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内閣の総辞織とは?わかりやすく解説

一 意義


内閣の総辞職とは,合議体である内閣を構成する内閣総理大臣と,その他の国務大臣が,一体となって職を辞することをいう。

内閣総理大臣または国務大臣が,個別に職を辞することは総辞職にあたらない。

ただし,内閣総理大臣が辞職した場合は,後述のように,常に内閣の総辞職を伴う。


二 要件


憲法は,以下の場合に,内閣は総辞職しなければならないと規定する。

第一は,衆議院が,内閣不信任の決議案を可決し,または,信任決議案を否定し,かつ,一〇日以内に衆議院が解散されないときである(六九条)。なお,右の場合で衆議院が解散されたときも,解散の日から四〇日以内に衆議院議員の総選挙が行なわれ,その選挙の日から三〇日以内に国会が召集されるから(五四条一項),後記のとおり, 七〇条後段により総辞職することになる。

第二は,内閣総理大臣が欠けたときである(七〇条前段)。

第三は,衆議院議員の総選挙の後に,初めて国会の召集があったときである(七〇条後段)。

この他に,憲法は明定していないが,内閣が自発的に総辞職することも可能と解される。
(1) 六九条による総辞職衆議院が内閣を信任しないと表明した場合である。

内閣は,国会に対して連帯責任を負う(六六条三項)。そして,国会は,衆議院参議院で構成されるが(四二条),衆議院は,参議院と比べると,任期が短いうえに,解散によって,さらに短縮されることがあるため(四五条,四六条),より国民の意思を反映する民主的性格を有する。

そこで,本条は,衆議院が内閣を信任しないことを表明した場合に,内閣は総辞職すべきことを規定した。
(2) 七〇条前段による総辞職

国会によって指定された内閣総理大臣は,自ら,内閣の他の構成員である国務大臣を任命する(六八条 一項)。つまり,合議体たる内閣の中で,国会から直接指名されるのは,内閣総理大臣のみである。したがって,内閣総理大臣が欠けると,内閣の構成員のうちで,国会が直接指名した唯一のメンバーが欠けることになり,内閣総理大臣の指名を介して存在した,国会の内閣に対する信任の糸が切れ,信任の同一性が失われる。この失われた信任を回復するために,本条が内閣の総辞職を定めた。
(3) 七〇条後段による総辞職

内閣信任の母体である国会を構成し,かつ,内閣総理大臣の指名に関して優越的地位を有する衆議院のメンバーが,解散によって入替れば,内閣の信任の根拠がなくなる。そこで,内閣に対する新しい国 会の信任を確保するために,本条による総辞職が行なわれる。


三 効果


総辞職した内閣は,新たに内閣総理大臣が任命されるまで,引き続きその職務を行う(七一条)。

内閣は,行政機関の中で最高位にあるため(六五条,七三条,七二条),総辞職によって直ちに職務の執行を止めると,行政の継続性が失われ,国政に重大な障害が生じるからである。

ただし,総辞職後の内閣のメンバーは,新たな内閣総理大臣が任命されれば,その地位を去る運命にあるから,職務執行の範囲は, 行政の継続性を確保するために必要な,日常事務の処理に限定されると解される。

その他,国会が開会中であれば,国会は,他のすべての案件に先だって新たな内閣総理大臣を指名する義務を負い(六七条一項),閉会中であれば(七〇条前段の場合),内閣に臨時国会召集義務が生じる(五三条)。