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法の下の平等(憲法一四条一項)とは?わかりやすく解説

 

憲法一四条一項の意義


憲法一四条一項前段にいう「法の下の平等」の意義については,法律が平等に適用されるべきことを要請する原理を定めたものであること(法適用の平等)に異論はないが,加えて差別を内容とする法律の制定を禁止する趣旨までをも定めたものか(法の平等)どうかについては見解の対立がある。
その趣旨まで含むとするのが立法者拘束説であり,法適用上差別されないというにとどまるとするのが立法者非拘束説である。
立法者非拘束説からは,同項前段と後段との関係につき,後段列挙事項に関してだけは立法者も拘束され,その拘束は絶対的もので差別立法は絶対的に禁止されるとする。
これに対し,立法者拘束説は, 一般にはいかなる差別も禁止されるわけではなく合理的根拠に基づく差別は認められるとし,後段の意味については,①後段は前段の「法の下の平等」を再言しそれを具体的に指示するものであるとか,後段は全くのあるいは単なる例示にすぎないとかと説明し後段に独自の意味を認めない見解,②後段は原則として差別が禁止される事項を例示するとか,後段列挙事項に該当する差別は合憲性の推定が排除され合憲性を主張する側にその立証責任があるとかと説明し後段に独自の意味を認める見解,更にすすんで③後段列挙事項に限っては立法者も絶対的に拘束されるとする見解(但し,そのうちには差別禁止の絶対性を多少緩和する見解もある)に別れる。
立法者非拘束説に対しては,法律の内容が不平等でもよいというのでは平等原則の人権思想史的背景を無視することになるし,「法の下の平等」というときの「法」には憲法も含まれるので立法者にも拘束が及ぶのではないかとの批判が向けられている。
更に,後段の意味については,立法上の差別禁止事由を後段列挙事項に限定するのが適当ではない反面,後段列挙事項についても差別立法の必要性がある場合もある(例えば女子の労働保護規定)との批判がなされている。
立法者拘束説に対しては,合理的根拠に基づく差別と不合理な差別とを区別する確かな判断基準を設定することが困難であるとの批判がなされる。
更に,③の見解に対しては,立法者非拘束説に対するのと同じく,後段について絶対性が貫徹できるのかとの疑問が投げ掛けられている。
判例・通説は,立法者拘束説の①の見解によっていると思われる(憲法一四条一項は国民に対し法の下の平等を保障したもので,後段列挙事項は例示的なものであり,本条項は国民に絶対的平等を保障したものではなく差別すべき合理的理由なくしての差別を禁止し事柄の性質に即応して合理的と認められる差別的取扱いをすることを否定しない旨が判示されている)。

差別の合理的根拠の判断基準


判例・通説によるとして,合理的根拠に基づく差別であるか不合理な差別であるかをいかに判断するかが問題となる。 第一関門として,人格の価値がすべての人間について平等であり,従って人種・宗教・男女の性・職業・社会的身分等の差異に基づいて,あるいは特権を有しあるいは特別に不利益な待遇を与えられてはならぬという大原則に反するかとの基準があり,第二関門として,法のとる具体的措置が国民の基本的平等の原則の範囲内において,各人の年齢・ 自然的素養・職業・人と人との間の特別の関係等の各事情を考慮して,道徳・正義・合目的性等の要請より適当なものであるかの基準があるということになる。
そして,特に第二関門の判断にあたっては, 前掲最判昭四八・四・四は,その第一段階として立法目的の合理性(立法の必要性)を判断し,第二段階 として立法目的達成の手段の合理性(規制方法と立法目的との関連性)を判断するものとしている。
このような判断基準に従うとしても,合憲性の挙証責任ないしその程度をどう考えるのかとの問題がある。
権力分立の原理からいって立法府の決定は恣意的ないし不合理だといえるほど明白に誤りである場合に限って裁判所でくつがえすことができるとするなら,立法の合憲性を争う側が挙証責任を負うことになり,立法目的が公共の福祉の増進に何ら役立たないか,役立つとしても目的のためになされる差別的取扱いが純粋に恣意的であるかを挙証しなければならないことになろう。
しかしながら,立法が基本的人権の重大な制限を伴う場合には,むしろ公権力に対してきわめて重い正当化の挙証責任を負わせ, やむにやまれぬ立法目的の達成のために別異の取扱いが必要不可欠であるのかを厳格に問うべきであろう。
いずれの方法によるのかあるいはこれらの中間的な方法に従うべきなのかは,結局,差別の理由となっている事項,差別的取扱いによって制限を受けることになる基本的人権の種別によって決まってくることになろう(ちなみに,立法者拘束説の②の見解は後段列挙事項か否かを選択基準とするものである)。


後段列挙事項の意味

 

立法者拘束説の①の見解によれば後段列挙事項の意味を明らかにする必要は乏しいが,他の見解によればその定義を明確にしておく必要がある。
「人種」とは,人間の人類学的種類をいう。
「信条」とは, 本来は宗教的信仰を意味するが,それ以外に人生ないし政治に関する根本的な考え方ないし信念も包含すると解されている。
「性別」とはいうまでもなく男女の別をいう。
「門地」とは,人の出生によって決定される社会的地位をいう。
そして,「社会的身分」の意味については「門地」との異同をめぐって争いがあり,門地とほぼ同義とする見解,広く人が社会において一時的ではなく占めている地位とする見解,後天的に人の占める社会的地位にして一定の社会的評価の伴うものとする見解に別れる。

 

憲法一四条一項に関する判例


代表的な判例として,前掲最判昭四八・四・四は,刑法二〇〇条が尊属殺人を通常の殺人と区別しその法定刑を死刑または無期懲役刑に限っていることにつき,立法目的は合理的根拠を欠くものと断ずることはできず憲法一四条一項に違反するということもできないが,刑罰加重の程度が極端であって立法目的達成の手段として甚だしく均衡を失しその差別は著しく不合理なものといわなければならず憲法一 四条一項に違反して無効であるとしなければならない旨判示した。
すなわち,前記二の第二関門の第一基準ではなく第二基準の点で違憲と判断したものであり,したがって最判昭四九・九・二六は刑法二〇五条二項の尊属傷害致死の規定については右第二基準に適合するとして合憲判断をしている。
次に,議員定数配分規定の合憲性をめぐっての一連の判例(最判昭五一・四・一四,最判昭五八・一一・七,最判昭六〇・一・一七)に注意する必要がある。
選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差のため各選挙人の投票の有する影響力すなわち投票価値に不平等が生じ,それが国会において通常考慮しうる諸般の要素をしんしゃくしても一般に合理性を有するとは考えられない程度に達しているときはその較差は国会の合理的裁量の限界を超えていると推定されるが,直ちに違憲になるものではなく憲法上要求される合理的期間内の是正が行われないときに初めて違憲となるとされている。