職業選択の自由についてわかりやすく解説
(一) 憲法二二条一項は,居住・移転の自由に加えて,職業選択の自由を宣明している。
このことは,土地 への繋縛,職業の固定化などの封建的身分拘束を否定し,私経済的活動の自由を明定したものであり, その意味からも,職業選択の自由は,居住・移転の自由と密接に関連するため,居住・移転の自由に包 含されるものと解されている。
職業選択の自由は,職業を選択することのみならず,営業活動を行うことの自由,すなわち,営業の 自由も含んでいるものと考えるのが通説である。
しかしながら,この通説的見解に対しては,二つの反 論がある。第一は,営業の自由とは,私的独占とか同業組合的規制を排除するという,制度としての要 請にとどまるもので,人権として把握されるものではないとする見解(岡田与好)であり,第二は,営業 の自由のうち,「営業をすることの自由」は憲法二二条の保障するところであるが,「営業活動の自由」 はむしろ憲法二九条の財産権の保障に包摂されるべきであるとする見解である。
(二) 憲法二二条一項は,職業の自由が「公共の福祉に反しない限り」保障される旨定めている。
公共の福 祉による人権の制約については,憲法一三条との関連で,憲法各条の人権規定にのみ適用があるのか, それとも,憲法二二条,二九条の如く,明文上公共の福祉による制約を認めている場合に限られるのか は議論のあるところであるが,憲法上の基本権を類別し,適正な人権の制約を考察することが肝要と考 えられるべきで,そのための各種の基準が論義されている。
職業選択の自由については,公共の福祉による制限がかなり広汎に認められている。有料職業紹介事 業を禁じている職業安定法三二条を合憲としたもの(最判昭和 25 年6月 21 日),小売市場の許可規制を 合憲としたもの(最判昭和 47 年 11 月 22 日),自動車運送事業の免許制を合憲としたもの(最判昭和 38 年 12 月4日)などの判例が存する。
(三) 最高裁は,職業の自由に対する社会,経済的規制に対しては,立法府の裁量を広く認めてきていた。
この原則を一般的に合憲性の推定の原則と称するのであるが,最判昭和 50 年4月 30 日に至り,薬局開 設に関して適正配置規制(距離制限)をなすことは立法府の合理的裁量を超えるものと判旨された。
この 判例は,勿論合憲性の推定の原則を否定するものではないのだが,距離制限に関して,これ以前になさ れた,公衆浴場法についての最判昭和30年1月26日,昭和37年1月19日,前記小売市場規制に関す る最判昭和 47 年 11 月 22 日などの合憲判断と対比するならば,注目されるべきものである。
この判例は,要するに消極的警察規制の合憲性の基準について,(1)重要な公益のため必要かつ合理的 であること,(2「) 他のより制限的でない規制手段」では立法目的が達せられないことの二つのメルクマー ルを掲げ,規制の目的とその手段についての,合理的関連性の原則を明らかにしたものであって,これ までの制例にみられなかった,規制の基準を示している。
(四) 憲法二二条一項は「何人も」職業選択の自由を享有する旨定めている。従って,原則として,外 国人にも職業選択の自由は認められるが,外国人に対しては特別の制限が加えられることもある。 外国人の財産権の制限の反射として,外国人の職業活動も制約をうける。