と認めるとき」は,訴因変更 命令を出す義務がある,即ち,法三一二条二項は裁判所の権利を定めると共に義務をも規定する,と解 する。そして,裁判所が右命令を出せば,検察官の訴因変更請求等の手続を経ずに訴因が変わるとして, 右命令に形成力を認める。けだし,そう解しなければ,公訴事実全体にわたって審理を尽くすべき裁判 所の義務が果たせないからである。  
これに対し審判の対象を訴因と考える説は,裁判所には訴因変更命令を出す義務は原則としてなく, かつ訴因変更命令にも形成力はなく,検察官の訴因変更請求をまってはじめて,訴因変更の効果が生ず るとする。訴因変更は,原則として,当事者(とりわけ検察官)にゆだね,それがない限りは,裁判所は 当初の訴因に対応する証拠があるか否かのみを判断すればよく,判断者に徹底できる,という考え方を 基礎にしているといえよう。

身分犯についてわかりやすく解説

 身分犯とは,構成要件上行為者に一定の身分のあることが必要とされる犯罪であり,行為者が一定の 身分を有することによって犯罪が構成される真正身分犯と,法定刑が加重又は減軽されるに過ぎない不 真正身分犯とがある。
前者の例としては,収賄罪,偽証罪,背任罪,後者の例としては,常習賭博罪, 尊属侵害致死罪,などがある。身分の意義について判例は「男女の性別,内外国人の別,親族の関係, 公務員たるの資格のような関係のみに限らず,総て一定の犯罪行為に関する犯人の人的関係である特殊 の地位又は状態を指称する」と広く解している(最判昭二七・九・一九刑集六・八・一〇八三)。
ところ で,右の「特殊の地位又は状態」はある程度継続性をもつことを要するであろうか。判例は,麻薬取締 法六四条二項の「営利の目的」が,刑法六五条二項にいう「身分」にあたるとしており,身分は必ずしも継続的性質を有しなくともよいと考えているようである。
後述するように,同条二項が身分の有無に よって異なる刑を科すべきものとしているのは,犯罪そのものは身分の有無とは無関係に成立するが, 特定の身分のある者がその犯罪を犯した場合には,可罰的評価がより高いから,より重い刑を科すべき であり,反対にその身分のない者は,身分のある者の可罰的評価の高い行為に加功したものであっても, 身分のある者の行為ほどに可罰的評価が高いものとは言えないから,軽い通常の刑を科するのが公平に 適するからであり,したがって,身分は,継続的性質を有さずとも,犯人の人的関係である特殊な状態 であって,それによって可罰的評価がより高くなり,もしくはより低くなると認められるものであれば 足りると言うべきであろう。

 身分犯に非身分者が加わった場合をどのように取う扱うべきであろうか。
刑法六五条の解釈が問題と なる。同条は次のように規定されている。「犯人の身分に因り構成す可き犯罪行為に加功したるときは, 其身分なき者と雖も,仍ほ共犯とす(一項)。身分に因り特に刑の軽重あるときは,其身分なき者には,通 常の刑を科す(二項)。」。
通説的見解は,一項は真正身分犯と共犯との関係について,二項は不真正身分 犯と共犯との関係について規定したものと理解している。そして一項,二項がともに共犯と身分の関係 を規定しながら,一項はこの関係を連帯的に,二項はこれを個別的に取り扱っていることに対しては, 一項は身分が行為の違法性を規制する要素となっている場合について,違法の連帯性を認めたものであ り,二項は身分が行為の責任性を規制する要素となっている場合について,責任の個別性を明らかにし た規定であり,このような理解は,違法は連帯的に,責任は個別的にという制限従属性説の基本思想と も合致するものであるとの説明するのが一般的である。
右の通説的見解に従うと,不真正身分犯につい て,身分のない者が身分のある者に加功した場合には,二項により(一項の適用なく),身分のある者に は身分により加重減軽された刑が,身分のない者には通常の刑が科されることになる。
これに対しては, 一項は真正身分犯,不真正身分犯を通じて,身分犯における共犯の成立の問題を定めたものであり,二 項は不真正身分犯について科刑の問題を規定したものと解する見解がある(団藤,大  ,福田説等)。真 正身分犯も不真正身分犯も,行為者が身分を有することによってはじめてその罪が構成されることに変 わりはないというのがその理由である。
この見解によれば,賭博の非常習者が常習者の賭博行為を教唆・ 幇助したときは,一項により常習賭博罪の教唆犯・幇助犯が成立し,二項により科刑の点において単純 賭博罪の教唆犯・幇助犯として処罰されることになるのであるが,犯罪の成立と科刑が分離されること になるのはおかしいし,一項の「身分に因り構成す可き犯罪行為」を二項の「身分に因り特に刑の軽重 ある」犯罪に対置させている規定形式からみると,「身分に因り構成す可き犯罪行為」とは一定の身分 が可罰性を基礎づける犯罪,即ち真正身分犯と解するのが文理上も自然であると批判されている。
判例 はこのような場合につき,原則的に一項の適用を否定しており,通説的見解と同様の立場に立つものと 思われるが(ただし,非身分者にははじめから通常の犯罪が成立するから通常の刑によるとするのか,そ れとも,非身分者には犯罪としては身分犯の共犯が成立するが刑だけを通常の刑によるとするのかにつ いては,必ずしも明らかではない。),業務上横領罪について,非占有者が業務上の占有者に加功した場 合,非占有者に対して一項の適用を認めて業務上横領の共犯とし,その上で二項により単純横領の刑を 科しており,不真正身分犯に一項の適用を認めているかのようにも見えるが,業務上横領罪は「業務上 の」占有者という点で不真正身分犯であるだけではなく,非占有者に対する「占有者」という身分の関 係では一項の身分によって構成すべき犯罪であるという特殊性があるので,右のような適条になったも のと考えることができ,判例のとる立場は通説的見解に反するものではないといわれている。

 次に,不真正身分犯において,身分のある者が身分のない者の行為に加功した場合,判例及び通説的 見解は,刑法六五条二項により,身分のある者には身分により加重減軽された刑が,身分のない者には 通常の刑が科されるとしており,責任は個別的にという前述の理由の他,文理上の根拠として,二項は 一項と異なり誰が誰に加功したことかは明らかにしておらず,「身分なき者」としているだけで身分の ない「共犯」とは規定していないことなどを挙げている。
これに対しては,教唆行為・幇助行為自体を 実行行為とみることに等しく,妥当ではないとして,身分のある者についても通常の犯罪が成立するに 過ぎないとする見解がある(団藤,大 ,福田説など)。この立場に立つと,非常習者の賭博行為を教唆・ 幇助した賭博常習者も,単純賭博罪の教唆犯・幇助犯として処罰されるにとどまるべきことになるが, これに対しては,非身分者はその犯行の直接・間接を問わず,常に同一の刑を受けるのと照応して均衡 を欠くことになるという批判が加えられている。


 

最後に,刑法六五条一項にいう「共犯」には共同正犯も含まれるか否かについて検討する。この点に ついては,身分がなく単純正犯になり得ない者は,その共同正犯にもなり得ないことになるのか否かが 問題となる。
真正身分犯については身分のない者の行為はその実行行為の類型を欠くから,共同実行と いうことはあり得ないし,身分ある者の犯罪実行であるからこそ可罰的違法性が認められるのであって, 自然的行為としては行為の共同があるとしても,身分なき者について身分ある者と同一程度の可罰的違 法性を認めることはできないという理由で,一項の「共犯」には共同正犯を含まないとする見解が有力 に主張されているが(団藤,大 ,福田説等),通説的見解は,身分のない者も事実面では加功できるか ら共同正犯を認めることに障害はないことなどを理由として,一項の「共犯」には共同正犯も含まれる と解しており,判例も通説的見解と同じ結論をとっている。

身分犯についてわかりやすく解説

 身分犯とは,構成要件上行為者に一定の身分のあることが必要とされる犯罪であり,行為者が一定の 身分を有することによって犯罪が構成される真正身分犯と,法定刑が加重又は減軽されるに過ぎない不 真正身分犯とがある。
前者の例としては,収賄罪,偽証罪,背任罪,後者の例としては,常習賭博罪, 尊属侵害致死罪,などがある。身分の意義について判例は「男女の性別,内外国人の別,親族の関係, 公務員たるの資格のような関係のみに限らず,総て一定の犯罪行為に関する犯人の人的関係である特殊 の地位又は状態を指称する」と広く解している(最判昭二七・九・一九刑集六・八・一〇八三)。
ところ で,右の「特殊の地位又は状態」はある程度継続性をもつことを要するであろうか。判例は,麻薬取締 法六四条二項の「営利の目的」が,刑法六五条二項にいう「身分」にあたるとしており,身分は必ずしも継続的性質を有しなくともよいと考えているようである。
後述するように,同条二項が身分の有無に よって異なる刑を科すべきものとしているのは,犯罪そのものは身分の有無とは無関係に成立するが, 特定の身分のある者がその犯罪を犯した場合には,可罰的評価がより高いから,より重い刑を科すべき であり,反対にその身分のない者は,身分のある者の可罰的評価の高い行為に加功したものであっても, 身分のある者の行為ほどに可罰的評価が高いものとは言えないから,軽い通常の刑を科するのが公平に 適するからであり,したがって,身分は,継続的性質を有さずとも,犯人の人的関係である特殊な状態 であって,それによって可罰的評価がより高くなり,もしくはより低くなると認められるものであれば 足りると言うべきであろう。

 身分犯に非身分者が加わった場合をどのように取う扱うべきであろうか。
刑法六五条の解釈が問題と なる。同条は次のように規定されている。「犯人の身分に因り構成す可き犯罪行為に加功したるときは, 其身分なき者と雖も,仍ほ共犯とす(一項)。身分に因り特に刑の軽重あるときは,其身分なき者には,通 常の刑を科す(二項)。」。
通説的見解は,一項は真正身分犯と共犯との関係について,二項は不真正身分 犯と共犯との関係について規定したものと理解している。そして一項,二項がともに共犯と身分の関係 を規定しながら,一項はこの関係を連帯的に,二項はこれを個別的に取り扱っていることに対しては, 一項は身分が行為の違法性を規制する要素となっている場合について,違法の連帯性を認めたものであ り,二項は身分が行為の責任性を規制する要素となっている場合について,責任の個別性を明らかにし た規定であり,このような理解は,違法は連帯的に,責任は個別的にという制限従属性説の基本思想と も合致するものであるとの説明するのが一般的である。
右の通説的見解に従うと,不真正身分犯につい て,身分のない者が身分のある者に加功した場合には,二項により(一項の適用なく),身分のある者に は身分により加重減軽された刑が,身分のない者には通常の刑が科されることになる。
これに対しては, 一項は真正身分犯,不真正身分犯を通じて,身分犯における共犯の成立の問題を定めたものであり,二 項は不真正身分犯について科刑の問題を規定したものと解する見解がある(団藤,大  ,福田説等)。真 正身分犯も不真正身分犯も,行為者が身分を有することによってはじめてその罪が構成されることに変 わりはないというのがその理由である。
この見解によれば,賭博の非常習者が常習者の賭博行為を教唆・ 幇助したときは,一項により常習賭博罪の教唆犯・幇助犯が成立し,二項により科刑の点において単純 賭博罪の教唆犯・幇助犯として処罰されることになるのであるが,犯罪の成立と科刑が分離されること になるのはおかしいし,一項の「身分に因り構成す可き犯罪行為」を二項の「身分に因り特に刑の軽重 ある」犯罪に対置させている規定形式からみると,「身分に因り構成す可き犯罪行為」とは一定の身分 が可罰性を基礎づける犯罪,即ち真正身分犯と解するのが文理上も自然であると批判されている。
判例 はこのような場合につき,原則的に一項の適用を否定しており,通説的見解と同様の立場に立つものと 思われるが(ただし,非身分者にははじめから通常の犯罪が成立するから通常の刑によるとするのか,そ れとも,非身分者には犯罪としては身分犯の共犯が成立するが刑だけを通常の刑によるとするのかにつ いては,必ずしも明らかではない。),業務上横領罪について,非占有者が業務上の占有者に加功した場 合,非占有者に対して一項の適用を認めて業務上横領の共犯とし,その上で二項により単純横領の刑を 科しており,不真正身分犯に一項の適用を認めているかのようにも見えるが,業務上横領罪は「業務上 の」占有者という点で不真正身分犯であるだけではなく,非占有者に対する「占有者」という身分の関 係では一項の身分によって構成すべき犯罪であるという特殊性があるので,右のような適条になったも のと考えることができ,判例のとる立場は通説的見解に反するものではないといわれている。

 次に,不真正身分犯において,身分のある者が身分のない者の行為に加功した場合,判例及び通説的 見解は,刑法六五条二項により,身分のある者には身分により加重減軽された刑が,身分のない者には 通常の刑が科されるとしており,責任は個別的にという前述の理由の他,文理上の根拠として,二項は 一項と異なり誰が誰に加功したことかは明らかにしておらず,「身分なき者」としているだけで身分の ない「共犯」とは規定していないことなどを挙げている。
これに対しては,教唆行為・幇助行為自体を 実行行為とみることに等しく,妥当ではないとして,身分のある者についても通常の犯罪が成立するに 過ぎないとする見解がある(団藤,大 ,福田説など)。この立場に立つと,非常習者の賭博行為を教唆・ 幇助した賭博常習者も,単純賭博罪の教唆犯・幇助犯として処罰されるにとどまるべきことになるが, これに対しては,非身分者はその犯行の直接・間接を問わず,常に同一の刑を受けるのと照応して均衡 を欠くことになるという批判が加えられている。


 

最後に,刑法六五条一項にいう「共犯」には共同正犯も含まれるか否かについて検討する。この点に ついては,身分がなく単純正犯になり得ない者は,その共同正犯にもなり得ないことになるのか否かが 問題となる。
真正身分犯については身分のない者の行為はその実行行為の類型を欠くから,共同実行と いうことはあり得ないし,身分ある者の犯罪実行であるからこそ可罰的違法性が認められるのであって, 自然的行為としては行為の共同があるとしても,身分なき者について身分ある者と同一程度の可罰的違 法性を認めることはできないという理由で,一項の「共犯」には共同正犯を含まないとする見解が有力 に主張されているが(団藤,大 ,福田説等),通説的見解は,身分のない者も事実面では加功できるか ら共同正犯を認めることに障害はないことなどを理由として,一項の「共犯」には共同正犯も含まれる と解しており,判例も通説的見解と同じ結論をとっている。

適正手続の保障について解説

1 憲法(以下法名略)31条の意義

 31条は,「何人も,法律の定める手続によらなければ,その生命若しくは自由を奪はれ,又はその他の刑罰を科せられない。」と規定する。この規定は,人身の自由についての基本原則を定めた規定であり,アメリカ合衆国憲法の人権宣言の一つの柱とも言われる「法の適正な手続」(due process of law)を定める条項(この条項は,いかなる州も,法の適正な手続によらないで,何人からも生命,自由又は財産を奪ってはならないことを規定する。)に由来する。公権力を手続的に拘束し,人権を手続的に保障していこうとする思想は,英米法に特に顕著な特徴であり,手続保障の観点は,人権保障を考える上で重要な視点である。

2 適正手続の保障内容

⑴ 31条の規定内容

31条は,法文では,①手続が法律で定められること(手続の法定)を要求するにとどまっているようにも読める。しかし,それだけではなく,②法律で定められた手続が適正でなければならないこと(手続の適正,例えば告知・聴聞の手続),③実体もまた法律で定められなければならないこと(実体の法定,罪刑法定主義),④法律で定められた実体規定も適正でなければならないこと(実体の適正)をも意味すると解するのが通説である。この解釈には有力な異論もあるが,通説の立場は,アメリカの適正手続条項の解釈にも一致し,人権の手続的保障の強化という見地から,ほぼ妥当なものと評されている。

⑵ 手続の法定(①)

    手続の法定とは,刑事手続は,法律によって定めなければならないことをいう(刑事手続法定主義)。31条にいう「法律」は,形式的意味の法律を指す。したがって,刑事手続に関する定めは,原則として,国会によって制定される法律によってしかなし得ない。ただし,77条1項は,「最高裁判所は,訴訟に関する手続,弁護士,裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について,規則を定める権限を有する」と規定し,この例外を定めているので,最高裁判所が規則によって刑事訴訟に関する手続を定めることは許される。

⑶ 手続の適正(②)

  手続の適正の具体的な内容については,33条から39条までの規定により具体的に定められている。31条により保障されるべき内容として重要なものが,「告知と聴聞」を受ける権利である。「告知と聴聞」とは,公権力が国民に刑罰その他の不利益を科す場合には,当事者にあらかじめその内容を告知し,当事者に弁解と防御の機会を与えなければならないというものである。

最高裁は,貨物の密輸を企てた被告人が有罪判決を受けた際に,その付加刑として,密輸に係る貨物の没収判決を受けたところ,被告人が,所有者たる第三者に事前に財産権擁護の機会を与えないで貨物を没収することは違憲であると主張した事案において,「第三者の所有物を没収する場合において,その没収に関して当該所有者に対し,何ら告知,弁解,防禦の機会を与えることなく,その所有権を奪うことは,著しく不合理であつて,憲法の容認しないところである」,「関税法118条1項は,同項所定の犯罪に関係ある船舶,貨物等が被告人以外の第三者の所有に属する場合においてもこれを没収する旨規定しながら,その所有者たる第三者に対し,告知,弁解,防禦の機会を与えるべきことを定めておらず,また刑訴法その他の法令においても,何らかかる手続に関する規定を設けていないのである。従って,前記関税法118条1項によって第三者の所有物を没収することは,憲法31条,29条に違反するものと断ぜざるをえない」と判示した(第三者所有物没収事件/最大判昭和37年11月28日刑集16巻11号1593頁)。

    このように,判例は,告知と聴聞の権利が,刑事手続における適正性の内容をなすことを認めている。なお,この判例は,第三者の権利侵害を援用する違憲の主張に適格性を認めた事例でもある。

⑷ 実体の法定(罪刑法定主義)(③)

    実体の法定とは,罪刑法定主義を意味するが,この点に関しては,以下の事項が問題となる。

   ア 政令と刑罰

     政令による罰則制定の可否について,判例は,73条6号ただし書が規定する罰則の委任(政令には,特にその法律の委任がある場合を除いては,罰則を設けることができないことを規定する。)について,「実施さるべき基本の法律において特に具体的な委任」がなければならず,それが「広範な概括的な委任」であってはならないとしている(最大判昭和27年12月24日刑集6巻11号1346頁)。

イ 条例と刑罰

     条例による罰則制定の可否についても争いがある。判例は,①刑罰は,法律の授権によってそれ以下の法令によって定めることもできると解すべきで、このことは73条6号ただし書によっても明らかであること,②条例は,法律以下の法令といっても,行政府の制定する命令等とは性質を異にし,むしろ国民の公選した議員をもつて組織する国会の議決を経て制定される法律に類するものであることから,条例によって刑罰を定めることも許される場合があり,具体的には,「法律の授権が相当な程度に具体的であり,限定されておればたりると解するのが正当である」としている(最大判昭和37年5月30日刑集16巻5号577頁)。

⑸ 実体の適正(④)

    実体の適正の内容としては,通常,a刑罰規定の明確性,b罪刑の均衡,c刑罰の謙抑主義等が挙げられる。

aについては,どの程度の明確性が要求されているのかが問題となる。この点につき,最高裁は,「ある刑罰法規があいまい不明確のゆえに憲法31条に違反するものと認めるべきかどうかは,通常の判断能力を有する一般人の理解において,具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれるかどうかによってこれを決定すべきである。」と判示した(徳島市公安条例事件判決/最大判昭和50年9月10日刑集29巻8号489頁)。

3 31条と行政手続

⑴ 問題の所在

    31条は,「その他の刑罰を科せられない」という文言からもわかるように,直接には刑事手続についての規定である。しかし,現代では,行政が生活の隅々まで介入し,国民の権利に重大な影響を与えるようになっているため,国民の権利保障のためには,行政権の発動についても,適正な手続によることが要請される。ただ,その根拠条文を31条に求めるべきかについては,説が分かれている。

⑵ 学説

    学説上,一般的には,行政手続にも適正手続の保障を及ぼす必要性がある以上,31条を直接適用し,又は,準用すべきであると解されている(31条適用ないし準用説)。ただし,すべての行政権の発動について例外なく適用されるとは解しておらず,例外があることは承認する。

    少数説は,31条の文理を重視し,行政手続には31条が適用されないとする(31条不適用説)。もっとも,この説も,行政手続の適正に対する要請を否定するものではなく,各個別の人権規定,幸福追求権を保障する13条,憲法における法治国原理の手続的理解により,手続の適正が要請されるとする。

    実際には,後記の行政手続法の成立によって,告知・聴聞を受ける権利が保障されることになった。

⑶ 判例

    最高裁は,告知聴聞の機会を与えることなく工作物の使用を禁止する処分を定めたいわゆる成田新法が,31条に違反しないかが争われた事案において,「31条の定める法定手続の保障は,直接には刑事手続に関するものであるが,行政手続については,それが刑事手続ではないとの理由のみで,そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。しかしながら,同条による保障が及ぶと解すべき場合であっても,一般に,行政手続は,刑事手続とその性質においておのずから差異があり,また,行政目的に応じて多種多様であるから,行政処分の相手方に事前の告知,弁解,防御の機会を与えるかどうかは,行政処分により制限を受ける権利利益の内容,性質,制限の程度,行政処分により達成しようとする公益の内容,程度,緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって,常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解するのが相当である。」とした(ただし,この事案については,「本法3条1項に基づく工作物使用禁止命令により制限される権利利益の内容,性質は,前記のとおり当該工作物の三態様における使用であり,右命令により達成しようとする公益の内容,程度,緊急性等は,前記のとおり,新空港の設置,管理等の安全という国家的,社会経済的,公益的,人道的見地からその確保が極めて強く要請されているものであって,高度かつ緊急の必要性を有するものであることなどを総合較量すれば,右命令をするに当たり,その相手方に対し事前に告知,弁解,防御の機会を与える旨の規定がなくても,本法3条1項が憲法31条の法意に反するものということはできない」と判示した(成田新法事件/最大判平成4年7月1日民集46巻5号437頁)。

    この判例は,行政手続について31条の適用があるか否か,どのような行政手続に31条の適用があるのかについての一般的な見解を明示するのを避け,行政手続に同条が適用又は準用される場合であってもという仮定の下に,その場合でも常に事前手続が必要とされるものでないことを示したものであると理解されている(判タ789号76頁)。

⑷ 行政手続法

    平成6年に施行された行政手続法には,行政処分等に関する手続に共通して求められる事項が定められている。不利益処分を行う場合には,原則として,名あて人について意見陳述のための手続(聴聞に限られてはいない。)を執らなければならないとされているが,例外規定も定められている(行政手続法13条)。

なお,そもそも,行政手続法の適用が除外される手続も多い(同法3条,4条等)。

4 補足

⑴ その他の条文

   35条1項は,「何人も,その住居,書類及び所持品について,侵入,捜索及び押収を受けることのない権利は,第33条の場合を除いては,正当な理由に基いて発せられ,且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ,侵されない。」と規定し,「住居,書類及び所持品」について,恣意的な「侵入,捜索及び押収」を禁止している。38条1項は,「何人も,自己に不利益な供述を強要されない。」と規定し,不利益な供述を避けた場合にも,処罰その他法律上の不利益を与えることを禁じている。

⑵ 35条,38条と行政手続の関係について

    最高裁は,旧所得税法上の質問検査権(収税廷吏が税務調査に当たり納税義務者等に質問し,帳簿等の物件を検査でき,これを拒否した者には罰則が適用されるという制度)に基づく調査を拒否して起訴された被告人が,質問検査が,令状主義(35条)及び黙秘権の保障(38条)に反すると主張した事案において,「憲法35条1項の規定は,本来,主として刑事責任追及の手続における強制について,それが司法権による事前の抑制の下におかれるべきことを保障した趣旨であるが,当該手続が刑事責任追及を目的とするものでないとの理由のみで,その手続における一切の強制が当然に右規定による保障の枠外にあると判断することは相当ではない」と判示しつつ,質問検査は,①刑事責任の追及を目的とする手続ではないこと,②実質上,刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するものではないこと,③強制の態様が,直接的物理的な強制と同視すべき程度にまで達しているものではないこと,④国家財政の基本となる徴税権の適正な運用を確保し,所得税の公平確実な賦課徴収を図るという公益上の目的を実現するために収税官吏による実効性のある検査制度が欠くべからざるものであることから,35条に反しないとした。また,38条による保障は,「純然たる刑事手続においてばかりではなく,それ以外の手続においても,実質上,刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続には,ひとしく及ぶものと解するのを相当とする」と判示しつつ,質問検査権の上記の特徴に照らして38条には反しない,とした(川崎民商事件/最大判昭和47年11月22日刑集26巻9号554頁)。

予算に関する国会の権能について論ぜよ。

例題    予算に関する国会の権能について論ぜよ。

統治機構の概説

  ⑴ 統治機構の基本原理

    近代憲法は,権利宣言と統治機構の二つの部分から成り,統治機構の基本原理は国民主権と権力分立である。

国民主権の原理には,国の政治の在り方を最終的に決定する権力を国民自身が行使するという権力的契機,国家の権力行使を正当付ける究極的な権威は国民に存するという正当性の契機の二つの内容が存在する。

権力分立は,国家権力が単一の国家機関に集中すると,権力が濫用され,国民の権利及び自由が侵されるおそれがあるので,国家の諸作用を性質に応じて立法,行政及び司法というように区別し,それを異なる機関に担当させるよう分離し,相互に抑制と均衡を保たせる制度であり,その狙いは,国民の権利及び自由を守ることにある。

  ⑵ 国会

    国会は,全国民を代表する選挙された議員により組織された(憲法(以下法名略)43条1項),国権の最高機関であって,国の唯一の立法機関として(41条)立法権を独占している。

  ⑶ 内閣

    内閣は,行政活動全体を統括する地位にあり,行政権は内閣に属するものとされている(65条)。ここにいう「行政」とは,全ての国家作用のうち,立法作用と司法作用を除いた残りの作用であると解するのが通説である。

  ⑷ 司法

    全て司法権は,最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する(76条1項)。ここにいう「司法」とは,具体的な争訟について,法を適用し,宣言することによって,これを裁定する国家の作用をいう。

設問の解説

1 総論

  ⑴ 予算の意義及び財政民主主義

   ア 予算の意義

予算とは,1会計年度における国の歳入歳出の予定的見積もりを内容とする国の財政行為の準則をいう。歳入については,その性質上,単なる収入の予定の意味合いが強いが,歳出については,その使途及び金額に関し,政府を拘束する。そのため,予算は,単なる見積表ではなく,国家の行為を規律する法規範である。

   イ 財政民主主義

予算は,会計年度ごとに内閣によって作成され,国会に提出された後,両議院の審議・議決を経て成立する(73号,86条)。83条は,「国の財政を処理する権限は,国会の議決に基づいて,これを行使しなければならない。」と規定し,国の財政処理の権限を国会のコントロールの下に置く財政国会中心主義の原則を採用している。これは,国民から金銭を租税として徴収し,集められた金銭を配分するという点で,国家の財政は国民の生活に直結していることから,財政を国民の代表者で構成される国会(43条1項)の意思にかからしめることによって,ひいては広く国民の意思に基づかせることを要求する財政民主主義の表れである。そこで,憲法は,こうした財政国会中心主義の趣旨に鑑み,財政の準則である予算についても,その成立に国会の議決を要求している。

 予算の議決手続

憲法は,予算の提出権及び議決方法に関し,一般の法律とは異なる特別な定めをしている。まず,上記のように,予算は内閣によって作成される。すなわち,予算の作成及び提出権は内閣に専属する(86条)。予算の作成に当たっては,社会経済動向の把握を要し,計数のみを内容とするなどの点で,専門的・技術的能力が要求されることから,この権能を内閣に委ねたのと考えられている。

予算は,先に衆議院に提出しなければならず,衆議院に先議権が与えられている(60条1項)。衆議院での先議後,予算は参議院に送付される。予算は両議院の可決によって成立する。ただし,参議院衆議院と異なった議決をした場合は,両院協議会を開き,そこでも意見が一致しないとき,又は参議院が,衆議院の可決した予算を受け取った後,国会休会中の期間を除いて30日以内に議決しないときは,衆議院の議決が国会の議決とされ(同条2項),法律の場合よりも衆議院の優越が強く認められている。

成立した予算を公布することは,憲法上要求されていないが(7条1号参照),実際には官報で公示されている。

 予算の法的性格

予算の法的性格については,①予算行政説,②予算法律説,③予算国法形式説などの考え方がある。

   ア ①予算行政説

予算行政説は,予算は本来行政行為であり,議会に対する意思表示にすぎず,法規範性を持たないとするものであるが,予算に法規範性を認めない点で,憲法が採用する財政民主主義の原則と相容れない。

イ ②予算法律説

予算法律説は,予算は,法規範であるのみならず,それ自体法律であると解する考え方である。しかし,予算は政府を拘束するのみで,一般国民を拘束しない,予算の効力は1年に限られ,一般の法律のように永続性がない,予算の内容は計数のみを扱う,法律とは別個の議決手続が規定されている(59条,60条),との点で,予算が法律そのものであると解することは困難であると批判される。

   ウ ③予算国法形式説

こうした予算の特質に鑑み,予算は法律そのものではなく,「予算」という法律とは異なる別個の法形式であると解する③予算国法形式説が,今日の多数説である。

 2 予算に関する国会の権能

  ⑴ 予算の議決

    上記のとおり,予算は,会計年度ごとに内閣によって作成され,国会に提出された後,両議院の審議・議決を経て成立する(73号,86条)。83条は,「国の財政を処理する権限は,国会の議決に基づいて,これを行使しなければならない。」と規定する。したがって,国会は,予算を議決し,予算を成立させる権能を有する。

  ⑵ 予算と法律の不一致

予算は,国家の財政支出についての国会の同意に過ぎず,その前提となる実体法上の根拠は,別途法律で定められなければならない。もっとも,予算と法律をそれぞれ別個の法形式と解すると,法律相互のように後法が前法を廃するという関係に立たない上,予算及び法律の議決手続に違いがあることなどから,予算と法律の間に不一致が生じ得る。

ア 法律は制定されたが,その執行に必要な予算が成立していない場合

「法律を誠実に執行」する義務を負う内閣(73条1号)としては,補正予算の作成(財政法29条)や予備費支出87条,財政法35条)などの措置を講じることになろう。

しかし,予算の作成及び提出は内閣の権能であるから,国会は当該措置に関し,何らの義務を負わないと考えられている。

 予算は成立したが,その支出を命じる法律が制定されていない場合

予算に当該支出を計上した内閣としては,法律案の提出などによって当該施策の実施に努めるべきである。もっとも,国会はそのような予算を議決した以上,道義的には当該法律の制定に努めるべきであるが,制定すべき法的義務までは負わないと解されている。

 予算の修正

上記のとおり,予算は国会の議決により成立するが,国会が,内閣の提出した予算に修正を加えることは許されるのか。

 減額修正

財政民主主義の原則を尊重すべきであること,減額修正であれば,内閣の予算発案権を害するおそれがないことから,国会は無制限に減額修正ができると解されている。

 増額修正

予算の発案及び提出権が内閣に専属していることを重視して,国会が予算の増額修正をすることは全くできないと解する説もあるが,財政民主主義の原則の重要性に照らせば,国会による予算の増額修正も可能と考えるべきである(国会法57条の3,財政法19条も増額修正が可能であることを前提としている。)。

もっとも,その限界については,国会は予算全体を否決することもできるのであるから,減額修正と同様に,増額修正にも限界はないと解する考え方も有力に唱えられているが,内閣の予算の発案及び提出権に鑑み,予算の同一性を失わせるなど,内閣の当該権限そのものを否定する程度に至る大幅な修正は許されないとするのが多数説(政府見解)である。

なお,国会法57条の3は,予算の増額修正について,内閣に意見を述べる機会を与えなければならないとしている。

⑷ 決

決算とは,1会計年度における国の収支の実績を示す確定計算書をいう。予算と異なり,法規範性はない。

90条1項は「国の収入支出の決算は,すべて毎年会計検査院がこれを検査し,内閣は,次の年度に,その検査報告とともに,これを国会に提出しなければならない。」と規定している。

国会は,決算を審査することにより,予算の執行が現実に適正に行われたかどうかを検討し,内閣の政治的責任を明らかにするとともに,将来の財政計画等の策定に備えることができる。

 3 結語

   以上によれば,国会は,予算を作成する権能を有していないが,内閣により作成及び提出される予算を議決し,予算を成立させる権能を有する。そして,予算と法律に不一致が生じた場合でも,これらが一致するようにすべき法的な義務を負うものではない。

また,国会は,無限定に予算を減額修正することができ,一定程度,増額修正する権能も有する。さらに,国会は,決算の権能を有し,内閣の政治的責任を明らかにするとともに,将来の財政計画等の策定に備えることができる。

 

①錯誤・詐欺,②保証,③債権譲渡について解説

 

1 出題趣旨

1 ①錯誤詐欺,②保証,③債権譲渡についての理解を深める。

2 複雑な事実関係を整理した上,問題点に気づける能力を養う。

 

第2 解説(設問1)

1 問題状況

⑴ 前提

  との間での債務につき,保証契約を締結している。

 から保証債務につき,履行しなければならない。

 

⑵ 本件での特殊事情

ア 前段

は,本件保証契約締結当時,の代金債務を担保するためにがその所有する建物に抵当権を設定するものと信じていたが,実際にはその事実はなかった。

⇒錯誤?

 

 後段

  が誤信していたのは,が欺いていたからであった。

 ⇒詐欺?

  契約の相手方による詐欺ではないが・・

 

2 知識の確認

⑴ 保証

ア 意義

保証債務とは,債務者(主たる債務者)が債務を履行しない場合に,これに代わって履行するために債務者以外の者(保証人)が負担する債務をいう(民法446条1項)

イ 要件

① 主債務(=保証の対象となる債務)があること

② 保証契約の成立(債権者と保証人との間の合意)

③ ②が書面(又は電磁的記録)によってされたこと

 

ウ 連帯保証との違い

 催告・検索の抗弁権が無い 

保証債務は,あくまで主債務を担保するものである(これを「補充性」という。)。そのことから,保証には以下の権利が認められている。

催告の抗弁権(452条)…主たる債務者にまず請求をしろと主張できる権利

検索の抗弁権(453条)…主たる債務者に資産があるようなら,その資産からまず回収しろという権利のこと。

⇒連帯保証の場合には,これらの抗弁権が認められていない。

 連帯保証人に生じた事由につき,主債務者にも効力を及ぼす場合がある(458条)。

⑵ 錯誤(95条)

ア 意義:表意者が内心と表示の不一致を知らないで,意思表示をすること

心裡留保(93条),通謀虚偽表示(94条)は,表意者自身が内心と表示の不一致を知りつつも意思表示をする場合

 

イ 要件(内容は旧法と変わらないが,明文化された部分があるため,条文を要確認)

95条1項各号該当性

意思表示に対応する意思を欠く錯誤(表示行為の錯誤)

又はⅱ表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤(動機の錯誤)

 

①の錯誤が,法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものである

こと(95条1項柱書)

⇒ⅰその錯誤がなければ,表意者は意思表示をしなかったこと

+ⅱⅰにつき,通常の人の基準(一般取引通念に照らして)としても妥当であること(=通常の人であっても契約しないと認められること)

 

③(動機の錯誤の場合)錯誤の対象となる事情につき,法律行為の基礎とされていることが表示されていること(95条2項)

 

④表意者に重過失がないこと

 

ウ 動機の錯誤

95条1項2号について

法律行為(意思表示)そのものには錯誤がないが,法律行為(意思表示)に至る経緯・動機につき,錯誤がある場合

 95条2項について

  動機の錯誤について,表示の錯誤と同様に保護されるためには,錯誤の対象となる事情につき,法律行為の基礎とされていることが表示されていることが必要となる。

「表示」が具体的に示されていること(明示)を要するか,暗に示されている場合でも足りる(黙示)かについては法改正でも踏み込まず,解釈に委ねられたが,判例黙示でも足りるとしている

 

エ 効果

当該意思表示につき,取消すことができる(無効から取消となったため注意)。

∵ かつては,表示と内心との間に食い違いがある場合,「表示に対応する意思がない」という理由から,無効としていた。しかし,後述する詐欺と比べても,「表意者が本意では無い意思表示をしてしまった場合」としてさほど差があるとは言えない。そこで,錯誤の効果を取消権の発生とした。

 

オ 例外規定-表意者に重過失がある場合等

 表意者に重過失ある場合の取消制限

勘違いをしたといっても,その原因はいろいろあり,勘違いについて表示者に重大な落ち度があるのにこれを保護するのも,相手方に酷である。そこで,錯誤につき,重過失ある場合,表意者は取消の意思表示をすることができない(95条3項柱書)。

 取消制限の例外

ただし,表意者に重過失があっても,「表意者の相手方が,表意者が錯誤に陥っていることについて知り又は重大な過失によって知らなかった場合(95条3項1号),「表意者の相手方も表意者と同様に錯誤に陥っている場合」(同項2号:いわゆる共通錯誤の場合)には取消が出来る。

前者の場合は,相手方は表意者の勘違いを知っている(少なくとも知っていて然るべきである)ので,取消権を行使されても,「ああ。勘違いしてたからな。取り消すと思ってたよ。」で済む。後者の場合は,相手方も勘違いしていたということなら,そもそも,相手方も「成立していた合意の履行」を考えていなかったと言えるから,表示の効果を認める必要は無いからである。

 

⑶ 詐欺(96条)

ア 詐欺とは:欺罔によって人を錯誤に陥れることをいう。

イ 制度趣旨

相手方の欺罔行為により,表意者が錯誤に陥り,その錯誤によって意思表示をしてしまった場合(EX,売主が贋作であるにも関わらず,本物であると欺き,買主に贋作の絵を本物に近い値段で売る売買契約を締結した場合),買主は絵を購入するという内心的効果意思(上記の場合だと,売買契約の締結という効果を発生させようとする意思)は認めることができるが,かかる意思が形成されたのは,相手方である売主が虚偽を伝えたことが原因であるため,意思通りの効果を認めることは好ましくない。

⇒かかる瑕疵(かし)ある意思表示がなされた場合には,取り消すことができるとされている(民法96条1項)

ウ 類型 

 相手方が詐欺を行う場合(96条1項)

⇒①違法な欺罔行為,②それにより,表意者が錯誤に陥ったこと,③その錯誤により,表意者が意思表示をしたこと,④欺罔行為者の故意(錯誤に陥らせる故意とその錯誤により意思表示をさせる故意)が必要となる。

 三者が詐欺を行う場合(96条2項)

EX)三者が買主に対して,売主の所有している絵はバンクシーの絵であるから,購入した方がよいと欺き(本当は偽物の絵),売買契約を締結させるような場合。なお,第三者と売主はグルであり,売主は第三者が詐欺を行っていることを知っていた。

⇒かかる場合は,①ないし④に加えて,⑤瑕疵ある意思表示の相手がその事実(騙されているとの事実)を知っていたとき,または知り得たとき (知らなかったとしても,知らなかったことにつき,過失がある)に限り,取り消すことができる(96条2項)。

 

3 事案の検討

⑴ 前段

ア 問題提起

は,との間で,に対する代金債務を保証する本件保証契約を締結しており,に対して,保証債務を負っている。

しかし,は,の代金債務を担保するためにがその所有する建物に抵当権を設定するものと信じていたが,実際にはその事実はなかった。そのため,は,錯誤が認められるとして,本件保証契約を取消すことができるか。

 イ 要件

   本件で,は,が所有する建物に抵当権を設定するものと信じて本件保証契約に至っている(以下「本件錯誤」という。)ことから,意思表示の動機部分に錯誤が認められるため,民法95条1項2号に該当する。

   そのため,取消が認められるためには,①本件錯誤が,「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なもの」であること(民法95条1項柱書),②動機部分につき「法律行為の基礎とされていることが表示」されていること,③表意者に重大な過失が認められないことが必要となる。

ウ あてはめ

 まず,「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なもの」とは,当該錯誤がなければ,表意者は意思表示をせず,通常の人であっても同様であると認められることを意味する。

本件では,は,債務者であるが抵当権を設定し,自身が債務を実際に負担する可能性はないと考えて保証契約を締結したものであるが,にそのような事情がない場合には,の肩代わりをすることになるのであるから,保証契約を締結しなかったものと考えられる。そのため,本件錯誤に陥っていなかった場合には,保証契約の締結はしない,すなわち意思表示はしなかったと認められる。

そして,通常,連帯保証契約を締結するメリットはほぼなく,保証契約を締結するとしても,自身が実際に債務を負担する可能性がない場合に限定されるのであるから,債務者に物的担保を設定するとの事情がない場合には,一般の人であっても,保証契約の締結はしなかったと認められる。そのため,本件錯誤がなければ,通常の人であっても,保証契約の締結はしない,すなわち意思表示はしなかったと認められる。

  よって,本件錯誤は,「法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なもの」であると認められる。

 次に「法律行為の基礎とされていることが表示」されていることとは,動機部分につき,相手方に明示又は黙示的に示されていることが必要となる。

    本件では,に対し,が自己所有不動産に抵当権を設定するため,自己に負担がないから保証契約を締結するとの動機が表示されているため,明示的に示されていたといえる。

   もっとも,債務者であるに確認しないで勝手に思い込んだとしてCに錯誤につき,重大な過失があると評価する余地がある。しかし,債権者であるも債務者に確認することは可能かつ容易であるから,相手方につき,重大な過失によりCが錯誤に陥っていることを知らなかったと評価できるから,結論は左右しない

エ 結論

   以上によれば,要件を充足することから,に対し,本件保証契約の取消を主張することができ,拒むことができる。

⑵ 後段

 ア 問題提起

   に対し,による詐欺により,本件保証契約を締結したとして,取消を主張することができるか。

イ 要件

  詐欺による取消が認められるためには,①違法な欺罔行為,②それにより,表意者が錯誤に陥ったこと,③その錯誤により,表意者が意思表示をしたこと,④欺罔行為者の故意(錯誤に陥らせる故意とその錯誤により意思表示をさせる故意)が必要となり,また,本件は第三者による詐欺であるから,⑤相手方の悪意又は過失が必要となる。

ウ あてはめ

  本件では,に対し,所有の建物に抵当権を設定するから,絶対に迷惑をかけないとの虚偽の事実を伝え(①),はこれにより,が所有する建物に抵当権が設定されるものと誤信した上で(②),自身が債務を負担することはないとして,本件保証契約を締結している(③)。そして,が本件保証契約を締結するように,動機づけとなる虚偽の事実を伝えているから,当然に故意(④)も認められる。

  さらに,抵当権はAとBとの間で設定するものであるから,Cの発言につき,Aは事実と異なることに気づくことは可能で,かつBに確認した場合Cに事実と異なることを伝えたことを知り得たといえることから,少なくともAには過失が認められる(⑤)。

よって,はAに対し,取消権行使することで履行を拒絶することができる。

第3 解説(設問2)

1 問題提起

  本件では,に対し,虚偽の事実を伝えることで,本件売買契約を締結している。そして,に対し,売買代金債権を譲渡していることから,に代わって権利を行使できることになるが,保証人は,かかる請求を拒むことができるか。

は,に対する詐欺の事実を主張することで,の請求を拒むことができるか?

2 知識の確認

⑴ 保証

ア 前提:保証契約の性質

 附従性:保証債務は,主たる債務と別個の債務である。しかし,あくまで主たる債務を担保するのがその目的であるから,主債務なき保証債務は(根保証を除き)存在しないし,主債務を越える保証債務も同様である。これを保証債務の附従性という(448条)。

 随伴性:また,担保は主たる債務の履行を確実にするものであることから,主たる債務とともにあるべきなので,主たる債務に対応する債権が譲渡された場合,保証契約関係も自動的にくっついていく。これを保証債務の随伴性という。

⇒本件では,からに対し,債権が譲渡されているが,の保証債務もその

まま移行され,に対して保証債務を負うことになる。

 イ 主たる債務者の抗弁権の援用

保証債務は,あくまで主たる債務を担保するものであるから,主たる債務者がいえることは保証人もいえなければならない。そこで,主たる債務者が,同時履行の抗弁権などを有する場合には,保証人もこれを主張することができる(457条2項)。

ウ 主債務者の有する形成権の援用による履行拒絶

主たる債務者が債権者に対してもつ抗弁権が相殺権,取消権,解除権等の形成権の場合,保証人は,これらの形成権を保証人が独自に行使できるのではなく,その範囲で履行拒絶できる(457条3項)。

 債権譲渡

ア 債権の自由譲渡性

債権は原則として自由に譲渡することができる(466条1項本文)。なお ,性質上,譲渡が禁止される債権の場合には,制限される(466条1項但書)。

また,譲渡制限・禁止を当事者間で合意した債権については,譲渡の効力そのものは妨げられない(466条2項)。

イ 債権譲渡の通知・承諾対抗要件

   債権譲渡は,譲渡人が債務者に通知し,又は債務者が承諾しないと債務者その他の第三者に対抗(債権を譲り受けたとして権利行使すること)ができない(467条1項)。

   なお,第三者(他に債権を譲り受けた人)に対しては,譲渡人の通知又は債務者の承諾は,確定日付のある証書によってしなければならない(467条2項)。

ウ ★債務者の抗弁の対抗★

債務者が,譲渡人による債権譲渡通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由については,譲受人に対抗できるとした(468条1項)

債権が譲渡されていない状態であれば,債務者が債権者に対して主張出来る抗弁(支払いを留保ないし拒絶できる理由)が,債権の譲受人に対しては主張できなくなってしまうというのは,債務者に酷である(しかも債務者は債権譲渡自体に関与することはできない)。

3 あてはめ(簡易Ver

⑴ 本件では,に対する詐欺により,は取消権を有することを主張することで,の請求を拒むことができるか?

⑵ 保証人は,債務者が取消権を有する場合には,取消権の行使により債務を免れるべき限度において,債務の履行を拒むことができる(457条3項)。

   本件において,は,による詐欺を原因とする取消権を有し,本件売買契約を取消すことができることから,2000万円の代金支払債務を免れることができ,保証人であるもその範囲で履行を拒むことができる。

⑶ もっとも,からに債権譲渡がされているが,の履行も拒むことができるか。

   この点,債権譲渡がなされた場合であっても,譲渡の通知(対抗要件の具備)がなされるまでに生じた抗弁をもって債務者は,対抗することができる(468条1項)。

   そして,による詐欺は債権譲渡の通知よりも前に行われており,が取消権を行使するための原因は生じていたことが認められる。

   したがって,に対し,取消権を行使し,2000万円の代金支払債務を免れることができることから,保証人である取消権の存在を主張することで取り消し得る範囲で履行を拒むことができる。

検証調書(法三二一条三項)類推説とは

 写真は,報告文書に代わるものとして「検証の結果を記載した書面」に準じ,撮影者を公判期日にお いて証人として尋問し,それが真正に作成されたものであることを明らかにした場合に証拠能力が認め られるとする。即ち,犯罪事実をそのまま記録したフィルムは,事実→観察→記憶→記憶の再生→表現 という形をとることにおいて,目撃証人の供述と類似した性格を有すること,あるいは,写真は,一定 の場所からある出来事を報告するという機能の点において,人間が言語によってその情況を報告するの と本質的に異なるところはないこと等を理由に,現場写真はまさに供述証拠であるとし,さらに写真が 科学的正確さを持つといっても,それは撮影者がいつ,どこで,どのようにして撮影したかが明らかに されることを不可欠の前提としている,として,反対尋問にさらすことを証拠能力付与の条件と解する。