司法試験の勉強会

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(一行問題)他人の物の売買契約における売主と買主の間の法律関係について解説

例題 他人の物の売買契約における売主と買主の間の法律関係について説明せよ。

 

一はじめに

いわゆる一行問題については,まず原則ないし基本的法律関係はどうであるかを論じた後,そこから発展ないしは派生する問題点へと議論を進めることが肝要である。基本的なところをおろそかにしていきなり応用的なところを論じたのでは理解を示すことができない。また,多岐にわたる事項について論じる必要のある場合には,思いつくままに知識を羅列するのではなく,類型ごとに分けるなど整理して 論じると良い。 さて,本問であるが,1まず,他人の物の売買契約は有効であること,それを前提とした当事者間の 法律関係について論じ,2次いでその目的物の移転義務が不能である場合の売主と買主の間の法律関係すなわち売主の担保責任について論じることとなろう。
以下,具体的に見る。

二 他人の物の売買の有効性と売主の財産権移転義務

他人の物を売買契約の目的として契約を締結した場合も,その売買契約は原始的不能として無効となるのではなく,有効である。
このことは,民法五六〇条において,売主には他人の物の売買において他人から目的物を取得して買主へ移転する財産権移転義務が課されていることから明らかといえよう。
契約成立当時から目的物の所有者に譲渡する意思が全くない場合,売主の買主に対する目的物の財産権移転義務も当初から不能であり,売買契約は原始的不能により無効ということになりそうであるが, 五六一条以下の規定から分かるように,民法はこの場合も売買契約は有効であるとし,売主は買主に対して後述する担保責任を負うこととして処理している(最判昭和 25・10・26 民集四巻一〇号四九七 頁参照)。
以上,他人の物の売買も有効なのであって,売主としては有効を前提として,まず,その物を所有者から取得して買主に移転する義務を負い,移転が不能であるときには買主に対して担保責任を負うこととなるのである。
ここで,移転が不能であるかどうかは取引の通念によって決まるとされる。
不能とされる典型的な場合として,不動産を B が A から買って C に売る契約をしたが,A から B への登記をしないうちに A が 第三者に売って登記をしてしまった場合などが考えられよう。
次に,移転が不能である場合の売主の責任について見る。

三 売主の担保責任

財産権の移転が不能である場合は,売主が買主に対して五六一条以下に規定されている担保責任を負うこととなる。
この担保責任の性質については争いがあるが,通説は,本来契約が原始的不能により無効となるところ,有償契約における両給付の等価的均衡を維持するため,法律によって特にこのような責任を認めたものだとしている(法定責任説)。
そして,担保責任の内容としては主に,1代金減額請求権,2契約解除権,3損害賠償請求権,4除斥期間等が問題となるので,本問でもこれらについて論じる必要がある。
ところで,他人の物の売買といっても,権利の全部が他人に属する場合と権利の一部が他人に属する場合が考えられる。本問では,後者は簡単に触れておけば足りるであろう。
①権利の全部が他人に属する場合
(一) まず,買主は,目的物が他人に属していることを知っていたか(悪意)いないか(善意)にかかわらず,契約を解除することができる(五六一条)。
買主は当然に購入の目的を達しえないから,つねに解除権が発生するのである。 また,目的物が他人に属していることを知らない(善意の)買主は損害賠償を請求できる(同条)。
解除とあわせて損害賠償を請求することも可能である。
損害賠償の範囲については学説上争いがあるが,一般に前述した法定責任説においては,「その瑕疵がなかったと信頼したことによる利益の賠償」すなわち信頼利益の賠償(例えば,契約を解除した場合であれば契約書作成費用や準備費用)に限られ「,瑕疵のない物の給付がなされたなら受けたであろう利益」 すなわち履行利益(例えば,目的物転売による利益)の賠償を含まないとされる(最判昭和 57・1・21 民集三六巻一号七一頁参照)。
なぜなら,法定責任説において,瑕疵のない特定物ということはありえず, それを前提とする賠償も考えられないからである。
また,悪意の買主は,五六一条によっては損害賠償は請求できないが,不能債務不履行の要件を満 たしているならば,五四三条によって損害賠償を請求できる(最判昭和 41・9・8 民集二〇巻七号一三二五頁)。
なお,権利の全部が他人に属する場合については,代金の(一部)減額ということは問題とならない。 五六一条の解除及び損害賠償の請求には期間制限がない。五六三条の場合と異なり,権利が他人に属することの証明は容易であるから,短期間の権利行使は必要ないとされたものであろう。
(二) 他方,売主の側においても,売主が善意である場合には,悪意の買主に対しては移転不能の通知のみで,善意の買主に対してでも損害賠償を提供した上でなら,売買契約を解除できる(五六二条一,二項)。 これは,買主が解除しないままでいると,売主にとっては履行できない状態で売買契約が存続し不安定な状態におかれるため,その解消の方途を売主側に認めたものである。
②権利の一部が他人に属する場合
買主は,善意・悪意を問わず,権利の移転し得ない部分に相当する代金の減額を,既に支払ったときはその返還を,売主に対し請求できる(五六三条一項)。
善意の買主は,移転できる部分だけであったなら買わなかったであろうという事情がある場合にだけ, 契約の全部を解除できる(五六三条二項)。
買主にとって残部のみの取得が無意味とは限らないからである。
善意の買主は損害賠償を請求することができる(五六三条三項)。
代金減額を請求できる場合や契約を 解除できる場合でもあわせてなすことができる。
これら買主の売主に対する担保責任追求については,買主が善意のときは売主が権利を移転できないという事実を知った時から,悪意のときは契約の時から,それぞれ一年以内に行使することが必要である(五六四条)。
この期間の制限は権利関係を早く決済しようという趣旨とされているが,期間の性質については学説上争いがある。
判例は,この期間を除斥期間と解しつつ,期間内に権利を裁判外で行使すれば,そこから一般の消滅時効(一〇年)にかかるまで当該権利は存続するとしている。