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【ゼロからはじめる法学ガチ解説シリーズ】適正手続の保障とは?わかりやすく解説

憲法(以下法名略)31条の意義

31条は,「何人も,法律の定める手続によらなければ,その生命若しくは自由を奪はれ,又はその他の刑罰を科せられない。」と規定する。この規定は,人身の自由についての基本原則を定めた規定であり,アメリカ合衆国憲法の人権宣言の一つの柱とも言われる「法の適正な手続」(due process of law)を定める条項(この条項は,いかなる州も,法の適正な手続によらないで,何人からも生命,自由又は財産を奪ってはならないことを規定する。)に由来する。公権力を手続的に拘束し,人権を手続的に保障していこうとする思想は,英米法に特に顕著な特徴であり,手続保障の観点は,人権保障を考える上で重要な視点である。

適正手続の保障内容

31条の規定内容

31条は,法文では,①手続が法律で定められること(手続の法定)を要求するにとどまっているようにも読める。しかし,それだけではなく,②法律で定められた手続が適正でなければならないこと(手続の適正,例えば告知・聴聞の手続),③実体もまた法律で定められなければならないこと(実体の法定,罪刑法定主義),④法律で定められた実体規定も適正でなければならないこと(実体の適正)をも意味すると解するのが通説である。この解釈には有力な異論もあるが,通説の立場は,アメリカの適正手続条項の解釈にも一致し,人権の手続的保障の強化という見地から,ほぼ妥当なものと評されている。

手続の法定(①)

手続の法定とは,刑事手続は,法律によって定めなければならないことをいう(刑事手続法定主義)。31条にいう「法律」は,形式的意味の法律を指す。したがって,刑事手続に関する定めは,原則として,国会によって制定される法律によってしかなし得ない。ただし,77条1項は,「最高裁判所は,訴訟に関する手続,弁護士,裁判所の内部規律及び司法事務処理に関する事項について,規則を定める権限を有する」と規定し,この例外を定めているので,最高裁判所が規則によって刑事訴訟に関する手続を定めることは許される。

手続の適正(②)

手続の適正の具体的な内容については,33条から39条までの規定により具体的に定められている。31条により保障されるべき内容として重要なものが,「告知と聴聞」を受ける権利である。「告知と聴聞」とは,公権力が国民に刑罰その他の不利益を科す場合には,当事者にあらかじめその内容を告知し,当事者に弁解と防御の機会を与えなければならないというものである。
最高裁は,貨物の密輸を企てた被告人が有罪判決を受けた際に,その付加刑として,密輸に係る貨物の没収判決を受けたところ,被告人が,所有者たる第三者に事前に財産権擁護の機会を与えないで貨物を没収することは違憲であると主張した事案において,「第三者の所有物を没収する場合において,その没収に関して当該所有者に対し,何ら告知,弁解,防禦の機会を与えることなく,その所有権を奪うことは,著しく不合理であつて,憲法の容認しないところである」,「関税法118条1項は,同項所定の犯罪に関係ある船舶,貨物等が被告人以外の第三者の所有に属する場合においてもこれを没収する旨規定しながら,その所有者たる第三者に対し,告知,弁解,防禦の機会を与えるべきことを定めておらず,また刑訴法その他の法令においても,何らかかる手続に関する規定を設けていないのである。従って,前記関税法118条1項によって第三者の所有物を没収することは,憲法31条,29条に違反するものと断ぜざるをえない」と判示した(第三者所有物没収事件/最大判昭和37年11月28日刑集16巻11号1593頁)。
このように,判例は,告知と聴聞の権利が,刑事手続における適正性の内容をなすことを認めている。なお,この判例は,第三者の権利侵害を援用する違憲の主張に適格性を認めた事例でもある。

実体の法定(罪刑法定主義)(③)

実体の法定とは,罪刑法定主義を意味するが,この点に関しては,以下の事項が問題となる。

ア 政令と刑罰
政令による罰則制定の可否について,判例は,73条6号ただし書が規定する罰則の委任(政令には,特にその法律の委任がある場合を除いては,罰則を設けることができないことを規定する。)について,「実施さるべき基本の法律において特に具体的な委任」がなければならず,それが「広範な概括的な委任」であってはならないとしている(最大判昭和27年12月24日刑集6巻11号1346頁)。

イ 条例と刑罰
条例による罰則制定の可否についても争いがある。判例は,①刑罰は,法律の授権によってそれ以下の法令によって定めることもできると解すべきで、このことは73条6号ただし書によっても明らかであること,②条例は,法律以下の法令といっても,行政府の制定する命令等とは性質を異にし,むしろ国民の公選した議員をもつて組織する国会の議決を経て制定される法律に類するものであることから,条例によって刑罰を定めることも許される場合があり,具体的には,「法律の授権が相当な程度に具体的であり,限定されておればたりると解するのが正当である」としている(最大判昭和37年5月30日刑集16巻5号577頁)。

実体の適正(④)

実体の適正の内容としては,通常,a刑罰規定の明確性,b罪刑の均衡,c刑罰の謙抑主義等が挙げられる。
aについては,どの程度の明確性が要求されているのかが問題となる。この点につき,最高裁は,「ある刑罰法規があいまい不明確のゆえに憲法31条に違反するものと認めるべきかどうかは,通常の判断能力を有する一般人の理解において,具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれるかどうかによってこれを決定すべきである。」と判示した(徳島市公安条例事件判決/最大判昭和50年9月10日刑集29巻8号489頁)。

31条と行政手続

問題の所在

31条は,「その他の刑罰を科せられない」という文言からもわかるように,直接には刑事手続についての規定である。しかし,現代では,行政が生活の隅々まで介入し,国民の権利に重大な影響を与えるようになっているため,国民の権利保障のためには,行政権の発動についても,適正な手続によることが要請される。ただ,その根拠条文を31条に求めるべきかについては,説が分かれている。

学説

学説上,一般的には,行政手続にも適正手続の保障を及ぼす必要性がある以上,31条を直接適用し,又は,準用すべきであると解されている(31条適用ないし準用説)。ただし,すべての行政権の発動について例外なく適用されるとは解しておらず,例外があることは承認する。
少数説は,31条の文理を重視し,行政手続には31条が適用されないとする(31条不適用説)。もっとも,この説も,行政手続の適正に対する要請を否定するものではなく,各個別の人権規定,幸福追求権を保障する13条,憲法における法治国原理の手続的理解により,手続の適正が要請されるとする。
実際には,後記の行政手続法の成立によって,告知・聴聞を受ける権利が保障されることになった。

判例

最高裁は,告知聴聞の機会を与えることなく工作物の使用を禁止する処分を定めたいわゆる成田新法が,31条に違反しないかが争われた事案において,「31条の定める法定手続の保障は,直接には刑事手続に関するものであるが,行政手続については,それが刑事手続ではないとの理由のみで,そのすべてが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。しかしながら,同条による保障が及ぶと解すべき場合であっても,一般に,行政手続は,刑事手続とその性質においておのずから差異があり,また,行政目的に応じて多種多様であるから,行政処分の相手方に事前の告知,弁解,防御の機会を与えるかどうかは,行政処分により制限を受ける権利利益の内容,性質,制限の程度,行政処分により達成しようとする公益の内容,程度,緊急性等を総合較量して決定されるべきものであって,常に必ずそのような機会を与えることを必要とするものではないと解するのが相当である。」とした(ただし,この事案については,「本法3条1項に基づく工作物使用禁止命令により制限される権利利益の内容,性質は,前記のとおり当該工作物の三態様における使用であり,右命令により達成しようとする公益の内容,程度,緊急性等は,前記のとおり,新空港の設置,管理等の安全という国家的,社会経済的,公益的,人道的見地からその確保が極めて強く要請されているものであって,高度かつ緊急の必要性を有するものであることなどを総合較量すれば,右命令をするに当たり,その相手方に対し事前に告知,弁解,防御の機会を与える旨の規定がなくても,本法3条1項が憲法31条の法意に反するものということはできない」と判示した(成田新法事件/最大判平成4年7月1日民集46巻5号437頁)。
この判例は,行政手続について31条の適用があるか否か,どのような行政手続に31条の適用があるのかについての一般的な見解を明示するのを避け,行政手続に同条が適用又は準用される場合であってもという仮定の下に,その場合でも常に事前手続が必要とされるものでないことを示したものであると理解されている(判タ789号76頁)。

行政手続法

平成6年に施行された行政手続法には,行政処分等に関する手続に共通して求められる事項が定められている。不利益処分を行う場合には,原則として,名あて人について意見陳述のための手続(聴聞に限られてはいない。)を執らなければならないとされているが,例外規定も定められている(行政手続法13条)。
なお,そもそも,行政手続法の適用が除外される手続も多い(同法3条,4条等)。

補足

その他の条文

35条1項は,「何人も,その住居,書類及び所持品について,侵入,捜索及び押収を受けることのない権利は,第33条の場合を除いては,正当な理由に基いて発せられ,且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ,侵されない。」と規定し,「住居,書類及び所持品」について,恣意的な「侵入,捜索及び押収」を禁止している。38条1項は,「何人も,自己に不利益な供述を強要されない。」と規定し,不利益な供述を避けた場合にも,処罰その他法律上の不利益を与えることを禁じている。

35条,38条と行政手続の関係について

最高裁は,旧所得税法上の質問検査権(収税廷吏が税務調査に当たり納税義務者等に質問し,帳簿等の物件を検査でき,これを拒否した者には罰則が適用されるという制度)に基づく調査を拒否して起訴された被告人が,質問検査が,令状主義(35条)及び黙秘権の保障(38条)に反すると主張した事案において,「憲法35条1項の規定は,本来,主として刑事責任追及の手続における強制について,それが司法権による事前の抑制の下におかれるべきことを保障した趣旨であるが,当該手続が刑事責任追及を目的とするものでないとの理由のみで,その手続における一切の強制が当然に右規定による保障の枠外にあると判断することは相当ではない」と判示しつつ,質問検査は,①刑事責任の追及を目的とする手続ではないこと,②実質上,刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有するものではないこと,③強制の態様が,直接的物理的な強制と同視すべき程度にまで達しているものではないこと,④国家財政の基本となる徴税権の適正な運用を確保し,所得税の公平確実な賦課徴収を図るという公益上の目的を実現するために収税官吏による実効性のある検査制度が欠くべからざるものであることから,35条に反しないとした。また,38条による保障は,「純然たる刑事手続においてばかりではなく,それ以外の手続においても,実質上,刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続には,ひとしく及ぶものと解するのを相当とする」と判示しつつ,質問検査権の上記の特徴に照らして38条には反しない,とした(川崎民商事件/最大判昭和47年11月22日刑集26巻9号554頁)。

 

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