司法試験の勉強会

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【民訴法解説】攻撃・防御方法の提出時期について


 攻撃方法とは原告が訴えを理由づけるために提出する一切の申立て,主張,証拠の申出をいい,防禦 方法とは被告が訴えを排斥するために提出する一切の申立て,主張,証拠の申出をいう。


 ところで,このような攻撃防禦方法の提出につき,民訴法はいわゆる随時提出主義を採用している(民 訴法一三九条)。この随時提出主義は,口頭弁論の一体性を認め,結審に至るどの段階でも攻撃防禦方法 を提出できるとするものである。
これに対し,攻撃防禦方法の種類(請求原因,抗弁,再抗弁等)に応じ て弁論をいくつかの段階に区切り,各段階ごとに定められた種類の攻撃防禦方法を提出させる法定序列 主義(各段階ごとに同種の攻撃防禦方法をすべて出さねばならないので同時提出主義とも呼ばれる)があ り,かつてドイツでは訴訟促進を目的として,この主義が採用されたことがあった。
しかし,当事者が あとで攻撃防禦方法を提出できなくなることをおそれ,むやみに仮定主張等を提出するため,かえって 審理の遅延を招いたという。随時提出主義はこのような弊害を避けると共に,当事者に訴訟の進行に応じた主張立証を行なわせることによって,自由で活発な審理が行なわれることを期待したものといえる であろう。


 しかし,この随時提出主義を無制限に認めることは,当事者の怠慢による訴訟の遅延や,訴訟の不当 な引きのばしを認めることになりかねない。そこで民訴法は,この主義に対する制約も規定している。  
まず,当事者が故意又は重過失により時期に遅れて提出した攻撃防禦方法は,これを審理すると訴訟 の完結を遅延させる場合却下される(民訴法一三九条一項)。
次に,当事者が趣旨不明の攻撃防禦方法 を提出しておきながら必要な釈明を行なわず,又は釈明を行なうべき期日に出頭しない場合にも,時期 に遅れた攻撃防禦方法と同様の要件で却下される(同条二項)。
更に,準備手続を経た場合には,準備手 続で提出できなかった攻撃防禦方法は,それを審理しても訴訟を著しく遅延させない場合か,準備手続 で提出しなかったことに重過失がないことを疎明した場合でなければこれを提出することができない(民 訴法二五五条一項)。  
以上のような制約は,本来攻撃防禦方法を提出すべき責任を負う当事者がその責任を十分に果たさな い場合の制裁とでもいうべきものである。
したがって,このような制約が認められるのは,弁論主義が 適用される場合に限られ,職権主義のもとでは排除される。  
なお,右に述べた制約の外,弁論の制限があれば許された範囲外の弁論は一応留保されるし,中間判 決があるとその判断事項については,それ以前に提出できた攻撃防禦方法は,その審級では提出できな くなる。これらは,審理の整理のために認められる随時提出主義の制約ということができるであろう。